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(64)見えざる選択肢


DATE : H27.2.4

TIME : 8:40

STID : 00941724,A0000021


 何かを得ようとすれば、何かを失う。

 以前、ムラサメにはそう言われた。


「(こんな事してていいのかな、俺)」


 はぁっ、と俺は大きくため息をつく。

 気持ちよく晴れた空はこの冬一番の冷え込みで、あまり好きじゃないダッフルコートを着込んでないと耐えられないくらいに寒く、吐いた息は長く尾を引いた。


 今、俺がやらなきゃいけない事は2つある。


 リヴァイアサンでの、保科との戦闘準備。

 そしてもう一つは、学生の本分たる勉強。

 何せ、明日から試験なのだ。

 勉強をしないっていう訳にはいくまい。

 でも、そのために、リヴァイアサンの戦闘準備をおろそかにして良いんだろうか……。

 保科たちを倒さないと、杵島君みたいな例がまた出るかもしれないってのに……。


 だが俺は結局、琴莉さんの申し出に乗って「早朝から彼女の家で試験勉強をする」という選択肢を選んだ。


 そうして俺は今、彼女のマンションの前でポツンと佇んでいるのだ。 8時半にマンション前で待ち合わせ。

 もう10分過ぎてるが、あれこれ考えているうちに、琴莉さんが姿を現した。

 カチューシャにハイネックセーターが、何とも可愛らしい感じ。


「あ、礼雄くんおはよう! 遅れてごめんね! 今朝は寒いねー!」

「琴莉さん、おはよう。 ごめんね、お邪魔する事になって……」

「良いよ良いよ、さぁどうぞ」


 琴莉さんの自宅は、南部バイパス近くの新興住宅地にあるマンションの一室だった。

 龍真の豪華なマンションとは比べるべくもないけど、最近建てられたらしく綺麗な作りで、しかもドアが最新最強の防犯ドアと言われている、指紋認証式オートロックドアだった。


「え、じゃあ、お邪魔します……」

「散らかってるけどどうぞ。 あ、スリッパはこれ使ってね。 新品だから汚くないよ」

「あ、これ?」


 琴莉さんと同じデザイン、しかし寒色のスリッパ。

 なんだかペアルックのようで、ちょっと恥ずかしい。

 それを履いて玄関から台所を通り、室内に入ると、実に女の子らしいというか、ピンク一色でまとめられた部屋に通された。

 そして、多数の人形と細々した小物。

 凄く女の子っぽい部屋だなー、と実感し、嫌が応にも心拍数は上がってくる。


「礼雄くん、朝食は食べた?」

「あ、朝食は食べてきたから、おかまいなく」

「じゃあ、お茶とお菓子を用意してくるね」


 そう言って、琴莉さんはダイニングの方へ消えた。

 俺は「……ふう」と大きなため息をつくと、目を瞑ってベッドに背もたれた。


『お前には自分がない。 ただ、良い人であり続けようってしてる』


 ムラサメに言われたその言葉。

 俺は二つの選択肢を、どっちつかずで選べないままフラフラしている。

 せっかく、試験用のノートを手に入れられる(かもしれない)チャンスなのに、頭の中からは、今日の夕方から始まる「薔薇戦争」の事が気になって離れない。


「……もっと時間があればなぁ」


 一日が48時間くらいあれば、どっちにもしっかり取り組めるのに。

 時間がないから、出来ることは自然と限られてくる。

 じゃあ今は……琴莉さんと勉強する事を優先すべきだよな、やっぱり。


 俺はまたも大きく息をついたが、深呼吸すると、この部屋の甘い匂い……琴莉さんの香りが胸一杯に入り込んできて、妖しい妄想に思考をかき乱される。


 高校を卒業し、大学に入学の直前は、「俺も何かスポーツ系のサークルに所属して、合コンとかに参加しまくって、女の子と仲良くなって、エッチしたりして、ラブラブ同棲したいな」とかいう妄想をした事もあった。

 まぁそれは、リアルでは龍真とのぞみさんがやってる事で、俺はデジ研に引っ張り込まれ、二次元の嫁とちゅっちゅする事になった訳だけど。


「……。」


 琴莉さんと出会ってまだ日は浅い。

 でも、女の子が部屋に入れてくれる、って、そういう事だよな。

 結構心を許してくれてる、って考えても良い、って事だよな……。


「礼雄くん、お待たせー」

「お、ありがとう」


 琴莉さんは紅茶とクッキーを持ってきてくれた。


「でも、本当助かるよ、琴莉さん。 試験勉強もなかなか一人じゃ捗らなくてさ」

「うん、私も誰か居た方が、緊張感持って勉強できるかな、って思ったから。 でも……」


 ……?

 琴莉さんが、何かモジモジしてる。


「その前に、ちょっと礼雄くんに、相談に乗って欲しい事があるんだけど……」

「相談? 何の?」

「え……っと、まぁその、なんていうか、人生相談っていうか……」



DATE : H27.2.4

TIME : 9:30

STID : 00941724,A0000021



 俺は、琴莉さんの家に呼ばれた事を、激しく後悔していた。

 人生相談とか言われた時点で、変なフラグ立つ前に逃げて帰ってリセットすべきだったのだ。


「で、これ、どう思う? こんな変な趣味持ってる女の子って、引く?」

「ちょ、ちょっと待ってね……」


 琴莉さんは、人生相談があると言うやいなや、ベッドの下から、俺もよく知る通販サイト「ジャングル」の段ボールを引っ張りだした。


「ジャングル」の段ボールの時点で嫌な予感がしたのだが、案の定というべきか、その中に入っていたのは、多量の同人誌の山だったのだ。


 しかも目眩のすることに、ジャンルはBLモノだった。

 BLと言ってもベーコンレタスじゃない。

 ボーイズラブ、つまり美少年同士がちゅっちゅするアレだ。


「……。」


 俺はパラパラと中をめくるが、見た感じ、かなり強引、かつ一方的な展開の物が多いような、気がした。


 整理しよう。

 つまり、琴莉さんは、厨二系文学少女だっただけじゃなく、かなり病んだ腐女子属性をも兼ね備えていた。


「(キャラきっついわぁ……)」


 内心、そうツッコまざるをえなかった。

 特濃どころか超濃だぞ、これ。

 オタクな男を嫌う女性の気持ちって、こんななのかもしれない。


「ね……。 礼雄くんは、引く? やっぱり」

「……」


 正直、そういうのに理解がある俺でも、引いた。

 だが男でも、マニアックなアイテムを集めたり、レズもののエロ本を持ってたりするする奴は居る。

 そういう意味では……同じ立ち位置なのかもしれない。


「いや……。 理解はできなくもないよ。 俺の周りにも似たようなの読んでる人は居るから、別に良いんじゃないかな?」

「本当!? 礼雄くんの周りにも、BLの同人誌持ってる人居るの!?」


 いや、そういう意味じゃないんだけど。

 ってか、琴莉さんは、彼氏とか居ないんだろうか?

 結構可愛いのに……。


「三次元はヤダ」


 だが、そんな質問をしたら、琴莉さんは多少顔を赤らめつつも、そんな一言でバッサリと切って落としてくれた。


 なるほど、俺を部屋に入れてくれた理由は、これだったのか。

 自分の趣味を理解してくれそうな相手に、今までため込んできたものをカミングアウトしたかっただけか。

 心を開いてくれたのは嬉しいんだけど、これじゃ恋愛感情とか、そういうのは0だな。

 ちょっとは期待してたんだけどなぁ……。


 そう思うと、さっきまで妖しくざわついていた心は、不思議と落ち着いていった。


「え、と、それじゃ……。 そろそろ勉強しようか?」

「あ、ちょっと待ってね? まだ見せたいものがあるの」


 俺は思わず、「まだあるの!?」とツッコミたくなったが、辛くもそれを飲み込んだ。



DATE : H27.2.4

TIME : 11:30

STID : 00941724,A0000021


「(俺は勉強する予定で琴莉さんの家に呼ばれたはずなのに、何をやっているんだろう……?)」


 琴莉さんの途切れないBLトークを聞きながら、俺はそんな虚しい一人ツッコミを噛みしめていた。


 もう昼にもなろうかというのに、琴莉さんはかつて自分がハマった小説、アニメ、エンターテイメントのコレクションを多量に披露し続けてくれた。

 しかもその大半が美少年モノだった。


 彼女の話題は逐一覚えておこうと思ったのだが、もう覚えきれる量じゃないので、「うんうんなるほどね、分かるよ」と適当に相づちを打ちながら、ノートの端っこにメモし続けた。 ……後で調べておこう。


「それでね、流星くんが超カッコいいの! 主役になりたいけど、なれない自分を自覚してるから、脇役として全力を尽くそう……ってのが見え隠れしてて、その健気な態度にグッと来ちゃう! 準くんより断然カッコいいよ!」


 琴莉さん、よっぽど、こういうのを喋る相手に恵まれなかったんだな……。

 自分の心のうちをさらけ出して、同調してくれる相手が、どれほど得難いものかは、俺だって知ってる。

 だからリアルを諦めて、ネットの中で仲間探しをしたりするんだ……。


「と、ところでさ、そろそろお昼になるんだけど……」

「あ、いけない、ホントだ! ごめん礼雄くん、お昼はパスタでも良い!?」


 こうして、俺はなんとか路線を勉強方面へと修正することが出来た。

 一応、昼からは試験勉強も順調に進み、「もう……これが最後のチャンスだ」と思った俺は、遂に例の件を切り出してみた。


「あの……琴莉さん、俺、『環境経済総論』のレポートが出来てなくて、困ってるんだ」

「え? 礼雄くん、『経済福祉総論』で困ってなかったっけ?」

「あ、それは自分でどうにかなったんだよ。 でも、環境の方の『カーボンニュートラル』ってテーマ、越智教授が何て言ってたかが分からなくて……琴莉さん、教えてくれないかな」

「えー」


 としばらく琴莉さんは渋っていたが、


「……うん、良いよ。 でも、ノートの中のネタにはツッコまないでね」


 と言って、念願の「環境経済総論」のノートを持ってきてくれた。


「あの、これ、コピーしていいかな」


 そう言うと、琴莉さんの顔がちょっと険しくなったが、


「絶対無くさないでね!」


 そう念を押しつつも、了承してくれた。


 ……良かったー! 

 これで、また首の皮一枚で繋がった!


「ホントありがとう! マジで助かったよ、琴莉さん!」

「念のために言っておくけど、礼雄君の口車に乗ったのは、君に退学してほしくないから、だよ? それ、しっかり覚えておいてね!?」

「あ、ああ、分かった」


 じゃあ結構、琴莉さんからの好感度もアップしてたのかな。

 まぁ、友達というか、知り合いとしてだろうけど。



 そうして俺たちは、(大盛りパスタを頂いたあと)試験勉強に勤しんだ訳だが、お互い他人の目があったせいか、ダレることなく結構捗った。

 息抜きの間の雑談も結構楽しく、琴莉さんは俺と同じ年で、高校までは東京に居たそうだ。


「へぇ、琴莉さん、東京に居たの? 何でまた、こんな田舎に?」

「本命に落ちたから。 その時、凄く体調悪くて……。 でも、結局はこっちに来られて良かった、って思ってるよ。 のんびりしてて良いところだから」

「のんびりねぇ……。 俺はもっと田舎出身だから、宇園市でも結構発展してるように感じるんだけどなぁ」


 その時、俺の携帯がポケットの中でヴーンと唸った。


「あ、ごめん、電話だ」


 画面を見たら、龍真からだった。

 リヴァイアサンの件で相談したい、って留守録に入れてたから、その返事だろう。

 俺は立ち上がると、部屋を出てダイニングの方へと向かった。


「はいもしもし、桐嶋です」

「……礼雄か?」

「そうだよ龍真。 もう俺の声を忘れたのか?」

「まさか。 それで、僕に相談したい事って、何だ? いまさら、役に立てる事なんてないと思うがな」

「いや、お前の知恵を借りたいんだ。 実は、俺、今賞金首になってて……」


 俺は、近況をあらいざらい話した。

 ムラサメと共に賞金首になっていること、杵島くんが襲われたこと、今日の「薔薇戦争」なるイベントで、オリオンとの対決が迫っていること……。


「そうか、あの杵島くんの件は、やはりリヴァイアサン絡みだったのか」

「何だ、龍真、お前知ってたのか?」

「ああ、一部のプレイヤーの間では、噂になってたぞ」


 一部のプレイヤー……って、お前、リヴァイアサン続けてたのかよ。

 ゲームは止めたみたいな事言ってたくせに。


「息抜きにはいいか、と思ってな。 で、相談したい事はその『薔薇戦争』の件か?」

「そうなんだよ……。 もう、イベント始まるんだけど、どうやって戦うのが良いのかな、って思って……」


 どんな行動がベストの選択肢だと思う?

 そう言外に問いかけながら、俺は龍真の返事を待っていたが……。


「残念ながら、正着はない」

「え?」

「おそらく、そのイベントはかなり流動的な戦闘になる。 どんな間違った選択肢でも、多数がそれに向かえば、それに対応をせざるを得なくなるだろうな」

「……えと、それって、どういう事?」

「端的に言えば、臨機応変に戦え、って事だ」

「マジかよ」

「とは言え、お前が選べる選択肢はそれほど多くないぞ。 オリオンと戦うつもりなら、課金武装して、奴と直接対決するまで力を温存しておくのが正解だろうな」

「……だな、そうだよな」


 迷ったら待避。

 俺の目的はオリオンを探して倒すこと。


「オリオンみたいな奴を放置しておいたら、杵島くん事件のような被害者はさらに増える」

「やっぱり、お前もそう思うか、龍真」

「ああ、ギャンブルは人を狂わせるからな。 最近の『リヴァイアサン』の賞金倍率は、明らかに異常だ。 明日から試験だというのに、こういうのは何だが、頑張って阻止してくれよ」

「……龍真、お前は手伝ってくれないのか?」

「無理だ。 さっきも言ったが、PK戦で僕がお前の役に立てる事なんて、何もない。 例のムラサメ氏と頑張れば良いじゃないか」


 ムラサメにさんざ罵倒されたのをまだ根に持っているのか、龍真の返事はやたら棘々しかった。


「……分かった。 それと、もう一つお願いがあるんだけどさ」

「何だ、まだあるのか?」

「ああ、実は……」


 環境経済総論のノートを手に入れた……と言いかけたところで、俺は刺すような視線に気がついた。


「(ファッ!?)」


 顔を上げると、ジト目の琴莉さんが腕組みで俺を見ていた。


「ね、礼雄くん、誰と電話してるの?」

「だ、誰って……友達だよ、友達」


 すると、琴莉さんは、ツカツカと俺に近づいてきて、携帯をひったくり、通話画面に表示された名前を見る。


「え!?」

「ふーん……藤宮くんね、例の。 で、リヴァイアサンの話してたんだ」

「そ、そうだけど……! でもそれは、龍真からの相談で、仕方なく……!」


 俺がそう言うと、彼女は龍真と話し始めた。


「あの、電話代わりました。 藤宮くんですか? 今、桐嶋くんは試験勉強中なんで、ゲームのお話とか、遠慮して頂けます? ……え? 私が誰かとか、どうでも良いでしょう? 何を動揺してらっしゃるんです? 失礼します」


 そう言って、電話を切った。


 お、おい……。


「礼雄くん、今は試験勉強に集中する時でしょ? ゲームの話題に乗ってないで、もうちょっと頑張ろうよ」

「そ、それはそうだけど……」


 あと1時間もすれば、イベント「薔薇戦争」が始まる。

 だが正直、それまでは下宿に帰れるだろう、と思っていたのだ。

 こんなに、夜遅くなるまで女の子の家に長居できるとは全く思ってなかったから……。


 俺は琴莉さん製の夕食……レタスチャーハンを頂いたが、味は冷凍食品のそれだった。


「それでね、……が、……で……」


 食事の間、琴莉さんが楽しそうに何か言ってるけど、全然頭に入ってこない。


「お前は人の意見に左右され過ぎなんだよ」というムラサメの言葉が、ふと脳裏に蘇る。


 人生、いいとこ取りなんて出来ない。

 何かを得たいなら……何かを犠牲にしなきゃいけない。

 犠牲になんてしたくないけど……でも、俺は弱いから。

 全てを救う力が無いんだ。


 ごめん、琴莉さん。


「ごめん、琴莉さん……。 遅くなるから、そろそろ下宿に戻ろうかな、って思ってるんだけど」


 琴莉さんの会話が一段落したチャンスを見計らい、そうつくり笑いを浮かべて言うと、


「で、家に帰って『リヴァイアサン』をプレイする気なの?」


 今までの笑顔が嘘のような、例の般若の表情で、そんな厳しい言葉を返された。

 その剣幕に、俺は何の返事も出来なかった。


「さっきから、上の空だと思ってたのよね……。 何で? 明日から試験でしょ? そうまでして、さっきの藤宮くんと一緒に遊びたいの?」

「い、いや、そうじゃないんだ……」

「じゃあ、何で!?」


 俺は多少悩んだが、彼女もリヴァイアサンのプレイヤーだし、事情を話しても良いだろうと思って、オリオンとの確執のことを話した。

 そして、この後のイベントが、その決戦であることも。


「確かに、試験前にゲームするのはどうかって俺も思うけどさ……。 でも、許せないんだ。 オリオンみたいな連中は。 それに、このままほっとけば、あの世界は、本当に無法地帯になってしまう」

「じゃあ、あの時メインストリートに倒れてた人は、礼雄君の代わりに襲われた……ってこと?」

「俺は、そうだと思ってる。 だから、行かなきゃいけないんだ、俺は……」


 すると、琴莉さんは、少し目を瞑って考えた様子を見せたが、


「なるほどね……」

「だから、どうしてもプレイしなきゃいけないんだよ。 ケジメ、みたいなものなんだ。 ごめん」


「何で皆、競争するのかな」

「え?」


「自分が優れてるのを証明するのって、そんなに凄いこと? 平等に楽しく暮らせる方が、どれだけ尊いことなのか、分からないのかな……」


 それは、俺への問いかけなのか、それとも独り言なのかを掴みかね、リアクションできずにいたが、


「良いよ、礼雄くん。 ゲームしても」


 琴莉さんはゲームの許可を出してくれた。


「え、じゃあ、家に戻っても……」

「ここでもログインできるでしょ? 私も出るわ」

「え?」


 私も出る、って……。


「全部終わらせましょう、それ。 イベント、手伝ってあげるから」


 そう言うやいなや、琴莉さんはどこぞに電話を掛け始めた。


「あの、もしもし……あ、ルナ? 今ヒマ?」

「そう、今からステージなの……。 じゃあ、マキアは?」

「……収録!? もう、肝心な時に皆仕事なんだから!」


 残念ながら、琴莉さんにも援軍は来なかったらしい。

 勇ましい言葉とは裏腹の失態に顔を赤らめつつも、琴莉さんは申し出てくれた。


「礼雄くん、私も白薔薇軍ヨークに入るわ。 それで、そのオリオンってプレイヤー……いえ、保科くんを一緒に倒しましょう」

「マジ? 助かるよ琴莉さん! ありがとう!」


 琴莉さんの天使系アバター「ティアリ」がどれだけの強さは分からないけど、あの即死状態からも復活できる「エクスヒーリング」という回復魔法があれば、長期戦闘が可能になる。

 というか、これでムラサメと組めば、殆ど無敵じゃないだろうか?


 俺たちは共にヘッドセットの端子をスマートタブレットのコネクターに突き刺す。

 

「リヴァイアサンズ・メルヴィレイ!」


 俺は意気揚々とボイスパスワードを発声、ゲームにログインしたが、琴莉さんはログインする様子がない。

 なんだか、俺を見て呆然としていた。


「……どうかしたの、琴莉さん? ログインしないの?」


 そう言うと、琴莉さんはちょっと躊躇する様子を見せたが、


「それはそうよね……。 ま、いいか」


 何が? と思った瞬間、琴莉さんの口から、意味不明の呪文が漏れた。


「アドミニ……イターログイン・メソッ…コード07、パーパス、インテグレ……ニット……ード……000021、アバ……ム ”ティアリ”キャ……オフ」


 聞いたことのないボイスパスワード。

 小声、かつ早口だったから、ぜんぜん聞き取れなかった。


「……リヴァイアサンズ・メルヴィレイ」


 ログインしたものの、琴莉さんはネージュ村には現れなかった。 しかし、


「コマンド、アプローチャー! プレイヤー、レオ!」


 その言葉と共に、虹色の泡がマイアバター「レオ」のすぐそばに出現した。


「(え……もしかして、琴莉さん、「アプローチャー」の魔法も使えるの……!?)」


「お待たせ」


 そして泡の中から、荘厳な衣装を纏った天使系アバター、ティアリが現れた。

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