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(62)薔薇戦争

DATE : H27.2.3

TIME : 9:51

STID : 00941724


 2月3日、試験前の最後の土曜日。

 もちろん俺は、月曜から始まる試験のため、朝から勉強に勤しんでいた。


「参ったな……」


 俺を困らせたレポート、火曜日の「経済福祉総論」は、介護施設「朱琴荘」の佐伯理事長のおかげで形になった。

 だが、レポートはもう一つある。


 水曜日の「環境経済論」。

 「カーボンニュートラル」がテーマだったのだが、教授の主張が何だったのかが分からないと、どのように論旨を展開すれば良いのか分からない。

 つまりノートがないと話にならない。


「(琴莉さんが、ノート見せてくれる気になればなぁ……)」


 今のところ、一番頼りになりそうで、かつ出席していることが確実なのは彼女だけだし。

 履修は最低限で組んでいるので、一単位たりとて落としたくない。

 あと2日の間で、なんとかしてノートを見せてもらうように持っていきたいが、俺は彼女と連絡先を交換していないので、逢うチャンスは火曜日一限目の「マクロ経済学」しかない。 


「(ギリギリじゃねぇか、それ……)」


 それだと、余裕は1日しかない。

 仮にノートを見せてもらっても間に合わない可能性が高いため、見切り発車でレポートが提出できるよう、俺は思いつく事を漫然とノートパソコンに打ち込んでいく。


「礼雄、ごはん出来たよー、降りてこない?」

「あ、はーい」


 もう、昼になってたのか……。


 俺はあかり姉に促されて、皆と一緒に昼ご飯を食べる。

 だが、試験とレポートの事で頭一杯の状態では、味も良く分からなかった。


DATE : H27.2.3

TIME : 17:21

STID : 00941724


「……そろそろかな」


 夕方の5時21分。

 流石に勉強疲れも出てきたころ、俺は寝転がりながら、携帯……スマートタブレットの電源を入れる。


 土曜の6時は、日曜の定例イベントの告知時間だ。

 保科との決戦を控え、ムラサメと合流すべく、俺は少し早めにログインしようと思ったのだ。


「リヴァイアサンズ・メルヴィレイ」


 ボイスパスワードで、俺はあの世界への扉を開く。


 ……すると、ネージュ村は、以前よりも大量の人でごった返していた。


「うわ、なんだこの人数!?」


 イベント告知はまだなのに、異様に人が多い。

 しかも、掲示板の前にやたらと固まっている。


 一体、何ごと!?


 保科との決戦までは、まだちょっと時間がある。

 この異様な雰囲気に興味をそそられて、俺は掲示板をタップしてみた。


ーーーーーーーーーーー


400万ダウンロード突破記念&大型アップデート実装イベント「薔薇戦争」を開催します!


【アップデート内容】

・一部モンスターのバランス調整

・スキルの追加実装&調整

・コラボイベント数の大幅増加

・ボイスコマンドの充実と強化

・QRコードシステムの追加


【イベント内容】

紅薔薇ランカスター白薔薇ヨーク、より美しくこの地に咲き誇るのは、どちらの姫君なのか!?

自ら信じる「薔薇の矜持」を守って戦え!

君の知性と勇気と覚悟が問われるぞ!


ーーーーーーーーーーー


「へー」


 この騒然とした雰囲気は、大型アプデと、400万ダウンロード記念イベントのせいか。

 「薔薇戦争」なるイベントの内容はさっぱり分からないけど、こんな煽りされたら、なんだか興味が出てきてしまうじゃねーか。


「……そうだ」


 以前は、イベントを有利にするための課金武器「炎神剣ゴッドレオン」が売っていた。

 もしかすると、今回も似たようなパターンでの販売があるかもしれない。


「(……保科と戦う時に、何か役立つかもしれないしな)」


 そう思った俺は、オークションハウスの武器屋に出かけたが、


「売り切れかよ!」


 武器、防具、魔法もイベント特需で大半が売り切れていた。


「皆、がめついなぁ……。 なんだか、ゲームのルールを分かってきたというか、容赦なくなってきような気がするな」


 以前なら、多分魔法とかもちょっとは残っていた。

 なのに、ここまで販売品が無くなるという事は、参加プレイヤーの皆が、課金しまくって自己強化に励んでいるという事か。


「その通りやで」

「うおっ!?」


 独り言に合いの手を合わせられ、俺は思わず声を上げてしまう。

 会話ウインドウに現れた、そのピエロめいたアバターは……。

 エセ関西人の転売屋「エルキッド」。


「久しぶりやな、レオくん」

「……よく分かったな、俺だって。 あの時とは装備違うのに」

「声で分かってん。 商人が、客の情報忘れる訳ないやん」


 はー……。

 たかだか一度しか出会った事のない俺を、声だけで確実に判断して話しかけてくるとは……。

 でも、そういう所に優れてないと、客商売は出来ないんだろうな。


「みんな最近、凄いですわ。 店にええモン入ってきたら、速攻持って行かれます。 結構、修羅入ってきた感ありますねん」

「みたいだな。 ほんのちょっと前まで、もっとゆっくりした雰囲気あったのに……」

「ところでレオくん、結構儲けてるみたいやおまへんか? 何ぞ景気のええ話、あるんとちゃいます?」

「いや、ねぇよ。 貧乏暇なしだっつの」


 超棒読み。

 相変わらずのエセ関西弁だなー、こいつ。


「でも、相方のムラサメはんは、PKでようけ儲けてるみたいですな? さっきもウハウハの様子をお見かけしましたで?」


 ……!?


「何ッ!? ムラサメが!?」

「ええ、あの人、商売の才能ありますわー。 『エネミーアナライズ』の別な使い道に気づくとか、流石ですわ」


 エルキッド曰く、このゲームは、装備を売却すると、値段が買値の25%になる。

 そこでムラサメは、武器屋で客を待ち「エネミーアナライズ」で、そのプレイヤーの強さに見合った武器防具を売っていた、というのだ。

 その際に、ムラサメは買値の50%~70%の価格という暴利で販売するのだが、それは買い手にとっては半額から3割引という、お得な買い物になる。


「単なる中古品販売ですけども、欲しい相手に良い品を売りつけるのは、商売人としての確かな才能ですわ」


 こいつ、いろいろとよく知ってるな……。

 情報早すぎるだろ……。


 いや、待て。

 という事は、もしかして!?


「ええ、ムラサメはんには、ワイの味方……ええお客さんになってもらいましたでぇ」

「あいつに、何を売った!?」

「PKプレイヤーが欲しがるアイテムに決まってますがな。 『耐麻痺の護符』『耐睡眠の護符』、ええ値段で買うて貰いましたわー」

「お前……!」


 ムラサメの奴、小金をせしめた所を狙われたのか。

 くそ……。 

 この「エルキッド」も、PKこそしないものの、ある意味極悪なプレイヤーだな……!


「レオくん、賞金首生活は大変やないですか? そこで、よかったら何かご用立てしたいと思ってんねんけど」


 ……こいつ、それで俺に声掛けてきたのか!


「だから、俺は貧乏だって言ってんだろ!」

「ムラサメはんとPKで稼いでるのに?」

「PKじゃねえよ、俺は……!」

「あーいやいや、経緯とかどうでもええねん。 周りからはどっちもどっち、としか思われてへんやろうからな」


 ぐ……!


「で、どないでっか? レオくんを狙ってくる奴、多いでっしゃろ? ワイのコネ、役立つかもしれまへんで?」

「じゃあ、何があるんだよ? やたら自信満々だけど」

「『情報』とか、どないでっか?」


 え、情報?


「せや。 PK戦でも、イベントでも役立つ情報。 レオくんには、格安でお売りしますで」

「そんなの、あるのかよ?」


 どうせ、同じ事を他の奴にも言いふらして売りつけるんだろ?


「ははは、レオくんは疑り深いでんなー。 でもな、情報が全てですねん。 情報を制するものは、人生を制しますで。 これホンマ」

「だから買う気はねーって」

「……まぁ、そんなら出世払いにしときますわ。 あんさんは、ワイという商人の価値を低く見てるようやさかいに」


 そして、エルキッドは小さな声で言った。


「レオくん、後でコンビニに行ってみ。 そして、菓子のコーナーをよう探してみ? もう今日の午前中には入荷してるから、きっと争奪戦になるで」


 ……コンビニ? 何が売ってるってんだ?


「その先は、有料情報やから、もう聞かせられへんで? ……聞きたかったら、金払うてや」

「分かったよ、後でコンビニで確認する」

「そうでっか……。 ほな、さいなら。 そろそろイベント告知始まるからな。 稼いだらまた声掛けてや」


 ちょっと、待て。


「何や? ただの冷やかしならお断りでっせ? 時は金なり、さかいに」

「いや、俺はさ、確かにお前の価値を低く見てるかもしれない……だから、もう一つ無料で教えてくれよ」

「何をでっか」

「あのさ、オリオン達に武器や爆弾を売ったのは、お前?」


 だが、俺がそう問うたら、エルキッドは僅かな間、黙った。


「……レオくん、君はワイの敵か? 味方か?」

「お前の返答次第だよ」

「そうかぁ……。 ワイはなるべく、レオくんには味方で居てもらいたいねんけどな」


 随分、俺の株上がったな。

 こいつ、以前は歯牙にもかけなかったのに。

 賞金首になったって事は、俺はある意味こいつの中で「押さえておきたい相手」になったって事でもあるのか。


「レオくん、答えは『保留』にさせて貰うわ。 今返事したら、損しそうな気がするさかいにな!」

「おい、待てよ!」

「ほら、イベント始まんで! 結末、楽しみに見させてもらいまっさ!」


 エルキッドが人混みに紛れると同時に、スマートタブレットの画面が、イベント告知のインフォメーションウインドウに切り替わる。


「(しまった……! 先に、ムラサメの奴を探しておかないといけなかったのに……!)」


 エルキッドと話してるうちに、時間が経ってしまった。

 保科と戦う前に時間あるだろうか……と思いつつも、俺はつい画面を見てしまう。


「ようこそ戦場へ! 貴様等の剣は、磨かれているか!?」

「国内400万ダウンロード記念! 大型アップデート実装を祝して、大規模定例イベント『薔薇戦争』を開催いたしまぁーす!」


 ポップロイドの「漣波さざなみルカ」「響希ひびきカノン」が、まるで少女マンガに出てきそうなフランス騎士の格好で、細剣レイピアを振り回しながらそんな告知をしてくる。


「これぞ数奇な運命のなせる業! 同じ血を分けた双子の姫は、遂にその城と命を賭けて戦うことになった! 奇しくも、紅薔薇軍と白薔薇軍は、同じくして傭兵を募集する! 君らは、どちらかに属して戦うのだ!」


「相手を破滅させるまで終わらないデスバトル! 勝利の凱歌は、どちらの姫の頭上に流れるのかぁー!?」


ーーーーーーーーーーーー


『薔薇戦争』


日 時:平成27年2月4日(日) 18:00~20:00

場 所:インスタンスマップ「紅薔薇城&白薔薇城」


内 容:紅薔薇軍の場合:「白薔薇姫の首」の奪取

    白薔薇軍の場合:「紅薔薇姫の首」の奪取


報奨金:『クイーン』 × 5,000,000Cen

    『ビショップ』×  100,000Cen

    『ナイト』  ×   50,000Cen

    『ルーク』  ×   20,000Cen

    『ポーン』  ×   10,000Cen

    『ゴースト』 ×     0Cen


ーーーーーーーーーーーー


「なんだこれ!?」


 途中まで読んで、俺はその内容に驚愕した。

 どうやらこれは、城というダンジョンを舞台にした、派閥抗争戦……つまり、大規模公式PK戦。

 だが、報奨金の額がケタ違い過ぎる。


 「クイーン」……多分、相手の姫の事だろうけど、首を取ったら、報奨金5,000,000Cen……つまり、50万円!?

 一瞬、見間違いかと目を擦ったが、間違いなく50万円だった。


「なんだこれ……」


 俺は思わず唸ってしまう。

 その残酷な内容もさながら、信じられない金額だ。



「うおおおおっ! マジ!? マジでこの金額!?」

「うっそ、凄いね! クイーンだけじゃなく、他のクラスを倒しても結構貰えるんじゃない!?」

「でもさ、イベントの制限時間が短すぎるよ。 2時間で相手を全滅って無理じゃね? だから50万円、って無茶な設定にしてあるんだよ」

「バッカ、有利な方を見極めて、そっちに加勢すれば良いだけだろ! 知り合いのギルドに声掛けてみようぜ!」



 ヤベェ、みんなの盛り上がり方半端ねぇよ……。

 俺はその熱に危機感を感じつつ、さらにイベント内容を読み進める。


ーーーーーーーーーーーー


備 考


・イベントからは脱出できません

 (※アイテム、魔法ともに無効化されます)


・参加時に「クラス」を選択します

 (※クラスによっては課金が必要なものもあります)


・倒した相手のクラスと数に応じて、報償金額が変わります


・イベント終了後、生存プレイヤーの課金額は、全額返金されます



提 供:(株)柄森酒造

    (株)ドリームコミュニケーションズ

    (株)ブッコロリー

    (株)ナイアガーラ

     テクノブレイクホールディングス


ーーーーーーーーーーーー


 俺は掲示板の内容を読み進めつつも、周囲の声にも注意を払う。



「『クラス』って、このチェスの駒の名前のこれ?」

「なるほど、今回はこれで課金なんだね」

「『ゴースト』だと、無料の代わりに補正なし。 『ポーン』で攻撃力、防御力ともに+50……」

「『ビショップ』だと、攻撃力+500、防御力+500……はぁ!? なんだよこれ、やっぱ課金した奴が勝つ仕組みじゃん!」

「でも、生き残るだけで全額が返金だろ? なら、逆に強いクラスを取った方が良くないか!?」

「クイーンの+2000って、絶対に倒されない設定だよね~」



 そのざわめきが気になって、俺も「クラス」をチェックしてみる。

 どうやら、「クラス」というのは、一時的なジョブみたいなものらしい。


ーーーーーーーーーーーー


クラス:『クイーン』 :補正パラメータ +2000

    『ビショップ』:補正パラメータ +500

    『ナイト』  :補正パラメータ +250

    『ルーク』  :補正パラメータ +100

    『ポーン』  :補正パラメータ +50

    『ゴースト』 :補正パラメータ (なし)


ーーーーーーーーーーーー


 なるほど、恒例の「課金しないと勝てませんよー」か。

 だが、単純に課金すれば勝てる訳でもない。

 数で囲んで叩けばどうにかなるバランスである事も透けて見える。


「(このゲーム、本当にPKを推奨してるんだなぁ……)」


 多分これ、重課金者がどれだけ集まるか(集められるか)が、勝負のキモなんだろうな……。


 だが、俺がそんな事を考えていると、ピンポーンとジングルが鳴った。

 ギルド加入による、フレンドメールの到着だった。


ーーーーーーーーーーーー

TO:レオ


今どこに居る? 教会の前で待ってるから、早く来てくれ。


FROM:鋼鉄戦鬼ムラサメ

ーーーーーーーーーーーー


 いっけね、本題を危うく忘れる所だった!!

 俺は慌てて教会前に走りこんだが……。


 何だ、この人の群?

 10人くらい人が居るんだけど……?


「遅いぞ、レオ」


 その群衆の中から、ムラサメが現れた。


「ムラサメ……なんだ、この人たち?」

「なんだ、って、僕らのギルドの仲間だよ。 今度のイベント、彼らと共に戦おうぜ。 ほら、『リント』、『エナリス』!」


「よ、よろしく……」

「が、頑張りましょう、レオさん……」


 思わず俺は「ええっ……。 こいつらと仲間、か?」とツッコミそうになったが、危うくそれを飲み込んだ。

 俺たちがPKした連中は、やむなく従っているだけで、心から仲間になりたい訳じゃないはずだ。


「あ、ああ、よろしく、リント、エナリス」

「こっちこそよろしくです、レオさん」


 だが、それを口にしても全くの無意味。

 俺たちは非常にぎこちない挨拶を交わした。


「それと、『オリオン』と連絡取れたよ。 模擬戦会場で待ってる、って。 今」

「マジか!? ……って、模擬戦て?」

「そこに、オベリスク(転移門)出てるじゃん。 明日のイベントバトルの予行演習が出来るんだって」

「そ、そうか……」


 遂に、保科と一騎打ちか……。

 なんだか、試験勉強とイベントの凄さに釣られて、準備は全く出来なかったな……。


「心配するなよ、レオ。 僕が居る。 乱戦に持ち込んで、必ずあいつらをブッ倒そう」

「ムラサメ……!」


 うわ、なんだかムラサメの存在が超心強い。

 イラつく奴だけど、本当に居てくれると助かる。


「行こう、皆! ちゃんと見届けてくれよ!」

「は、はい……」


 ムラサメはPKKした連中に声をかけ、俺たちは、集団で転移門をくぐる。


 ……するとそこには、抜けるような青空を背景に、滝がどうどうと流れ落ちている巨大な岩山のオブジェクトがあった。

 なんだか、夏の田舎で見かけたら、一泳ぎしたくなるくらい爽快な光景だ。


 手前に巨大な旗があるが、滝の上、岩山頂上にも旗があるのが見える。

 その岩山に張り付いて、数多くのプレイヤーが戦いながら、押しあいへし合いを繰り返していた。


 だが、俺がそんな光景を眺めていると、滝壺の隣に居た一団が、こちらにゆっくりと向かってきた。


「こんにちは、レオくん」

「……オリオン!?」


 先頭にオリオン、そしてミルフィーユと、フィールドマウス。

 だが、オリオンの後にゾロゾロ付いてきた、他のプレイヤー。 その数は軽く30人以上居た。


「レオくんも、結構集めてきましたね。 じゃあ、始めましょうか」

「たいした数だな……。 オリオン、望むのは一騎打ちだよな?」


 しかし、これじゃ乱戦でも……!

 相手の数が多すぎる!


「ええ、もちろん……と言いたい所ですが、一つ提案があります」

「……何だよ?」

「この勝負、明日にしませんか?」

「は!?」


 すると、保科……いや、オリオンは、背景の滝と、それに群がり戦う皆を見ながら言った。


「せっかく、豪華なイベントバトルが開催される訳でしょう? もったいないですよ。 脱出不可能なのもいい感じですし、明日を決戦日にしませんか?」


 俺は一瞬躊躇したが、ムラサメが正々堂々参加できる形になるのはありがたい。


「……分かった。 おまえが望むなら、そうしよう」

「どうも。 僕らは、紅薔薇軍に入ります。 レオくんは、白薔薇軍に加入する……どうですか?」

「レッド対ホワイト、って事だな。 いいとも」

「じゃ、決まりですね。 僕らの因縁、明日でそれを清算しましょう。 負けても文句言わないで下さいよ」

「お前こそな」


 オリオンたちは、オベリスクに次々飛び込んでいくが、


「レオ、ムラサメ、覚えておけよ……貴様等は、絶対に許さないからな」

「ああ、君、エクソダス? スペア装備かい、それ?」

「いけしゃあしゃあと、人の装備使いやがって……どっちがPKプレイヤーか、分かりゃしねぇ」

「君らに決まってるだろ? 自分らがやっていた事をやられたからって、逆恨みするなよ」


 エクソダスの一団が残っていたらしく、ムラサメとそんな煽り合いを繰り広げる。


「おい、止めとけって、ムラサメ……」


 俺がそう一団を諫めようとしたら、


「レオっち」


 シングルチャットで、俺を呼ぶ声がした。

 それは、元バイト仲間の、小野田さんの声。

 アバターネーム「ミルフィーユ」……。

 俺の装備の、元の持ち主。


「ウチらに迷惑かけるだけかけといて、そんな堂々とのさばってるなんて、絶対に許さないからね。 明日はその罪、必ず償わせるよ」


 罪、って……。

 俺に、何の罪が……。


「ミルフィーユ……」

「ウチの名前を、軽く呼ぶな。 明日で何もかも終わりだよ、レオ」


 そう言って、ミルフィーユはオベリスクに飛び込み、ワープしてしまう。


「おい、大丈夫なのかよ、俺たち……」

「これさ、後でこっそり紅薔薇軍に入った方が良くねぇ?」


 誰かが、エリアチャットで、そんな事を呟く。

 だが、ミルフィーユの言葉に打ちのめされた俺には、それが誰かを確かめる気力は、残っていなかった。

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