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(60)「ぬるぽ」&「ガッ」

 ムラサメは、実に楽しそうな口調で言った。


「それに、僕とお前のコンビなら、大抵の相手に勝てそうな気がするんだよ。 ……レオ、そう思わないか?」

「大抵の相手に……勝てる?」

「そうさ、レオの防御スキルと、麻痺剣。 僕の攻撃力と『エネミーアナライズ』。 お互いの不足部分を補い合った、理想的なコンビだよ」


 それは、確かに。

 俺とムラサメは、これ以上ないくらいに完璧な構成のユニットだ。


 ……PKをするとなれば、な。


「中の人のウマが合わないのが、唯一の難点かなぁ。 あのさ、僕が協力してこそ、このネットの噂に立ち向かえるんじゃないのかい?」

「……そうだな、すまない」

「分かってくれれば良いんだよ。 さ、もう少し探そうよ。 リベンジに、ベルディスカ山とかどうだい?」


 俺たちは、道中に出るモンスターを蹴散らしながら、雪山へと向かう。


「あのさムラサメ、考えたんだけど、村から外に出る……ってのはどうかな」

「村から外?」

「ネージュ村じゃない、隣のエリアとか。 そこに拠点を構えれば、皆、賞金首の事とか忘れてくれるんじゃないか……?」


 俺はそう問いかけるが、


「ぬるぽ」

「ガッ」


 「ぬるぽ」とかいきなり言われたせいで、うかつにも反応してしまった。


「無理だよそれは。 ネットの中の出来事は、風化しない。 毒島事件、ニュー麦茶、チャームリップ事件……。 レオも知ってるだろ?」

「あ、ああ」


 いずれも、ネットに起因する、世間を騒がせた犯罪だ。


「犯人の顔写真や出所後の履歴まで、ずっとネットの中に残ってるんだよ? きっかけさえあれば、誰かが思い出すさ」

「俺は犯罪者じゃねーぞ」

「ネットの中の『共有知』の前では、そういう個人レベルの浅はかな考えは、全くの無意味だって言ってるんだよ」


 うぐぐ……。

 浅はか、と言われてしまったが、確かにそうだ。

 現実の賞金首、もとい指名手配犯だって、どこに居ても延々と追跡されるんだもんな……。


「それにね、エリアの境界には『ゲートキーパー』が居るから、もっと仲間と装備を蓄えないと、隣町には行けないよ」


 ……「ゲートキーパー」?

 ボスモンスターの事か?


「うん、しかも、負けるとランダムで装備を奪われる、凶悪な仕様のボスなんだ」

「何だそれ!? 何でそんな事になってんの!?」

「知らないよ。 だからそのせいで、PKプレイヤーは、めったに町から出ようとしない。 ま、獲物はゴロゴロ居るんだから、出る必要もないのかもしれないけど」


 ピピピ、ピピピ、ピピピ……。


「おっと、獲物発見」


 ベルディスカ山の麓に、4人組のパーティが居た。

 俺たちは相手に見つかる前に、速攻隠れる。


「……ヤバいな、連中、結構強いぞ」


 「エネミーアナライズ」を使い、敵の戦力を分析したムラサメが、そんな事を呟く。


「マジか?」

「ああ、一人、『エクソダス』って両手剣使いが居るが、こいつ、攻撃力が1000を越えてる。 『炎神剣』と同レベルの課金剣だな」

「じゃ、止めようぜ! それじゃヤバ過ぎるだろ!」


 ……だが、ムラサメは僅かの間を置いて、言った。


「いや、やろう」

「何で、お前……!」

「僕に考えがある。 レオ、さっきと同じように、単独で近づいてくれ。 それと、できるだけ、連中の行動を引き延ばしてくれよ」

「でも……」

「いいから早く! 何グズグズしてるんだよ、レオ!」


 そう叱咤され、俺は「転移の魔法石」をスタックすると、連中に渋々近寄る。


「あのー、すいませぇーん、ちょっとお聞きしたい事がぁー」


 警戒感を持たれないないよう、わざとトボケた声を出す。


「何だ、お前?」

「あの、『オリオン』ってプレイヤー、ご存じありません?」


「……おい、こいつ『レオ』じゃねーのか!?」

「そうだよ、あの賞金首の! でも、こいつ本物か!?」

「どっちでも良いよ! 狩っちまおうぜ!」


 大人気だな、俺。 萎えるぜ。


「待って下さい! 皆さんは、何で俺を狙うんです!? 『オリオン』に脅されてですか!? それともやっぱり、ネットの掲示板でですか!?」


「お前に答える義理はねーよ、死ね!」


 そして俺は、4人に一気に囲まれ、総攻撃を受けた。


「コマンド! スリープ・クラウド!」


 だが、囮になった俺を中心にして、隠れていたムラサメの眠りの魔法の巻物が炸裂し、連中は「うおおっ!?」「何っ、仲間か!?」という悲鳴を上げながら、眠りの雲の中にバタバタと倒れていった。


「よし、レオ、起きていいよ」


 俺はムラサメに蹴られて起こされた。


「まず、この『エクソダス』から倒そう」

「分かった、ムラサメ」

「ま、待て、お前等……! オリオンの情報が欲しいんじゃなかったのか!? 教えるから、殺さないでくれ!」

「はっ、何を虫の良いことを……。 教える義理は無いんだろ? そんな奴と取引しようとは思わないね」


 ムラサメはそう拒否し「レオ、頼む」と言った。

 俺とムラサメは、エクソダスを挟撃し、反撃させぬまま一気に全損まで持っていった。

 アバター「エクソダス」は、悲鳴をあげて地面に倒れる。


「止めてくれ! この装備だけは勘弁してくれ、本当に! 金かかったんだぞ!」


 俺はこの時まで、ムラサメが「仲間になれば勘弁してやる」と言うものだと思っていた。


「止めろ! 装備を剥ぐなぁ、お前ーっ! 殺すぞ、本当に殺すぞッ!」


 だがムラサメは、躊躇なく「エクソダス」の装備を奪い取ったのだ。


「ムラサメ、お前!」

「なんだ、この剣……。 『鬼哭剣きこくけん天翔蝶鳳てんしょうちょうほう】』……攻撃力1056のくせに、完全に無属性かぁ。 『炎神剣』の方が、まだ使い勝手良かったな」


「お前、お前……! 絶対に許さねぇぞ!」


 怒気も露わなエクソダスに対し「うるさいな、僕なんか、お前以上の剣を奪われた事あるんだよ。 この程度の剣でグズグズ言うなよ」とムラサメは突き離した。


「さて、残りのお三方……。 僕、『スリープ・クラウド』をあと一つ持ってるんだけど、どうする? 戦うか降伏するか、いますぐ選んでくれ。 今見たとおり、反抗的な奴には、容赦しないよ?」


「お前、何を偉そうに……!」


 未だ眠りの魔法で倒れている3人のうち、「ダイン」なるアバターがそう吼えたが、


「はい、失格。 喰らえ」


 ムラサメは、奪い取った無属性の両手剣『鬼哭剣【天翔蝶鳳】』……長大な日本刀に似たその剣を装備して、ブレードアーツ「サザンナイト・エクスプレス」を放った。


「……!!」


 ダインのHPゲージが、一瞬で全損した。


「うーん、攻撃力が1000越えると、破壊力の桁が違うね。 両手剣はやっぱりこうでなくちゃ」


 倒されたダインも、エクソダス同様に懇願する。


「や、やめやめやめ! 俺が悪かったー! 剥ぐの、やめて! お願い!」


 だが、ムラサメは「ダイン」の装備も、容赦なく剥いでいった。


「あんぎゃあーっ!」



「さて、残りのお二人は、どうする?」

「わ、悪かった! この二人が先走っただけなんだ、許してくれ!」

「そうそう! 俺たちは、『オリオン』の情報を知ってるんだから、許してよ!」


「へぇ、どんな情報?」

「俺たち、オリオンとは仲良くてさ……リアルを知ってるんだ!」


 ……!? 保科の友達、だと!?


「オリオンも、学生だって言ってたぜ。 宇園大学の3年生らしい」

「ふーん、それはそれは……。 学部は何か、分かるかい?」

「え、学部……? えっと、確か、教育学部……とか言ってたような」

「それは良い情報だな、ありがとう」


 だが、俺はそこまで聞いて、ムラサメと連中の会話に割り込んだ。


「……いや、ムラサメ。 こいつは、助かりたいがゆえに、嘘を付いてる。 オリオンは高卒だよ」


「……はぁ!?」

「えっ!?」

「何だって!?」


 驚愕する、その場の3人。


「何で、そんな事を知ってるんだ、レオ!?」

「その理由は後で話す。 ……そろそろ、眠りの効果が切れるぞ、ムラサメ」


 俺は、そこでムラサメがギルド加入の交渉に入ると思い、そう促したのだが、


「分かった。 喰らえ」

「ぎゃあああぁっ!!」


 『鬼哭剣【天翔蝶鳳】』での「サザンナイト・エクスプレス」が、残る二人「ユーグレイ」「神鋼歪雲」にまとめて炸裂し、二人とも一気に全損した……と思ったのだが、立ち位置が甘かったか、「神鋼」の方が僅かに残った。


「レオ! しまった、残した!」


 そう言われ、俺はそいつを麻痺させようと距離を詰めたが、


「コマンド!」


 という敵の叫びで、反射的に距離を取る。


「覚えてろよ、レオ、ムラサメ!」


 そして相手が使ったのは、魔法ではなく「転移の魔法石」だった。


「……しまった!」

「貴様等は、絶対に許さねぇからな……!! 必ず殺してやる! 殺してやるぞ! 布団の中で震えて待ってろ!!」

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