表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/116

(56)暴力の美蜜

DATE : H27.2.2

TIME : 1:18

STID : 00941724



「奪わなきゃ、奪われるんだぞ……! 分かってるのか、レオ……!」


 俺が、何も言えずに固まっていると、俺のアバターが一瞬発光した。 何だ!?


「お前のその装備……守備力が、350越えてるじゃないか。 それ、どうした? この短期間で、どこで手に入れたんだ?」


 こいつ、「エネミーアナライズ」で、俺のアバターの情報を読みとったのか。


「……あの後だよ。 俺とお前で、オリオン達と戦った時」

「まさか、あの3人を相手にして、勝ったのか!?」

「ミルフィーユだけな。 これはその時手に入れたんだ」


 MPKで倒したって事は、格好悪いので伏せたが。


「そ、そういう事か……。 やるね、剣闘士大会で、僕を倒したのも、案外フロックじゃなかったのかもね」

「いや、俺、あの大会で準優勝したんだけど」

「えっ、嘘だろ!? 無課金だったくせに!? 本当かっ!?」

「嘘じゃなくて、マジで」

「く……。 ぐぐぐ……!!」


 で、ムラサメの奴は、超絶悔しそうだった。

 っていうか、どんだけ人を下に見てるんだよ、コイツ……。

 ちょっとはいい感じに誤解してろ。


「と、とにかく、お前だって、他人から装備を剥ぎ取ってるんじゃないか!」

「あのな、俺がミルフィーユから装備を剥いだのは、お前の炎神剣を取り返したかったからだよ」

「……え?」

「でも、運がなかったのか、それとも別な理由があったのか、ミルフィーユのストレージに、お前の剣はなかった」

「そ、そうか……。 変な事言って、すまない、レオ……」


 あの時の、やめて、というミルフィーユの絹を裂くような叫びは、今も耳に残ってる。


「でも、やっぱり、正しい事だとは思えないんだ。 相手を殺して、装備を奪うって。 それって、ただの強盗殺人じゃないか。 ……そう思わないか、ムラサメ」


 だが、ムラサメは「いいや」と前置きしてから、言った。


「レオ、その考えは極端過ぎるよ。 自分からPKを仕掛けるのは、確かに悪いことだと僕も思う。 でも、襲いかかってくる連中を倒すのは全然構わないはずさ」


 ゲームなんだから「殺し合い」じゃなくて、「競争」だと思いなよ、とムラサメは付け足した。


「それは……まぁ、確かに。 でも、装備まで奪う事はないんじゃないのか?」

「何でそういう思考になるのかな」


 ムラサメは、ため息をつきながら言う。


「戦うのと奪うのは、同じことだよ」

「……え?」

「それに、僕たちはいつも、無自覚に『奪ってる』じゃないか」

「何だ、それ。 どういうこと……」


 だが、俺がムラサメの不可解な発言を問いただそうとした所で、会話は中断させられた。


「お前等ぁぁああーっ! 良くも、ブリガンドを! ぶっ殺してやる!」

「詫びろよ、ブリたんに! 装備を返せ、レオ!」


 村の中から、「ジョーカー84」と、「七色肉汁ハンバーグ」の奴が飛び出してきて、そんな事を叫びつつ、いきなり襲いかかってきたからだ。


「おい、止めろ、お前等!」

「死ね! 俺たちがここに来るまで、どれだけ努力してきたと思ってるんだぁーっ!」

「絶対許さないよ、お前ーっ!」


 連中を制止しようとするも、対応が遅れた俺は二人に挟撃され、身動きが取れなくなる。


「(……ヤバい!)」


 左右から同時に攻撃され、見る見るうちに減っていくHPゲージ。

 反撃のチャンスが……ない!


「サザンナイト・エクスプレス!」


 だが、それを救ったのはムラサメだった。


「わぁああっっ!? 何だこれ!?」


 七色肉汁ハンバーグが、ムラサメのブレードアーツで滅多切りにされ、あっという間に体力を減らして悲鳴を上げる。

 ムラサメは、いつの間にか「ブリガンド」から奪った両手剣、攻撃力400の「クレイモア」を装備していた。


「レオ! もう一人を頼む!」

「……!」


 一対一になった俺は、焦る相手の空振りの隙を見定めて、懐に入り込み、ブレードアーツを喰らわせた。


「えっ!? 麻痺!?」


 驚愕する「ジョーカー84」の声。

 ブリガンドから何も聞かずに攻撃してきたのかよ、と俺はその迂闊さに呆れたが、


「麻痺させた! ムラサメ、こっちを頼む!」

「分かった!」


 すかさずムラサメと交代し、俺は「七色肉汁ハンバーグ」に一気に切りつけ、またも相手を麻痺させる。


「……喰らえッ! サザンナイト・エクスプレス!」


 そして、麻痺して動けなくなった両者を、ムラサメのクレイモアがこれ以上ないくらいに滅多斬りにし、両者は悲鳴を上げながら倒れた。


「おい、ムラサメ、装備は……!」


 俺が制止し、両者が助命を嘆願するにも関わらず、ムラサメはそれを完璧に無視して、二人の装備を剥いだ。


「お前ぇぇ……! 絶対に許さないぞ、ムラサメっ!!」

「その剣、ブリたんから奪った奴だろ! 泥棒がぁ! 恥ずかしくないのかよ!」


 そんな罵声を響かせながら、ジョーカーとハンバーグは消滅し、教会に自動転送された。


「ムラサメ……。 お前は、あの声を聞いて、なんともないのかよ」


 だが、ムラサメの口調に、動揺はさほどなかった。


「話の続きだけど……僕たちだって日頃から『奪ってる』んだ」


 そういや、さっき、そんな事言ってたな。


「例えば、大学受験。 僕らが合格したおかげで、誰かが落ちてる。 ……それだけじゃない。 就職の採用枠、ネトゲのリソース、地球の資源だってそうさ。 全ては有限なんだ。 奪わずに生きることなんて、できやしない」


 いや……俺は、戦う事そのものは否定しない。

 だけど、相手の装備、つまり所有物を奪うのは違う、って言いたいんだ。


「上手い例えかは分からないけど……。 例えば、古代人類は、獲物と戦って、それを食料にしてたよね。 『戦う』ってことは、イコールで『奪う』ことなんじゃないのか?」

「……でも」

「いいよ、レオ。 こんな哲学的な問い、多分答えは出ない。 お前が剥ぎたくないなら、それはそれで構わない」

「……」

「ただ、僕らが狙われてるのは事実だろ? 特にお前は。 敵を無傷で解放するとか、そんなヌルい事してたら、いつか背中から刺されるぞ」

「……ムラサメ」

「いつか、僕たちのギルド……本当に作りたいんだ。 その前に自分だけリタイヤ、なんてのは勘弁してくれよ、レオ」


 そう言い残して、ムラサメは一人去っていった。


DATE : H27.2.2

TIME : 2:31

STID : 00941724


 ……眠れない。


 どれだけ固く目を瞑ろうとも、さっきのムラサメの姿と声が、脳裏に幾度もリフレインされるからだ。


「(『戦う』ってことは……イコールで、『奪う』ことなんじゃないのか?)」


 違う。

 同じ争うにしても、俺は正々堂々と戦いたいんだ。

 ゲームはもちろん、野球やサッカーもそうだ。

 ルールを決めて争うのは、清々しく楽しいだろ。


 利害が絡み、勝敗に拘り過ぎれば、清々しいはずの勝負は、一転して酷く醜いものになり、濁った負の感情がどうしても残る。


「(『戦う』ってことは……イコールで、『奪う』ことなんじゃないのか?)」


 だが、ムラサメの言う事が、理解できない訳でもない。


 俺はベッドから起き出すと、コタツの上に置いていたスマートタブレットを取り、電源を入れ、ゲームにログインする。


「……」


 ムラサメに資金、装備、アイテムを渡したせいで、手持ちの資産は著しく減った。

 一時期は、100万Cen……10万円もあったのが、いつの間にか12万Cenまで落ち込んでいた。


「たった、12,000円……」


 そう口に出すと、例えようもない心細さが、胸に去来する。


「(何で……こんな気持ちになるんだよ……)」


 さっきのムラサメとの話。

 たかがゲームで、戦うの奪うだの、あんな白熱した言い争いになるなんて、客観的に見れば恥ずかしいだけだ。

 だが、それを「たかがゲーム」と否定できない理由が、ここにある。


 ミルフィーユを倒して、嫌がる彼女の装備を剥いで、売却金額が10万円になるのを見た時。

 俺の心臓は、これ以上ないほどに激しく動悸し、高ぶったのだ。


 ……あの興奮が、忘れられない。


 もしも犯罪に快楽という要素が存在するなら、このゲームは、奪って、犯して、利用するという、原始的な暴力の悦び……その純粋な上澄みを、プレイヤーの脊髄に注入し、その魂を焼き尽くす、極めて危険な代物だ。


 もう、俺は既に体験してしまったから。

 あの興奮……その甘美さを例えるならば、乾いた砂漠で、清涼な水を得た時……。

 あるいは飢餓状態に追い込まれていた時の、一欠片の食事……。

 それに近いほどに強烈な、滾る欲望の炎だった。


 俺の魂は、すでに一部が焼かれ変質している。

 携帯を手放してなお感じるこの心細さは、まるで麻薬のような依存性。


 予感がある。

 将来、賞金額が高騰すればするほどに、俺含め、皆、このゲームにハマっていくだろう。

 そして、このゲームの魅力に本気で取り憑かれた奴は、きっと限界まで課金して、相手を倒し、全てを奪うべく、自分が破滅するのも厭わずに戦い続けるだろう。


「……鶴羽先輩」


 あの、心からゲームを愛していたはずの、純粋な先輩を別人のみたいに変えてしまったように。


「どうしてるんですか、今……」


 ……もう考えるのは、止めよう。

 このゲームにのめり込み過ぎるのは、どう考えても危険だ。


「すー、はー、すー、はー」


 俺は深呼吸を繰り返し、体に籠もった熱を、全部吐き出した。


 ……そう。 

 今、俺にはやる事があるはずだ。

 試験勉強に集中しよう。

 絶対に、それがいい。


「よし、寝る! 寝るぞ俺は!」


 毛布を頭から被り直し、「福祉経済総論」のレポートを、どう手直しすれば良いか考えていたら……。


 「ぐう……」


 いつの間にか、眠りに落ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ