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(63)薔薇戦争前夜


DATE : H27.2.3

TIME : 19:21

STID : 00941724


 俺は夕食後、自転車に乗って下宿の最寄りのコンビニに出かけた。


「(ムラサメの奴……いつの間にか、あんなに仲間増やしやがって……)」


 先刻の出来事は、ほんの1時間にも満たない時間だった。

 だがその怒濤の展開を振り返ると、思わずため息が出てしまう。


「(エルキッドが言った事……マジだったのかよ……)」


 ムラサメが、ソロPKKで資金を増やしているのは本当だった。

 そして、俺が知らない奴まで仲間にしていた。

 あいつ、なまじっか稼げるようになった事で、このゲームにのめり込み過ぎてるんじゃねーのか……?


 だけど、それは今問題にすべき事じゃない。


『ウチらに迷惑かけるだけかけといて、そんな堂々とのさばってるなんて、絶対に許さないからね。 明日はその罪、必ず償わせるよ』


 ……決戦が明日になった今、その準備をしなければならない。


「エルキッドが言ってたのは……お菓子売場だったよな……。 え?」


 俺は菓子の陳列棚を見て「何これ!?」と言いそうになり、それを寸前で飲み込んだ。 というのも、


「還魂のリヴァイアサン・ウエハースチョコ 第1弾」


 という新製品の菓子が販売されていたのだ。

 エルキッドが言ってたのは、この事だったのか。


 一つ手にとって、そのパッケを見てみる。

 表面は、ビキニアーマーの女騎士が海龍と戦っている萌え絵。 けっこう好みの絵柄だ。

 価格は200円。 案外高い。


 裏面は……。


「(なんだ、これ!?)」


ーーーーーーーーー


アイテムシールは、下記のどれかが当たるぞ!

君はレアアイテムをゲットできるかな!?


「スクロール『アプローチャー』」

「スクロール『パーガトリー・フレイム』」

「スクロール『アイシクル・ランス』」

「スクロール『ライトニング・ブラスト』」

「スクロール『ギャラクシー・エクスプロージョン』」

「スクロール『スリープ・クラウド』」

「スクロール『パラライズ・クラウド』」

「約束の翼」

「エメラルド・ラグジュアリー」

「妖精の護符」

「回復薬エクストラ」


ゲーム内で読み込めば、実際に使用可能だ!

これ以外にもまだまだあるぞ!!


ーーーーーーーーー


 そのチョコレートには、ゲームのアイテムシールがおまけとして入っており、添付されたQRコードを読み込めば、本当にアイテムとして使用できるらしい。


「(これは……!)」


 正直、エルキッドに話を聞いていてよかった、と思った。

 「ギャラクシー・エクスプロージョン」とか、危険な匂いのするアイテムを使われたら、明日のイベントでボッコボコにやられてただろう。


「(それに、これ1個200円だろ……?)」


 レアが出たら、ゲーム内の連中に売りさばけば、もっと高く売れるじゃん!


「(乗るしかない……このビッグウェーブに!!)」


 俺は意を決し、その棚にあった菓子を買おうとした。

 だが、横からいきなり皮ジャンの手が延びてきて、菓子の束をムギュと掴んだかと思うと、全部奪い取っていった。


「え……!? お、おい!」


 菓子を横から独り占めしたのは、鼻息が荒い皮ジャンのデブだった。


「これは全部、僕のだ」


 デブ……もとい、皮ジャンはそう言った。


「ちょっと待て、俺も買おうってしてたんだ。 少しくらい分けてくれたって良いだろ」


 大学生がお菓子の取り合いで喧嘩かよ、とみっともなく感じたが、それどころじゃない。

 これはもう、普通のお菓子じゃないんだから。


「……お前、明日どっちに付くんだよ? アバターネームは何だ?」


 皮ジャンが、ふーふー、と鼻息荒くそんな事を言う。

 こいつ、やはり明日のイベント参戦組か。

 てか、賞金首の俺が、名前挙げられる訳ないだろ。


「……敵だな、お前」


 俺が黙っていると、皮ジャンはそんな事を言い捨てて「これ下さぁーい!」とレジへ走り込んだ。


「(……マズイ)」


 ここはもう勝負にならない。

 俺はすかさずコンビニを飛び出すと、チャリに乗って次のコンビニへと疾走した。



DATE : H27.2.3

TIME : 21:00

STID : 00941724



「何で俺、こんな事してんだ……?」


 全員参加型のイベントがあった。

 そこにアイテムシールの販売があった。

 これは有利になると思って、乗せられた。

 他に買う客が現れて、これは買わなきゃいけないと思った。


「バカか、俺……? 何で、あそこで冷静になれなかったのかなぁ……。 くそ……」


 目の前には、大量に開封された菓子の袋。

 そして実際にゲットしたアイテムシールは


「スクロール『ファイアー・ボール』」×3

「スクロール『サンダー・アロー』」

「スクロール『スリープ・クラウド』」

「スクロール『アンチ・パラライズ』」

「スクロール『エネミーアナライズ』」×2

「スクロール『マジックプロテクション』」

「スクロール『オートハイヒーリング』」

「スクロール『アプローチャー』」

「回復薬スーパー」×2

「回復薬」×4

「解毒薬」


 という、これ以上ない程にしょっぱいラインナップだった。

 「アプローチャー」「オートハイヒーリング」はレアっぽいんだけど、売れるかどうかは微妙なライン。


「この大量のお菓子、どうしよう……」


 子供の頃「ドッキリマンチョコ」で同じ思いをした経験がある。 大量にクズを掴まされるのは分かってたはずなのに、何で同じ事を繰り返すんだ俺……。


「しばらく、昼飯はウエハースチョコだな……」


 考えただけで胸焼けしそうだ。

 それに、冷静に思索してみれば、こんなアイテムを集めたところで、さほど役には立たない。


 明日のイベントは、集団戦でいかに生き残り、どれだけ戦果を上げるか、がポイントになる。

 だが、「三国志」の例を挙げるまでもなく、個人の戦闘能力が、戦局を大きく変えた例というものは殆どない。数が多い方が勝つのが世の常なのだ。

 だから、明日のイベントで勝つつもりがあるなら、できるだけ戦闘力に長けたメンツを集めるのがキモのはずなのだ。


「(……だよな、多分)」


 自分の判断にイマイチ自信が持てないが、それが正だとするならば、今からでも南原先輩や、龍真に電話して白薔薇軍ヨークに入ってもらうべきだ。


 そう思った俺は、南原先輩に電話を入れたが、


「いや、礼雄、行動が遅ぇよ。 俺たち、もう紅薔薇ランカスター軍に入る事で決定したぜ」

「ええ!? マジですか!? そんな、白に入って下さいよ!」

「しょーがねぇだろ、ヤツフネの『クリーピング・コインズ』は全員、あかで参加なんだからよ。 話が来る前だったらまだ検討の余地があったけど、今更だろ」

「そんな……」

「ま、悪いが明日は敵同士だな。 容赦しないから覚悟してろよ」


 最悪だ。

 あの人たち、一度戦場に立ったら、先輩後輩関係なくマジで倒しに掛かるからな……。


「落ち込んでる場合じゃない、次だ次!」


 俺は、多少悩みつつも、ダメもとだと思って龍真に電話を入れた。


「はい、藤宮です。 ただいま試験勉強中のため、携帯の電源を切っております。 ご用の方は申し訳ありませんが、留守番電話に用件をお伝え下さい。 後々お掛け直しいたします」


 だが、龍真の電話からは、そんな留守録コールが帰ってきただけだった。俺はさらに悩んだが、


「龍真、悪い……。 リヴァイアサンの件なんだけど、お前の力を借りたいんだ……。 時間があったらで良いから、話だけでも聞いて欲しい」


 それだけを吹き込んで、次の番号を探し始めた。

 だが、俺の周囲で、リヴァイアサンをプレイしている人間は殆ど居ない。

 いや、本当は居るのかもしれないが、俺はそれを殆ど知らないのだ。


「……あ」


 そういや、鶴羽先輩はどうなっただろう。

 俺は鶴羽先輩の携帯に電話を掛けてみるが、


「おかけになった電話をお呼びしましたが、お出になりません。 電波の届かないところか、電源が入っていない可能性があります」


 やっぱりか。


「畜生、これで全滅かよ!」


 ぼっちの俺にそれ以上の選択肢はなく、白薔薇軍への援軍はリアルに絶たれ、もう俺以外の誰かの勧誘結果を待つだけ、となった。

 ネットの中では勧誘合戦になっているだろうけど、賞金首の俺が「白薔薇に入らない?」と割り込んだら、逆効果になりそうだしな……。


「どうすりゃいいんだよ、もう……。 ぶっつけ本番かよ……」


 明日は一大決戦だが、これは保科と一戦交える事もなく倒されるかもしれない……。

 でもそうなったら色々と最悪過ぎる。

 雑魚認定待ったなしだ。



 プルルルル、プルルルル……。


 だが、そんな矢先に突然電話が掛かってきた。

 龍真か、と思い俺は携帯をひっ掴んだが、


「……誰だ、これ?」


 画面に表示されていたのは、090……で始まる番号。

 つまり、俺が登録していない「誰か」だ。

 不審に思い、俺はわざと一度切るが、またその番号からすぐに電話が掛かってきた。


「(……間違い電話かな?)」


「はい、もしもし桐嶋です。 失礼ですが、どちらさまでしょうか?」

「あ、良かったー、礼雄くんだよね?」

「え?」


 相手の声は女性だった。

 ってか、まさか……。 この声、琴莉さん?


「ぴんぽーん、正解でーす」

「ど、どうしたの……? 何か用事? てか、何で俺の電話番号を知ってるの……?」


 だが、その質問に琴莉さんは答えなかった。


「ね、礼雄くん、明日時間ある?」

「え、時間?」


 まぁ、少しなら……。

 日中は勉強してるだけだろうし。


「あ、良かったー! じゃあ明日、ウチに来ない? 一緒に試験勉強しようよ」


「……え?」


 最初、その意味が理解できなくて、俺はたっぷり10秒くらい経ってから、そんな間抜けな返答をした。


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