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(55)ハンター+ハンター

 オリオン……保科が、ゲームの中で、俺を捜してる?


「ああ、そういう連中の何人かに逢ったよ。『レオ』って奴を知らないか、って」

「そいつら、何でそんな事やってるんだ?」

「PKされて、武器防具を返して欲しかったら、連中のギルドに入って働け……と、そういう事らしい」

「なんでまた、そんな事を……」

「やはり、目的はPKだと思う。 手下を増やして、居場所を把握しようとしているんじゃないかな」

「だとすると、随分アナログな手段だな」

「本当だよね」


 普通、ネトゲの中で誰かを殺す……PKKプレイヤー・キラー・キルの場合、ゲーム内の掲示板、あるいは「@ちゃんねる」の携帯ゲーム板にスレッドを立てて、標的の情報を書き込むのが常だ。

 すると、正義感に駆られた……あるいは別の思惑のプレイヤーの誰かが、PKプレイヤーを倒してくれる、って場合が多い。

 保科は、そんなネトゲの慣習を知らないのだろう。


「手下を増やすとか、まんまヤンキーの行動だな」

「でも、それ以外の動機が思いつかないんだよね」


 確かに非能率ではあるが、だからと言って、まったく非合理という訳でもない。

 もしも、奴が本当に俺のPKを狙っているのなら、あのプレイヤーの所に飛ぶ魔法のスクロール「アプローチャー」を使えば良い。

 ただ、イベントでならともかく、通常フィールドなら、「転移の魔法石」で逃げられるから、奴らはスクロールをまるごと損する事になる。

 だから、保科は網を張る事に力を入れているのかもしれない。

 「三国志正伝」で言えば、自国の周辺国に攻め込んで、プレッシャーを掛けているような状態か。


「……試してみるか」

「試すって、何をさ」

「連中が『アプローチャー』で飛んでくるかどうか。 村の側で待ってて、連中が本当に飛んできたら、村の中に待避しようぜ」

「意味あるのか、それ? それに僕、装備そんなに強くないんだよ」

「心配するな、今回、戦うのは無しだ」


 そう言って、俺とムラサメは、村の外に出る。

 なお、このゲームは、一日が16時間だ。

 村の中は灯りが点っていたが、外は真っ暗な夜。

 煌めく星空と、雪山にかかるオーロラが綺麗だ。


「……飛んでくる様子はないな」


 保科の奴、バイトなのかな。

 新しいシフト表が手に入れば、奴を避ける事ができるんだけどな……。


「そうだね……。 じゃあ、村に戻ろうか」


「おい、お前等。 そこの2人」


「!?」


 聞きなれない声に、俺たちは振り向く。

 村の入り口に、誰かが立っている。

 装備は暗くて分からないが、総勢3名。


「……何だよ」


「聞きたい事がある。 お前、レオって奴を……」

「ははっ、見つかったよ! やっぱここに来てた!」

「いえー、レオちゃんゲットー!」


 マジかよ。

 どうやら連中は、俺を捜していたらしい。

 そして会話のサブウインドウに浮いた俺の名前を見て、標的を確保したと思ったようだ。

 こちらのウインドウに表示された相手の名前は、「ブリガンド」、「ジョーカー84(エイティフォー)」と「七色肉汁ハンバーグ」。

 ネーミングセンスはともかく、連中は全員レッドカラーだった。


「あは、ムラサメちゃんも居るじゃん!? 美味しいね、この展開は!」

「ああ、殺るしかねーな!」


「ちょっと待てよ、お前等! 聞きたい事がある!」


 殺気むんむんのそいつらを制止しようとしたが、


「俺たちには無ぇよ! 死ね!」


 と、連中は問答無用で襲いかかってきた。


「ムラサメ、逃げるぞ! 湖へ!」

「えっ!? わ、分かった!」

「逃がすかよッ!」


 敵はそう息巻いて俺たちを追いかけてくるが、それこそが俺の狙い。


「スクロール! スリープ・クラウド!」

「何ッ!?」

「えっ?」

「わひひぃっ!?」


 俺を追いかけようと、敵が一カ所に固まった所で、眠りの魔法を仕掛ける。

 ちなみにこのスクロールは、俺を倒した「ユートム」から、マキアが剥ぎ取って、俺にトレードしてくれたものだ。

 そして、その効果は十二分に発揮され、3人はバタバタと眠りの雲の中に倒れた。


「俺たちの勝ちだな、ブリガンドさん達」

「お、お前……! 何だ、今のアイテム!?」

「今から、お前等を全損させるのと、俺の質問に答えるのと、どっちが良い? 選べ」

「……わ、分かったよ、質問に答える」

「この中で、一番、事情を知ってる奴は誰だ? 残りの奴は、村に戻れ」

「……じゃあ、俺が」


 ジョーカーとハンバーグを村に戻し、話を始めたのは、ブリガンドだった。

 そして、その内容は、ムラサメに聞いたものと、それほど変わらなかった。


 彼らは「オリオン」に圧倒的な力でPKされ、装備を奪われた。

 だが、それを返す代わりに、彼らのギルドに強制的に加入させられたのだ。

 そして、「レオ」の捜索と連絡を命じられた訳だが、オリオンからこれ以上PKされなくなるのは、彼らにとっては安心できる材料だった。


「……『レオ』を狩れば100万Cen、『ムラサメ』で10万Cen。 狩猟に繋がるきっかけを作れば半分やる、って言われたんだよ」

「そういう事か……」


 何考えてんだ、保科の奴。

 そんなに俺が憎いのかよ。

 この現代の日本で、自分が賞金首にされるなんて、思ってもいなかった。


「僕が一万円……。 レオの10分の1……? 納得行かないな」

「そういう問題じゃないだろ、ムラサメ」


 俺はため息をつくと、ブリガンドに問う。


「あのな、ブリガンド……。 お前等、こんな事して楽しいのかよ? これは、『ゲーム』だろ? 殺し合いみたいな事をしたって、お互い殺伐とするだけだろ?」


 だが、ブリガンドからは、意外な答えが返ってきた。


「いや、楽しいぜ」


「な……?」


「ゲームでも、人を殺すのは楽しいね。 優越感? 圧倒的な征服感、っての?」


「……お前!」


「それにさ、レオ、お前も本当は分かってるんだろ? このゲームは、PKを推奨してる作りになってるって」


「……!」


「殺し合いが前提のゲームで、殺し合いをして何がおかしいんだよ!? そりゃ、生身の人間なら犯罪だけどよ、たかがゲームだぜ?」


「……黙れ」


「……あ?」


 俺は怒りに打ち震えながら、それだけを言った。


「お前は……それ以上口を開くな。 そんなもんじゃない。 人の世界って、そんなもんじゃない!」


「意味わかんねーな、お前。 現実にだって、清々しい顔で人を騙して、金儲けしてる奴が居るじゃんか! それとこれと、何がどう違うんだよ!」


「……!」


「そういう連中に比べたら、俺とか全然可愛いもんじゃん?」


 俺は、何も言えなかった。

 俺自身が、一度なりと「他人を殺して金を稼ごう」という気持ちになったことがあるのもそうだが、奴の意見も、またこの世の真実のような気がしたのだ。

 怒り任せに奴を斬れば、奴の意見が正しい事を認めるような気がして……。


「もう良い。 お前みたいなのと、議論する気は失せた。 どっか行けよ」


 なので、俺は無造作に話を打ち切った。


「……いや、ここまで言われちゃ、腹の虫が収まらないな。 勝負しろよ」

「は?」

「俺と勝負しろってんだよ、レオ! どっちが正しいか、デスペナルティルールで! それとも、その威勢は口だけかよ!」

「良いだろ、やってやるよ!」


 俺とブリガンドは、お互い頭に血を上らせたまま、売り言葉に買い言葉で、そんな事を言い合ったが、


「……おい、レオ! やめとけ、奴は強いぞ! 攻撃力は400近いし、防御力も200を越えてる! 頭を冷やせ!」


 シングルチャットで、ムラサメがそんな事を忠告してきた。


 あれ、何でムラサメの奴、そんな事が分かるんだ……?


「(あ、そうか。 こいつ『エネミーアナライズ』って分析魔法を持ってたんだっけ)」


 俺はアイテムストレージを操作しながら、そんな事を考える。


 ほどなくして画面には、ブリガンドの奴が申請した、デスペナルティモードのログが浮かびあがった。

 オプションに「魔法・道具使用なし」のチェックが入っているのが何ともセコい。

 だが俺は、躊躇せずに「はい(Y)」をタップした。


 「DUEL START!」の文字が、燃え盛りながら画面を横切っていく。


「レオ!」


 俺を心配する、ムラサメの声。


「はっは、お前の貧弱な装備で、俺に勝てると思ってるのかよ!」


 ブリガンドは、そんな事を叫びながら、一直線に切りかかってきた。

 マイアバター「レオ」に、ブリガンドの両手剣……肉厚のクレイモアの斬撃が、次々と襲いかかり、周囲の空間にダメージエフェクトを散らす。


「え……あれ?」


 だがそのエフェクトは、慎ましいほどにささやかで……。

 俺のHPゲージの減りも、本当にゆっくりしたものだった。


「……お前の貧弱な装備で、俺に勝てると思ってたのかよ!」


 俺は、ブリガンドの適当な一撃を見定め、それに「ジャストガード」を決めてノックバックさせ、「シールドパリング」で体勢を崩す。


「あれ……。 お前、装備が違くね……」


「今頃気づいたのかよッ!」


 こいつは、俺の装備を見て、勝てると思ったのだろう。

 ムラサメを探すための、以前の装備を見て。

 だが本当の俺の装備は、守備力は350近くある。


「おおおおっ!!」


 俺は、最大の攻撃である、ユーズのブレードアーツを繰り出した。

 本当なら、もっと強烈な攻撃を出したいのだが、何故か俺は防御系の固有技スキルしか覚えないので、ブレードアーツがこれ以上改良できないのだ。

 とにかく、両手剣使いのそいつは、ガードもできず、たちまちのうちに麻痺した。


「ま、麻痺……!? そんな!」

「終わったぞ、ブリガンド!」


 麻痺した相手を斬りまくり、一気に全損へと追いこむ。


「YOU WIN!」


 画面に飛び込んでくる、炎の勝利メッセージ。

 デュエルモードが解除され、アバター「ブリガンド」は、プレイヤーの声質と似た断末魔ボイスをあげながら、倒れた。


「ま、待って……! レオ、ごめん、さっきのは嘘……! 人殺しが楽しいなんて、嘘だから……!」

「……」


 またもそんな事を言われ、躊躇する俺。

 だがそこに、ムラサメが走り込んできて、ブリガンドの装備を剥ぎとった。


「は、はぁぁぁあっ!? お前、何やってんだよ! コラァ!」

「ムラサメ!?」


 だが、ムラサメは何も返事せず、ブリガンドから全てのアイテムを剥ぎ取った。


「……てめぇ、てめぇ、許さねぇぞ、ムラサメ!」


ブリガンドは、怨磋の声と共に、教会に自動転送された。


「ムラサメ、お前……! そこまでする必要は……!」

「甘いぞ、レオ! こいつらの言葉を鵜呑みにするな! 見逃せば、絶対に僕たちを追ってくる! 全損に追いこんで、前線から離脱させた方が絶対に良い!」

「だからって、人の装備を奪って良いと思ってるのか!?」

「じゃあ、お前のその装備は何だ!?」


ムラサメが、俺の装備を指して言う。


「……!」


「奪わなきゃ、奪われるんだぞ……! 分かってるのか、レオ!」

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