(69)道標
DATE : H27.2.4
TIME : 18:22
STID : 00941724,A0000021
俺は琴莉さんに「エクスヒーリング」で体力を回復してもらった後、再び白薔薇城正門前に降りてきた。
だが、フィールドマウス不在の戦闘は既に大勢が決し、数に勝るはずの紅組は全滅、二回戦目も再び白組が勝利を納めた。
「遅かったなレオ、もう終わっちまったぜ」
「そうみたいですね、先輩」
「フィールドマウスには逃げられたけど、まぁ、ここで無理する必要はねぇしな」
南原先輩こと「Bara」、西川先輩の「GunーBlaze」が綽々たる様子で言ってくる。
「でも、本当ありがとうございます。 助かりました」
「何、良いってことよ、可愛い後輩のためだしな」
戦闘は完全に終了したが、いつまた援軍がやってくるかは分からない。
俺は画面の隅に佇むムラサメの姿を注視していたが、奴は手下に何か叱責すると、俺の方には目もくれずに去っていく。
俺の隣に、琴莉さんが居ないという異変は見て分かっていただろうに……。
「おいレオ、この先は城の中で防御に備えようぜ」
「防御ですか? このまま、打って出た方が良いんじゃ……」
「いや、さっきのフィールドマウスとの戦闘でさ、結構回復薬とか使っちゃったんだよ。 だから、城内で相手の不意をつく戦い方が良いと思うんだよな」
「そうだよな、正面切って戦うのは結構不安だし」
「そう……ですか?」
先輩のその発言に、俺はちょっと違和感を感じた。
さっき、フィールドマウスはあまり交戦する事なく、早々に撤退したような気がしていたからだ。
「(……でも、元々資材が少なかったのかもしれないしな)」
窮地を救われた立場上、あまり強くは出られない。
それに、冷静に考えて、先輩の言葉は妥当だと思えた。
ムラサメとその手下達は去った後だし、俺と先輩二人とじゃ、相手を待ち伏せして抗戦した方が時間を稼げるかもしれない。
「そう……ですね、分かりました、城内で戦いましょう」
「そうこなくっちゃ」
そして俺たちは、白薔薇場内に戻り戦うことにした。
DATE : H27.2.4
TIME : 17:50
STID : 03290588,04294001
中世ヨーロッパの山城は、その多くが要塞としての性格を持ち、侵攻を事前に察知するための「監視塔」が設置されていることが常である。
このゲーム内においても、山城である「白薔薇城」は同様の構造を採用していた。
「ジャンヌ」と「ジル」という、二人の若い女性……一人は男性型アバターだが……は、その「監視塔」がベストロケーションだと分かっていたものの、いかんせん紅組だったため、代替地となる近隣の絶壁に登るのが少し遅れた。
だがそれでも、白薔薇城城門前での戦闘を俯瞰で観察するには十分だった。
颯爽とした表情の女性型アバター「ジャンヌ」に対し、陰鬱げな表情の男性型アバター「ジル」が、低い声で、しかし自信満々に言った。
「ほら、白組が勝ったでしょ?」
「意外~。 何でホントに紅組負けてるの?」
「『烏合の衆』と『組織』の違いだよ。 数だけ多くてもダメってこと」
「そりゃ、プロの前には、素人が何人集まろうと同じかもだけど……でも、それを言えば白組だって同じじゃないの?」
「『目的』が違うんだよ」
「目的?」
「ジル」は、先日発売して即完売した菓子「リヴァイアサン・ウェハースチョコ」の話題を間に挟んでから、会話を続けた。
「紅組に入った人の目的は大半が『クイーンを倒して50万円を手に入れる』ことだと思うんだけど、それってかなり無理な条件だと思うんだよね」
「うん、クイーンを倒そうとしたら、ナイトが沢山出てくるからでしょ?」
「そう。 で、クイーンを倒すことを諦めた人は、どうやってお金を稼ごう、って考える?」
「ジャンヌ」は、ちょっと考えてから返事をした。
「えっと……雑魚を大量に狩る、かな?」
「その通り。 で、そう考えたのが、さっきの戦闘に居たあの『ラブデス』って奴」
「アイツ、スゴいキモい顔してたよね」
「はいはい、あんたは可愛い顔してるよ」
「雑ねぇ、もっと丁寧に誉めてよ」
「そんなの、合コンで男どもに言ってもらえば? ……で、あの『ラブデス』は、あの隕石魔法のシールを手に入れた時、より多くの獲物を狩るために、白組に入ろうと思いついた訳」
「なるほど、紅組をより多く倒すために白組、か。 じゃあ、白組の方が強い人多いってこと?」
「……なんでそんな理解になるのかなぁ。 もっとよく考えなよ、現状の情報だけで、この先の展開は、ある程度推測できるよ?」
「だから、あたしそういうのは苦手なの! そういう面倒くさい事を考えるのは、アンタの役目だって!」
「はー……もう」
「ジル」は深くため息をつくと、ぼそりと小さく続ける。
「だからさぁ……。 何のゲームでもそうだけど、対戦相手の意図が分からないと、負けるんだって」
「何か言った?」
「何にも」
「でさ、これから私達はどうすれば良いの? 戦闘しないの?」
「もうちょっと見物だよ。 チェックしておきたいプレイヤーもまだ居そうだし、ラブデスを狩るのはその後……」
だが、「ジル」の口調が、そこで一変した。
「ちょっと、ジャンヌあれ見て! あの、監視塔の上!」
「何、どうかしたの?」
「誰か居る!」
「それが、どうかしたの?」
急に焦りだしたジルの態度の理由が掴めず、ジャンヌはその意図を問いただす。
「『エネミー・アナライズ』のスクロールがあったら、使って! あたし達と、同じ事を考えている奴が居たんだよ。 このイベントの正解にたどり着いた奴が!」
DATE : H27.2.4
TIME : 18:25
STID : 00941724,00060863,00053289
俺たちは白薔薇城内で、襲い来る紅組を次々と撃退していった。
「後続が来たぜ! レオ、南門に集合だ!」
「了解しました、そっちに向かいます!」
「分かったぜ、粘れよ『Bara』!」
「Bara」……南原先輩の指示で、北門に居た俺と、西門に居た「GunーBlaze」こと西川先輩は、侵入者が来た南門へと突っ走る。
信じ難いことに、城内……いや、少なくとも門を守る外壁周辺には俺たち以外、誰もいなかった。
「(……何でだよ)」
正直、拠点に誰もいないというこの状況は、俺にはちょっと理解不能だった。
白組を選んだ連中は、一体何を基準にして白組を選び、そして今どういう心理なのだろう。
城に籠もるのは、そんな不利な選択肢なのか?
歯がゆい気持ちを胸に、俺はアバターを疾駆させ、南門へとたどり着いた。
「お待たせしました!」
「頼む、レオ! 今度の相手は3人だ!」
「隠れます! ちょっと下がってください!」
「分かった!」
南原先輩を押しまくる3人だったが、通路では一人を「囲む」ことは難しい。
もちろん、南原先輩が囲まれないように立ち回っているのもあるのだが、おかげで、一番先頭以外の奴は手薄になる。
狙うべきは挟撃。
城内の調度品に隠れていた俺は、戦線が下がったのを見計らって、後ろから切りかかった。
「うわぁっ!? こんな所に隠れてたのかよ!?」
俺に斬られたアバター名は「ガイオム」。
俺は反撃の暇を与えず、ブレードアーツで一気に麻痺させる。
そして、麻痺して棒立ちになった「ガイオム」を防壁代わりにして立ち回り、もう一人の「アンジェス」も麻痺させた。
「こ、この……ちょこまかと!」
ここらへんは、ゲームの経験値が物を言う。
戦国時代や喧嘩自慢のヤンキーならいざ知らず、現代社会において「個人が集団を相手取って闘う」という経験は、誰もが殆ど持たない。
この「広く視野を持ち、先を予測しながら相手を誘導して闘う」という技術は、おそらくはゲーマー特有のものではなかろうか。
とにかく、「ガイオム」と「アンジェス」の動きは、一般人のそれだと断言できた。
「助かったぜ、レオ!」
「どういたしまして!」
俺が二人の動きを止めた事で、防御一辺倒だった先輩は、急に攻勢へと転じる。
「待たせたな、お二人さん!」
そこに、西川先輩も駆けつけ、残る一人に的確な弓の射撃を浴びせる。
「ぐおおっ!?」
そして俺は、最後の一人を麻痺させるべく切りかかる。
ウインドウに浮いた敵プレイヤーのアバターネームは「ウルタン」だった。
「……レオ!?」
驚愕するウルタンの声。
俺も、つい驚きに声を上げそうになった。
フローズン・タランテラ戦で、俺を後ろから斬った男。
脳裏に浮いたイメージは、学内のメインストリートでぶつかった、あの巨漢の短髪だった。
「またお前か、レオ! 俺の邪魔するんじゃねぇよ!」
「何言ってんだよ、お前! 邪魔とか……!」
これは公式のPK戦だぞ!
お互い、正々堂々戦えばいいじゃねぇか!
だが、それを口にする機会はなかった。
マクロで放ったブレードアーツを途中で止められるはずもなく、ウルタンはあっさり麻痺した。
「よっしゃ、これで全員麻痺ったぜ! 一気に行くぞ!」
南原先輩の騎士系アバター「Bara」は、剣撃の嵐……ブレードアーツを繰り出して、身動きできない皆をメッタ斬りにし、
「ちくしょう、麻痺武器かよ……汚ねぇぞ!」
「あああ、せっかく課金したのに!」
「て、てめぇ、レオ……! またか、この野郎!」
断末魔の叫びを上げ続ける「ガイオム」、「アンジェス」、「ウルタン」の3人を一方的に撃破した。
「覚えてろよ、レオ! また損させやがって!」
それが消滅していく「ウルタン」の最後の言葉だった。
「(何が、覚えてろ、だよ……)」
ウルタンの気持ちは分からないでもない。
こいつらは、「ナイト」「ポーン」の課金クラスを選択していた。
まともに戦う事もなく、課金したお金をあっさり失ったとあっては、恨み言の一つだって言いたくなるだろう。
だけどこれは、そういう「ゲーム」だ。
それを理解した上で……なおかつ望んでこの勝負の世界に飛び込んだはずのなのに、なぜ恨み言なんて言うんだろうか?
昔、格ゲーで圧倒的にボコられて、逆ギレする阿呆野郎には、ゲーセンで何人でも出会った。
ウルタンの奴も、そいつらと同じ部類の人間なのだろう。
ゲーマーと一般人がゲームで戦って、勝てる訳がないのに。
「あー、もったいねぇー」
だが、ウルタンとの戦闘で体力を減らしていた南原先輩は、俺のそんな葛藤など気づいてもなさそうな気楽な口調で、「回復薬スーパー」を飲んだ。
「……どういう事ですか、もったいない、って」
「え? だって、このイベントじゃ、装備を奪えないじゃん。 なのに、資材を使って戦闘し続けるのって、割に合わねーなー、って」
その発言を聞いた琴莉さん……プレイの邪魔にならないよう、静かにしていてくれた……が、そこで口を挟んできた。
「……礼雄くん、この人たち、先輩なんだよね? まるでレッドプレイヤーみたいな事言うね」
俺は鋭い所を突かれ、一瞬何と答えたもんかと躊躇したが、
「ああ、うん、ゲーマーだからね、この先輩たち。 容赦ないんだ」
そう言って誤魔化した。
琴莉さんの直感は正しく、実際に先輩方は、ほぼレッドプレイヤーも同然だ。
ここには居ない、北大路先輩の「バストーク」が実際に手を下す汚れ役で、南原先輩と西川先輩は交渉役。
3人で一組のPKチームなのだ。
だけど、それをありのままに言うのは躊躇われた。
先輩方を貶めるような発言はしたくなかったし、俺がレッドの人間とつき合いがあるのを、琴莉さんに伝えるのは抵抗感があったのだ。
それはそれとして、俺がわざわざ「もったいないとはどういう事か」と聞き返したのには、理由があった。
『あーやべ、もう資材ないわー。 ここらへんが潮時かなー。 悪いレオ、俺たちここらへんでお暇するわ』
俺が想像する、いつもの南原先輩たちのリアクションはこんなだ。
「……何で、こんなに残ってくれてるんですか、南原先輩」
「そりゃお前、ここで踏ん張らないと負けるだろ? お前のためを思ってだよ、レオ」
だが実物の南原先輩のリアクションは、これだった。
そして、違和感は根強く残っていた。
南原先輩と西川先輩は、こんな義理堅い感じじゃない。
もっと利害に聡く、要領と調子の良い人なのだ。
「『Bara』、俺はまた西門に戻るぜ。 さらに後続が来るかもしれないからな」
しかし、先輩たちの助力はとてもありがたかった。
次々来る後続を倒し続け、琴莉さんを守りきれているのは、確かに先輩たちの力があったからだ。
「おー、警備しっかり頼むぜ、『Gun-Blaze』。 俺は南門で張ってるからよ」
その台詞の後、エリアチャットから『パクン』と小さな環境音が聞こえた。
俺の耳には、それは旧世代の「カチパカケータイ」を折り畳む音に聞こえた。
「(……?)」
なんだ、今の音?
先輩たちは部室じゃないのか?
お互い対面に座ってゲームしてるはずだ。
何のためにカチパカなんぞを持ってるんだ……?
俺がそんな疑問を抱いた時、ささやかなSEと共に、「手紙」のシステムアイコンが瞬いた。
ギルドフレンドからメールが届いた事を示すものだ。
「ムラサメの奴、手伝ってくれるのか!?」……そう思ってメールを開いたが、
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
TO:レオ
そいつらを信用するな。
FROM:ネージュ村聖堂教会
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「な……!?」
メールは、ネージュ村の教会からだった。
しかも、何だこの内容!?
「どうした、レオ? 変な声上げて」
「い、いや、何でもないです、しゃっくりっス」
だが、俺はメールの画面を凝視し続けた。
「何だこれ……?」
すると、後ろから琴莉さんが教えてくれた。
「それ、有料メールだよ。 フレンドじゃないけど、どうしても連絡を取りたい相手には、教会でお金を払ってメールできるの。 ……普通は、自分の名前を書くものなんだけど、不気味だね、それ」
「そ、そうなんだ……」
そう。
このメールを出した相手は、誰なんだ。
何で、俺のことを知っている……!?
DATE : H27.2.4
TIME : 17:50
STID : 03290588,04294001
白薔薇城の近くの絶壁にロケーションしていた「ジャンヌ」と「ジル」は、白薔薇城の監視塔に誰かが居るのを発見していた。
「『エネミー・アナライズ』のスクロールがあったら、使って! あたし達と、同じ事を考えている奴が居たんだよ。 このイベントの正解にたどり着いた奴が!」
「ちょっと待ってね……。 あれ、ブロックされた。 もう一人は、……えっ? 何これ?」
「どうしたの、ジャンヌ!?」
「スゴいイケメンよ、ほら! 名前は『バールハイト』だって!」
「えっ、イケメン!? 見せて、ちょっと!」
「ジル」こと仁藤靖実は、「ジャンヌ」こと東条亜紀奈のタブレットをのぞき込む。
「……ホントだ、結構カッコいい!」
「でも、これは彼女連れだね。 もう一人にブロックされたのは、あたしと同じように『ガーデン・ローズ』のスキルが付いてるからだよ、きっと」
「そ、そっか……残念」
「ガーデン・ローズ」とは、セクハラ防止のためのシステムスキルで、嫌がらせを受ける女性プレイヤーに対し、特定のキーワードや行動……その蓄積が一定値を越えると発動する。
魔法全般に対する抵抗値の上昇、許可していない他人からの会話のブロック、「エネミー・アナライズ」のブロックなど、その効果は強力かつ多岐に渡る。
「ところでさ、ジル、あの『バールハイト』がどうしたの? 監視塔に居るのがそんなに油断ならないこと? 彼が一体何な訳?」
ジャンヌは、そんな質問を相方にぶつける。
だが、それを聞いたジルは、小さくため息をつきつつ答えた。
「あのねジャンヌ、このゲームに参加してる人たちの目的は、何か分かる?」
「リヴァイアサンを倒すこと?」
「いや、それは超目的。 それまでの目的は『お金を稼ぐ』ことでしょ」
「まぁ、それは確かに」
「ただ、それはこのゲームの運営も同じなの。 プレイヤーが強くなるために課金したお金、それを少しずつ……いえ、可能な限り徴収する。 現実の税金と同じように」
「はぁ……」
そして、少し寄り道するけど、と前置きをして「ジル」は話を続ける。
「なぜ、人は人を殺してはいけないと思う?」
「は? 本当に話飛ぶね。 ……えっと、人殺しがダメなのは、やっぱり正義とか、そういうことじゃないの? いけないことはいけないというか、人の倫理というか……?」
「違うよ、殺人は莫大な『損失』だからだよ」
「は? そ、それってどういう……」
「例えばさ、働いてるお父さんが急に死んだら、一家は路頭に迷うよね」
「え、ええ、まぁ、そうね」
「生命保険でもそうだけど、人が死んだら何千万のお金が支払われるじゃない? 人の価値って、そういうもんなの。 けど、人が死んだら、それは0になってしまう。 だから、殺人は禁じられている」
いやいや、そういう事じゃないでしょ、と東条亜紀奈は内心ツッコんだが、これがこの友人の独特な価値観だというのも分かっていたので、特に何も言わなかった。
元より弁舌で勝てる相手ではないし。
「人は価値あるものだから、人の集まる所は否応無く栄えるし、逆に争いが起こる所に発展はない。 例えば中東の紛争地帯とか。 あの土地に、幸福があると思う?」
「うーん……。 幸福かどうかはともかく、平和な土地には住みたいよね」
亜紀奈は話を聞き流すが、この友人の独特な物の見方は、決して侮れるものではない事もまた知っていた。
「(じゃあ、友達が多いリア充は、金持ちになれるって事になるじゃない……)」
靖実の言うことを、極論すればそうなる。
だが、それが間違いとも言い難いので、反論しにくいのだ。
「だから、発展のために競争はしなければならない。 でも、一線を越えて殺し合うのは衰退に繋がるからダメ、ってこと」
「でもこのゲームは、それを推奨しているよね? PKを」
「そうね、このゲームはお互いを殺し合うように設計されてる。 運営の利益になるように、ね。 だから、私たちが儲けるためには、運営の思惑を越えないといけないのよ」
「運営の……思惑?」
「耳を貸して。 私が思う、このゲームの必勝法は……」
亜紀奈は、靖実の意見を聞いて、目を丸くする。
「いや、確かにそのアイデアなら、このゲームで儲けられるかもしれないけど……。 そんな面倒くさい事、誰がするの?」
「居たじゃない、さっきの監視塔の上に」
「えっ!?」
亜紀奈……ジャンヌはタブレットの画面の中で、監視塔にカメラを合わせるが、そこにはもう「バールハイト」の姿はなかった。
「多分、彼もそこまで考えてる。 そんな気がするよ」
「じゃあ、彼がそれ? ジルが良く言う、あたし達の探してる……『王』なの?」
DATE : H27.2.4
TIME : 18:25
STID : 00941724,00060863,00053289
「奇襲だ! 助けてくれ、レオ!」
その一報は唐突に、だが遂にもたらされた。
西川先輩の「Gun-Blaze」が護る西門に、突如、紅組の奇襲が仕掛けられたらしい。
俺と南原先輩は西門へと急行するが、既に西川先輩の姿はなかった。
門を突破して攻めてくる、複数のアバター。
その数は5人。
正面から激突する事は無理だ、と判断した俺は「リヴァイアサン・ウェハースチョコ」によってゲットした、眠りの魔法を繰り出す。
「コマンド! スリープ・クラウド! ……えっ!?」
城内に展開する、眠りの雲。
それで5人のうち4人が抵抗に失敗し、眠りについた。
そこまでは良かった。
だが、眠ったアバターに南原先輩が斬りかかり、寝ている4人のうち1人を起こしてしまったのだ。
「何やってんすか、先輩!」
それはない!
俺が麻痺剣を持っているのは知っているのだから、抵抗に成功した奴と交戦するべきなのだ!
老獪な南原先輩とは思えない、まるで素人のような失策に、俺は思わずそんな声を上げてしまった。
「すまん! まさか、『スリープ・クラウド』を持ってるとは思わなかったんだよ!」
いや、呪文詠唱の時点で分かるだろうが……! 何言ってんだよ!
「危ねぇ危ねぇ、スリープ・クラウドやられる所だったぜ!」
復帰した敵は、次々に眠った仲間を蹴って起こしていく。
「死ね、白組! 勝ちは貰ったぜ!」
「うわああああっ!」
そして南原先輩は、復帰したそいつらに囲まれて叩かれ、一気に体力を減らしていった。
「待て、お前等!」
「おっと、邪魔はさせんぞ!」
そう言って俺の進路を阻むべく、切りかかってきたのは「ヤツフネ」だった。
「何ッ!?」
イベントで雪山を占拠した、レッドギルドのリーダー。
南原先輩達が、一時的に同盟を結んでいた相手。
そして、俺の電話がなかったら、手を組む予定だった相手。
「……また貴様か、小僧! こうして、また戦う事になるとはな!」
嫌な予感が、全身を駆け抜ける。
脳裏に思い出される、先輩の声。
「え? だって、このイベントじゃ、装備を奪えないじゃん。 なのに、資材を使って戦闘し続けるのって、割に合わねーなー、って」
まさか……南原先輩が今まで俺を手伝ってくれたのは、こいつら以外の紅組を排除するため。
そして、こいつらを城の中に誘導するため……?
それは、つまり……。
「(まさか、グルだった、のか、先輩……?)」




