(74)王女の呼び声
俺は琴莉さんを守るために、再び店長との戦闘に臨んだ。
店長の操るアバター「ゼファー」の攻撃力は凄まじく、当たれば簡単に一撃で全ての体力を持っていかれる。
体力を削る攻撃は持っていないのだけが幸いで、ガードに徹すればノーダメージ、しかも太刀筋はまだまだ素人の域を出ていない。
落ち着けば十分に凌げる攻撃ではある。
「(あと、12分……! 長ぇな、くそ!)」
現在の時刻は午後6時48分。
イベント終了まで後、12分。
だが、生死を掛けた戦闘での12分は、絶望的に長い。
拳銃を持った相手から12分間逃げ延びて下さい、と言われるようなもんだ。
「ふっ!」
俺は、敵の雑な攻撃に「ジャストガード」を合わせ、体勢を崩して剣を打ち込むが、やはりダメージは与えられない。
「キリシマ、お前ェエェェッ! ナメてんのかお前! 誰に向かって、何してるのか分かってんのか!」
「分かってるよ! ってか、これがゲームだって分かってないのはテメェだろうが、ボケ!」
店長が散々威嚇してくるが、全て無視して剣を叩き込んだ。
「店長! そいつと戦っても無駄です!」
「そうです! 彼は実は『ゲーマー』で、この世界では恐ろしく手強いです! ここはクイーンを倒す事に集中しましょう!」
毒と麻痺から復帰した保科と野口さんが、そんな事を店長に呼びかけた。
……お前等、余計なこと言ってんじゃねーよ!
頭に血を上らせていた店長も、保科たちの説得で多少冷静になったのか、俺から距離を取り、再びティアリに襲いかかろうとする。
「逃げんのかよ! はっ、俺の勝利決定ぇー!! 弱ぇーな店長! カス! クソ! ゴミ!」
だが、滅茶苦茶に煽っても、店長は一切それを無視して、ティアリに襲いかかろうとした。
「コマンド! フレイムバルカンッ!」
なので、俺は火炎弾の嵐で、全員の動きを止め……。
「余計な事言ってんじゃねーよ、テメェ等!」
オリオンとフィールドマウスを、再び「麻痺+毒」の状態に陥れた。
「キリシマ、お前ぇぇぇっ!」
「桐嶋くん! 貴方って人は……!」
「うるせーよっ! 簡単に人の名前呼んでんじゃねーよ、保科! 野口ッ!」
戦闘の最中、俺たちは遂にお互い守ってきた「最後の一線」を越えた。
絶対に破ってはならない、ネットの中でのリアル暴露。
王室の中に居た連中は、先の「ブラック・テンペスト」で一掃されているから、今ここに居る部外者は、王室の外から、この戦闘を傍観している連中だけだ。
でも、数こそ少ないが、間違いなく今の会話は聞かれた。
……くそっ!
『きゃーっ!』
琴莉さんのアバター、ティアリがゼファーに攻撃され、そんなダメージボイスを上げる。
それを操作する琴莉さんは、もうどうしていいのか分からない、と言った感じで、タブレットの画面を凝視したまま指を震わせていた。
「(マズい……!)」
そう思った俺は、琴莉さんに声を掛ける。
「ティアリ、操作を!」
だが、琴莉さんは全く動ける様子ではなかった。
「もらったぞ! 死ね!!」
店長の連続攻撃を受けたティアリが、後一撃で倒れる……と予感したその時。
ティアリのアバターが宙空に浮き、淡い水色に輝いた。
「!?」
「何だ!?」
そして、彼女を中心に、次々と現出する淡い光。
「な、何だこれ?」
「いきなり何だ!?」
「つ……釣っちゃ、釣っちゃったぁっ!?」
「何言ってんだエナリス……!? どこだ、ここは!? 王室か!?」
「ムラサメ!?」
「レオ!?」
光の中から現れたのは、数多くのアバター群……というか、ムラサメとその仲間達だった。
「何だこれは!?」
狼狽する店長に、
「店長、これは多分『クイーン』のスキルです! 体力が半減すると、生き残っている『ナイト』を王室に召還する能力があるんですよ!」
「何だと……!?」
そう助言する野口さん。
そうか、確かにそんなスキルがあった!
それでムラサメ達がここに召還されたんだ!
体力が半減すると発動するはずのスキルの効果がやたら遅かったのは気になる所だが、多分通信速度によるラグだったんだろう。
でも、これで助かった!
そう……そうだよ、このイベントでは、クイーンを倒せないように設計されてたはずじゃないか……!
10余人を越える敵を相手にして、いかな店長とて、勝てる訳がない!!
「どけッ、クソガキども! 邪魔すると殺すぞ!」
だが、店長にはそんな事は全く関係がなかった。
「ああ? なんだテメ……」
琴莉さんを倒そうと、突進する店長。
たまたま、その直線上に居たアバターは、まるで紙屑のように次々と斬殺された。
「うわあああああっ!」
「なんだよこれ! 何で一撃で死んでんだよ!?」
「ああああっ!?」
そして、『王室で死ぬと、クイーンの体力を回復させる』というナイトのクラススキル「ラスト・オブ・ナイト」によって、ティアリの体力は一気に回復していった。
そして、ティアリの前に最後に位置するのは、ムラサメだった。
「……ムラサメ!!」
万感の思いを込めて、俺は呼んだ。
琴莉さんの手前、一言しか発声できなかった。
こいつは最強最悪のアバターだ。
何故か攻撃が通用しないし、見ての通り、俺たちを一撃で殺せる攻撃力を持っている。
気をつけろ。
お前でも相当にヤバいアバターだぞ……!!
そういう思いを込めて、呼んだ。
豪快に繰り出される、ゼファーの大上段。
だがそれをムラサメはバックステップして避けた。
「……気をつけろ、みんな! この『ゼファー』ってアバター、攻撃力も防御力も素で2000を越えている! 決して交戦するなよ! 周りから、魔法で削るんだ!」
その思いが通じたのか、それとも「エネミー・アナライズ」で要警戒の相手だと察知したのか、ムラサメと手下のリント、エナリスは距離を取って、防御の体勢へと移行した。
……やっぱり流石だぜ、ムラサメ!
ゲーマーってのはそうでなくちゃ!
「行け! 魔法で削れ!」
「スクロール! ライトニング・ブラスト!」
「コマンド! ファイアー・ボール!」
「スクロール! パーガトリー・フレイム!」
ボイスコマンドによる、魔法の大詠唱。
それらが画面中央に居るゼファーに向けて、一気に放たれた。
……いや、待て!
「気をつけろ! そいつには、魔法も通用しないんだ!」
「……何ッ!?」
そう。
この敵には、何故か魔法も通用しない。
それを実証するかのように、爆炎の煙の中から、ゼファーは無傷で現れた。
「何だいこいつ……!? 魔法が全く通用しないって、どういう事なんだ!?」
「理由は分かんねぇ! だけど、攻め手が見つからないんだ! 頼む! 残り時間を耐えてくれ!」
「はっ、相変わらずピンチに巻き込んでくれるね、お前は……! この代償は高くつくよ!」
「邪魔するな、雑魚どもが!」
ゼファーが、琴莉さんを殺そうと、一気に突進してくる。
「ティアリ! 移動してくれ! 的を絞らせちゃ不味い!」
「わ、分かったわ!」
ようやく動けるようになった琴莉さんは、ゼファーの的にならないよう、部屋の外周を駆け回る。
そしてそれを追いかけるゼファーと、追いつ離れつして邪魔するムラサメ軍。
「気をつけろ、みんな! 奴の攻撃は徹底して防御しろ! 倒れた仲間は回復させろ!」
ムラサメは的確に指示を飛ばし、さっき斬り倒された3人も、ムラサメ軍の別の連中が回復してくれた。
復帰するまでの90秒は長いが、耐え切れればなんとか……なるかもしれない!
「ちっくしょ、逃げたいのに……」
「王室の入り口、紅組で埋まってるし……」
「文句言うな、リント、エナリス! さっさと働け!」
「は、はぁぁい」
盾を持つリントとエナリスは、文字通りムラサメの盾となって動きまわり、その間隙を縫って、ムラサメはゼファーに突きを見舞う。
「バカな……!?」
だが、ピン、ピンという音を立てて、ムラサメの攻撃すら無効化された。
「どういうことなんだ、これは!?」
ムラサメが、困惑の声を上げる。
ムラサメは、ジョブ「エクスキューショナー」によって、PKプレイヤーに対する攻撃力が大幅に増加している。
結果、ムラサメの攻撃力は、3500を越え、ゼファーの2000を越える防御力すら凌駕しているのだ。
だのに、何故攻撃が通じない?
……これは、通常の防御力とは別のロジックに寄って護られている、としか考えられない。
「ははは! お分かりでしょう!? あなた方ゲーマーが、いくら束になろうが、我らが『ゼファー』には勝てませんよ! 無敵なんです!」
そこに、ダウン状態から復帰したフィールドマウスが襲いかかるが、
(※フィールドマウスは、麻痺していた所をムラサメ軍の連中に斬られて再度死亡したが、王室入り口に固まっている仲間から回復してもらい、90秒が過ぎて復帰した……が、描写は省略)
「サザンナイト・エクスプレス!」
「そんなぁああっ!?」
攻撃力3500を誇るムラサメのブレードアーツは、フィールドマウス相手にはちゃんと機能した。
一撃で相手を葬り去る斬撃を何枚にも重ねた、オーバーキルのブレードアーツは、奴のHPもまたも一瞬で全損させた。
これは……間違いない。
方法は分からないけど、店長も通常の枠外の戦法……チートを使っている。
そうだとしか思えない。
じゃあやはり……。
俺たちは、残り時間を耐えて護るしかない、のか。
くそっ……。
倒せないのか、こいつは……。
打開策は、何もないのか……?
ゲームには、必ず攻略方法が残されている、はずなのに……。




