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(61)死刑執行者


「貴様等は、絶対に許さねぇからな……!! 必ず殺してやる! 殺してやるぞ! 布団の中で震えて待ってろ!!」


 アバター「神鋼歪雲」が、復讐の叫びと共に「転移の魔法石」を使って脱出しようとしたその時、


「コマンド! フレイムバルカン!」


 ムラサメが、ボイスコマンドで魔法を起動させた。


「な!?」


 無数の火炎弾が、まるで散弾のようにバラ撒かれ「神鋼歪雲」の姿を捉える……が、


「ちっ!」


 既に当たり判定は消失していたらしく、炎の散弾は一発たりとも命中することなく「神鋼歪雲」は姿を消した。


「くそっ……逃げられた!」

「おい、やり過ぎだろムラサメ! 俺たちは、噂を消すために、PKプレイヤーを倒してるんだろうが!」

「そうだけど? それが?」

「それが、じゃねーよ! 装備まで剥いだら、あんな風に恨みを買うだけだぞ! 逆効果だっての!」

「今回だけだよ」

「え?」


 すると、ムラサメはたった今奪った剣……『鬼哭剣【天翔蝶鳳】』のキャンセル感覚を確かめるように、型稽古の如く剣を振り回しながら言う。


「どうしても、攻撃力の高い剣が欲しかったのさ。 僕らの戦力増強のためにね。 スリープ・クラウドでPKKするにしても、2つしか持ってなかったから、連中は絶好の相手だった。 ……逃したくなかったんだよ」

「だから、PKじゃなくて、買えば良いじゃねーか!」

「売ってないんだよ」


 え?


「ネージュ村だけの話だろうけど、僕の経験上、5万円を越える価格の武器は見たことないんだ。 頭打ちなんだよ」

「え、マジで?」

「そう。 だから今の僕は、ネージュ村でなら最強レベルの強さのはずさ」


 いや、それはおかしい。

 ミルフィーユが装備してた「エレガンスメイル」は、売却価格が8万5千円、つまり購入価格に直すと34万円だ。

 5万円が上限だなんて事はない。


「その話、本当か、レオ!?」

「ああ」


 だとすると、アレを連中はどうやって手に入れたんだろうか……?

 隠しショップ?

 あるいは、他の町から流れ込んできてる、とか……


「ま、それは僕らの情報不足だな。 オリオン達は、爆弾やスクロールも含めて、独自ルートで入手してるんだろうな」

「かもな。 PKプレイヤーを倒していく中で、そこらの情報も入手できると良いな」

「ところでレオ、さっきの件……、お前『オリオン』が高卒だって事を、何で知ってて黙ってた?」

「……」


 喋るかどうか迷ったが、俺は言った。

 オリオンの正体は俺の元バイト仲間の「保科泰人」で、何故俺が憎まれているのかという事を。


「……。」

「という訳なんだ」

「なんだ、元はと言えば、お前が原因なんじゃないか。 どんな風に働いてたかは知らないけど、これ、お前がバイト先に迷惑掛けなければ済む話だったんだろ?」

「おいおい、俺のせいにするなよ! 何でそんな話になるんだよ!」


 まるで、イジメの原因が被害者側にある、みたいな言い方しやがって。

 イジメの元凶は加害者側に決まってるだろ。


「大体、俺程度のスキルのバイトくらい、世の中結構居るっての! 最初は誰だって初心者なんだからさ!」

「まぁ分かった。 レオがポンコツ過ぎたんじゃなくて、その保科くんが、弟憎しの余りにレオ憎しだった、というお前の主張を信じるよ」

「だから、ホントだっつってんだろ!」

「なら、オリオンに電話して、一騎打ちでケリつけてくれよ。 二人の争いに、村のみんなを巻き込むな」

「……まぁ、分かった」


 その条件を、保科が飲むかどうかは微妙だけどな……。

 あいつは弟が嫌いで、ゆえにオタクが嫌い、だからゲームの中に居る連中も全員殺そうってしてたんだぞ。

 その中でも特に俺が嫌い、ってのは認めるけどさ。


「それと、レオ、お前行動がブレ過ぎだよ」

「え?」

「あのさ、原因はどうであれ、PKプレイヤーを倒さなければならないのは、お前自身の問題だろ? 自分がヤバいからだろ? なのに、さっきから躊躇したり、協力してる僕に茶々入れたり、装備剥ぐなとか言ったり、何なの? 杵島君の敵討ちは、どこ行った?」


 ……いや、別に忘れてる訳じゃないけど、いざ相手を倒すとなると、やっぱちょっと可哀想になる、っていうか。


「なんだそりゃ」


 ムラサメは、心底呆れ果てたように言った。


「あのな、レオ、何かを捨てなきゃ、何かを得ることなんてできないんだよ。 お前は人の意見に左右され過ぎで、自分がない。 とにかくただ『いい人』であろうってしてる」


 ムラサメの奴、強い武器手に入れたら、途端に態度デカくなったな……。 ちょっと、調子こき過ぎじゃね?


「あのなムラサメ、俺は、『相手から装備を剥がない』ってのを徹底して欲しいだけだ。 それだけなんだよ。 噂を消していくのと、装備を剥ぐのは別問題だろ!?」

「分かった分かった、僕もこれさえあれば当面問題ないから、お前と一緒にいる間はPKしないよ」

「俺と一緒に居る時、は……?」

「僕だって一応、賞金首だからね。 ソロプレイ時に襲われないとも限らないし。 まさか、僕のソロにまで口を挟むつもりじゃないだろ?」


 ……まぁ、それは、そうだけど。


「分かってくれればいいよ。 それとレオ、さっき僕が使った技……『フレイムバルカン』を教えとこうか?」


 あの、火炎散弾銃? もしかして、新しい魔法か?


「いや、あれはただの『ファイアーボール』さ」

「じゃあ、何であんな事になるんだよ」

「実はね、『ファイアーボール』って、連打キャンセルができる事に、最近気づいたんだ」


 連打キャンセル?

 格闘ゲームの小技とかで、モーションの戻りを先行入力で打ち消せる現象のアレ?


「それそれ。 アバターが『ファイアーボール』って叫ぶ時の、『ファ』『イ』の間で、連打キャンセルが掛けられる」

「……本当だ」


 言われたとおりにタイミングよくアイコンをタップすると、確かに火炎弾が連射できた。


「それを、射角を細かく調整しつつ連打する」

「え、それだと結構難しくねぇ?」

「慣れだよ。 何だったら、仮想アナログスティックを適当にいじりながら、でも上手くいくよ」


 あぁ、なるほど……。

 やってみたら、確かに、火炎弾の散弾が撃てた。

 MPの消費がもの凄いけど。


「これをマクロで登録したのが『フレイムバルカン』。 1対多数で役立つと思う。 あと、このネーミング、使って良いよ」

「……ムラサメ、お前のネーミングセンスは、どうも香ばしくていけない」

「ほっとけっての!」


 だが、そこで俺たち二人の言い争いは、中断させられた。


 ピピピ、ピピピ、ピピピ……


 突如鳴り出す、二人のクライムアラーム。


「また来たよ、レオ」

「どうしてこんなに多いんだろうな」

「覚悟を決めてくれよ」

「分かってるよ。 お前こそ、装備は剥ぐなよ、ムラサメ」

「くどいよ、レオ」


 そう言いつつ、俺たちは再びPKプレイヤーとの戦闘を開始した。



「サザンナイト・エクスプレス!」

「ぐわぁっ!」

「フレイムバルカンッ!」

「何それ!?」


 ムラサメの「鬼哭剣」と、俺の「デュボアナイフ」、そして二人の「フレイムバルカン」の威力は圧倒的で、拍子抜けするくらい、俺たちはどのパーティにも遅れを取ることなく圧倒できた。


 俺はボコボコにした相手に対し、装備は剥がない旨を伝えて安心させたうえで、


「いいな? 賞金稼ぎなんて、すぐ止めろ。 殺し合いとか、お互いに殺伐とするだけだろ? お前等だって、せっかく入手した装備を剥がされるのはイヤだろ? だったら、自分もそういう事しちゃいけないよな? 分かったか!?」

「わ、わかりました……」

「じゃあ、君ら全員、僕らのギルドに加入してくれ。 これでお互いPK出来なくなるし。 それと、元凶の『オリオン』ってプレイヤーを見つけたら、連絡くれよ」

「は、はい……」


 こんな感じで、都合3チームをPKKした。


「意外に、オリオンの事を知ってる連中はいないな」

「ま、ネットの記事の方が宣伝効果は大きいからね」


 だが、4つ目のチームに出会った時。

 「アスコット」をリーダーとするその連中は、PKプレイヤーにしては珍しく穏やかな一団で、俺たちを見ても攻撃してくる様子はなかった……が。


「キリシマ・レオだろ、お前」


……!!


 出会い頭、リーダーらしきアバター「アスコット」からそんな一言が不意に放たれた。


「お前……オリオンの仲間か? 俺のこと、奴から直接聞いたのか?」

「ああ、そうだよ。 装備を剥がされるのを勘弁してもらう代わりに、とにかくお前に嫌がらせするように言われたな」

「嫌がらせ!?」

「何でも良いってさ。 PKでも、リアルアタックでも」

「何だと!? オリオンの奴そんな事言ってたのか!?」

「でも、俺はそんな事をする気はサラサラないぜ」


 ……え?


「あの野郎、お前のリアルをバラしてたけどさ、それはルール違反だよな。 ちゃんと勝負できる場所はあるのに、他の所で嫌がらせするってのは、ただの卑怯者だ」

「そう! そうだよな! アンタ分かってるじゃん! まさにその通りだよ!」


 俺だって、保科をネットに晒すって方法はあるんだ。

 だがそれをすれば、あのコンビニにリアルアタックするアホが絶対に出てくる。

 追い出された所だけど……皆に迷惑がかかるから、それだけはしたくないんだ。


「だから、俺は『オリオン』と真っ正面から戦った。 奴の根性が気に食わなかったからな。 でも負けた。 俺達4人ですら、全く歯が立たなかった。 なのに、お前等2人で勝てるのか?」

「それは、やってみないと分からないけど……」


 俺はそんな弱気なリアクションをしたが、


「いや、勝つよ。 負かされたままでは済まさない」


 ムラサメは超強気だった。

 ひゅう、とアスコットが口笛を吹く。


「見た感じでは絶望的だけどな。 ……奴と戦うつもりがあるなら、話をつけるが、どうだ?」


「一騎打ちの申し出ってこと?」

「そうだ。 お前等と正々堂々戦うように伝えとく」

「じゃ、明日の土曜日……。 イベント告知終了後に、ベルディスカ山の頂上で、決着を付けようって伝えて貰って良いか?」

「良いとも。 それと、俺の名前を忘れるなよ。 報酬が貰えなくなるからな」

「分かってるよ、マスコット」

「アスコットだ!」


 そう言って、アスコット率いる連中は、俺に別れの挨拶をすると、PKプレイヤーなのに案外爽やかに去っていった。


「ムラサメ……。 お前、さっき、やたら強気だったな」

「ふ……ふふふ」

「何だよ、何笑ってんだ、気持ちわりぃ」


 だが、ムラサメは、興奮を抑えられないような口調で言う。


「レオ……僕な、今さっき、『ジョブ』に目覚めたんだ」

「今さっき?」

「そう、連中との会話中にさ。 いきなりアバターが輝いて、突然そういうメッセージが出てきた」

「何もしてないのに? やたら唐突だな」

「通信とフラグ判定に時間が掛かってたみたいだ。 ジョブの内容を見て、まぁ納得したよ」

「で、そのジョブって何なんだよ、勿体付けるなよ」


 すると、ムラサメはクスクスと笑いながら、自分のステータス画面に表示されている解説を読み上げた。


ーーーーーーーー


ジョブ:「エクスキューショナー(死刑執行者)」


【解説】

茨の戒律と裁きの天秤の基、極刑を司る断罪の執行者。

装備レアリティが自分以下のPKプレイヤーを15人倒す事で解放されるジョブ。

ただし、ホワイトネームカラーである事が条件。


【効果】

PKプレイヤーに対してのみ、攻撃力が大幅に増大(※110%~350%)する。

攻撃力倍率は敵のPK数に比例する。


ーーーーーーーー


「死刑執行者……凄いだろ!? 僕、気に入ったよ! 『鋼鉄戦鬼』にふさわしい職業じゃないか!」


 そう言って、ムラサメは笑った。

 自分のうちの何かが抑えきれないような……そんな笑いだった。


「この『鬼哭剣』の攻撃力が3・5倍だぜ!? 3500越えだよ! 多分どんな敵だって瞬殺できる! あのオリオンだってすらな!」

「おい、ムラサメ!」

「オリオンと戦う時は僕も呼んでくれよ、レオ! 呼ばないという選択肢はないと思うけどね! 必ず倒してみせるよ!」


 そう言って、ムラサメは心底愉快でたまらない、という風情で笑った。


 ……やべぇ、こいつ未知の強ジョブに目覚めたせいで、ちょっとハイになってやがる。

 ネトゲで超レアアイテムを入手して、「ねぇこれ見て見て! 凄いでしょ~!」と晒して廻る、鼻息荒い人と同じ状態だ。


「分かったよ、ムラサメ……。 明日は期待してるぜ」


 だが、俺はムラサメの高揚した気分に冷や水をぶっかける事なく、その場を収めた。


「もう今日は、これくらいにしようぜ。 戦果はあったし、試験勉強もしなくちゃだしな」

「……ん、そうだな、分かった。 レオ、オリオンに電話するのを忘れないでくれよ」

「分かってるって」



 そして、俺は「リヴァイアサン」をログアウトした後……。

 携帯のホーム画面をしばし見つめた。


 イヤだな、気が重たいなぁ……。

 あんな事になった相手と、何話せば良いってんだよ……。

 電話したくねぇ……。


 ……でも、やらなきゃ。

 そうしないと、この先何も解決しない。


 俺は電話帳のリストから「保科 泰人」を選ぶと、電話を掛けた。


 プルルルル、プルルルル……。


「……もしもし」


「保科か」


「礼雄くんですか、お久しぶりです。 何の用?」


「とぼけんなよ、お前……。 ゲームの中の連中に、俺を攻撃しろって吹き込んだろ? その件だ」


「それが、どうしました?」


「どうもこうもじゃねーよ! お前のせいで、怪我人が出たんだよ!」


「ああ、あのニュースですか? 僕も一瞬、もしかしたらと思ったんですが……。 でも、あれをやれって言ったのは僕じゃないですよ」


「嘘付くな! お前の仕業だろうが! ネットに書き込んだのも!」


「嘘付くな、って、何様のつもり? ……礼雄、お前、いい加減にしろよ? 俺はマジで自分の身内にしか言ってねーよ。 他の連中が聞き耳立ててた事まで責任取れっかよ!」


 お互い怒りでテンションが上がってきたが、止めようがなかった。


「おい、保科。 決着を付けようぜ。 アスコットって奴にも言ったけど、明日のイベント告知後……一騎打ちで決着を付けよう。 どうだ」


「はっ、僕に勝つ気ですか? 良いですよ? 尻尾巻いて逃げ出さないよう、くれぐれもお願いしますね」


「お前こそ……!」


 ブツッ。


「あ、ちくしょ、このヤロ……。 途中で切りやがった」


 だが、俺は大きなため息をついて、独り言を言う。


「でもまぁ、いいか……。 ちょっと頭に血が上りすぎたけど、一騎打ちの約束は取り付けたし……」


 あ、一騎打ちじゃ、ムラサメの力を借りられないじゃん……。


「ま、いいか」


 俺だけじゃ確かに厳しいが、多分、ムラサメがしゃしゃり出てきて乱戦になるだろうし、あっちも約束を守って一人でやってくる事はまずないだろう。


 多分、ムラサメが連中に大打撃を与えてくれるはず……。

 何せ、攻撃力3500だし、俺の装備だって元々、ミルフィーユが装備してたもんなんだしな……。


 きっと、イケる。


 俺は、一仕事終えた後の解放感のまま、布団に潜り込んだ。



  *   *



 だが、俺は何も分かっていなかった。

 この一騎打ちの電話は、最悪の選択肢だったことに。

 今時のメディアに浸かり過ぎていた、俺のゆとり脳では、それに気づけなかったのだ。


 先刻、俺は自らの弱点を保科に暴露していた。

 そしてその失策は後に、もっとも後悔する形で俺を襲う事となる。

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