(54)むらさめ を なかまに しますか?
DATE : H27.2.1
TIME : 21:04
STID : 00941724
俺は下宿に戻ると、佐伯理事長との会話データを、ボイスレコーダーアプリのオプションでテキスト変換し、データをパソコンに流し込んだ。
「……やった!」
表示されたテキスト、誤字は相当に多いが、思った以上にいい感じで録れてる。
後はこれを整形すれば、論文として十分だ。
「無駄かと思ったけど……勉強、意味あったな」
俺は理事長の再生音声を聞きながら、テキストを修正していく。
最初、無我夢中でwizi先生で語句の意味を調べまくった勉強は生きていた。
その知識がなければ、今日の理事長の話は、半分も分からなかったろう。
介護費用の削減案を専門家からこっそり聞き出すとか、その手段はあまり誉められたものじゃないが、それでも勉強していた事は実を結んだのだ。
「よしっ!!」
色々と資料を引用したい場所はあるが、たった2時間。
それで「福祉経済総論」の、レポートの概要が完成した。
「(これで間違いなく間に合う! しかも、現役からの情報だから、単位は確実だろ!)」
一仕事をやり終えた俺は、大きく延びをして、コタツに入って寝転がる。
でも、本当に良かった。
全く想定していない状況だったけど、あっさりとレポートのハードルを乗り越える事が出来て。
「(いや……待て、バカか俺は?)」
今、俺は、ギリギリの状況になって、この方法を思いついたが、本当なら、俺はこれをもっと早い段階で気づいていても良かったはずだ。
なのに、俺は何で気づかなかった?
「……介護関係者なのに、そうは見ていなかったから?」
何で、そう見ていなかった?
「……俺が、無関心だったから?」
そう。 それで間違いない。
『無関心ゆえに、気づかなかった』
何か、このフレーズが気にかかる。
大事な事を見落としているような感覚。
俺は、もっと……
「……ま、いいか」
しばらく考えたが、何を見落としているのかは、結局分からなかった。
レポートはほぼ終わったし、「@ちゃんねる」でも見て気分転換しようと携帯を見たら、時刻は既に11時半を指していた。
「……やべ、そういや、ムラサメの奴との約束があったんだった!」
俺は慌てて跳ね起きると、「還魂のリヴァイアサン」を起動し、「リヴァイアサンズ・メルヴィレイ」とゲーム内にログインする。
だが、ムラサメとの待ち合わせ場所に指定した掲示板の前には、意外な事に何人かのプレイヤーが居た。
エリアチャットのボリュームを上げると、
「レオって奴、来るかな」
「多分、仲間居るんだよな?」
「そうだな。 できれば来て欲しいけどな」
そんな事を言っていた。
どうやら、あの掲示板のメモを見た連中が、面白半分で集まったらしい。
すると、あいつらも宇園大学の大学生……しかも、理工の人間か。
「(くそ、どうしたもんかな……)」
声から判断するに、ムラサメの奴は居ない。
しかし、同じ大学生だ。
素性が分かっていれば、仲間にするという方法もある。
ただ、余計なトラブルを招くのは避けたい。
これでは、ムラサメは来ないと判断した俺は、奴の方から見つけてもらう事にした。
今の装備は、ムラサメと別れた後にゲットしたものなので、以前の「リップカトラス」と「ダイルメイル」を装備する。
そして、しばらく村の中をうろついていると……
「おい、レオ」
とシングルチャットで声が掛かった。
それは、まぎれもなくムラサメの声だった。
「ムラサメか! 良かった!」
ムラサメは、日本刀のような両手剣に鎖帷子という、野武士のような装備だった。 以前の、茜色の甲冑に比べたら、貧相なものに逆戻りしたのは明らかだった。
「何の用だい、レオ。 今さら」
「お前に、謝りたいんだ……あの時は、本当に悪かった」
「形だけの謝罪とか、要らないよ。 本当に悪いと思ってるなら、僕の炎神剣を取り返してきなよ!」
くそ、こいつ……。
相変わらず口が悪いなぁ……。
「悪い、炎神剣を取り返すのは無理だ。 でも、その代わりに、代金を持ってきた」
「……は? 炎神剣は50万Cen掛かったんだぞ? それをかい?」
「そうだ。 50万Cen、受け取ってくれるか?」
俺はトレードで、「回復薬」と「50万Cen」を交換した。
「レオ……お前……本当に……」
「これで、許してくれるか?」
だが、一瞬の沈黙の後、
「いや、まだだ。 剥がされた僕の防具も返してくれ」
などと、そんな事を言ってきた。
内心、ムラサメの調子ノリっぷりに「むぐぐ」とか思わなくもなかったが、幸い、ウルタン達の装備が手元に残ってる。
それを見繕って、ムラサメに渡してやった。
「……どうだ、これで文句ないだろ」
「後、道具と所持金も」
と言ってきたので、半ばヤケクソになった俺は、回復薬やスクロールをまとめて渡してやった。
「まだ要るか」
「いや、もう良い……。 お前の気持ちは、分かったよ」
しばらく間を置いて、
「……レオ、お前、何でここまでしてくれるんだ?」
ムラサメは、そう聞いてきた。
「そりゃ……悪いって思ってるからだよ。 せっかく助けてくれたのに、俺のミスでPKされる事になって……」
「それで、責任を感じてる、って事かい?」
「ああ。 そうだよ、本当に悪いって思ってる」
そして、またもしばらく間を置いて、
「意外だな……。 てっきり、見捨てられたものかと思ったけど、そうじゃなかったなんて」
「ムラサメ……」
「これだけの額……僕に返すよりも、自分の強化に使った方が、断然得だったのに……」
「……」
「……ありがとう、レオ」
最後に、ムラサメの奴は、礼を言ってくれた。
「お前のこと、誤解していたみたいだ」
そう言ってくれたのは嬉しかったのだが、少し、違和感もあった。
このシチュエーション、まさに「三国志正伝」で、何度も褒美を渡しまくって、意中の武将を口説き落とした時とまさに同じだったからだ。
ムラサメからは、誠意を尽くされたように感じるんだろうけど、俺としては、金の力で人の心根をひっくり返した気分だった。
……本当に「金額は誠意」なんだな。
「あのさ、ムラサメ、それで、一つお願いがあるんだけど……」
「何だい?」
「お前の周りに、経済学部の先輩、居ない?」
「これはまた、随分と低レベルなお願いだね」
だけど、ムラサメの返事は「僕には経済学部の知り合いは居ない」だった。
ま、そりゃそうだよな。
こいつ、サークルに入ってないって言ってたし。
「もしかして、試験のための準備かい?」
「そうだよ、悪いかよ」
「理工学部の僕にそういう事を聞くあたり、相当せっぱ詰まってるみたいだね……もしかして、そのためにお金や装備を用意してたのかい?」
「違ぇーよ! それだったら、お前じゃなくて、同じ経済の人間に渡すっての!」
「ま、それもそうだね……。 すまない、そこは力になれなくて」
「そうか、仕方ないな……。 じゃな、夜遅くに、時間使わせて悪かった」
そう言って、俺はログアウトしようとしたのだが、
「ちょっと待ってくれ」
「……?」
ムラサメに呼び止められた。
「どうかしたのか?」
「最近、『リヴァイアサン』がちょっとヤバい事になってる」
「……ヤバいこと?」
「昨日のアップデートで、水曜日もイベントが開催されるようになったんだ、このゲーム」
「うん、それで?」
「賞金額が高くなった」
今までのイベントだと、最高でも5万円程度だった賞金額が、倍を軽く越えたらしい。
「へぇ! でも、それは良いことなんじゃないか? やる気出るじゃん!」
「でも、そのせいか、PKプレイヤーが増えてきたような気がするんだ……。 やたら殺伐としてるっていうか……。 あの雰囲気は、一度経験してみた方が良いよ。 しかも、俺達を襲った奴、あの『オリオン』って居ただろ?」
「あ、ああ」
「あいつが、PKプレイヤー連中のボスみたいになってる」
「……マジかよ」
あの保科がか?
「もう相当な人数が狩られてる。 今、一人でログインするのは危険なんだ。 良かったら、僕とギルドを組まないか?」
「え?」
ギルド? こいつと?
「何だよその反応。 イヤなのか?」
「いや、ちょっと意外だったんだよ」
まさか、ムラサメの方から、そんな申し出があるとは思わなかった。
「ギルドを組んだら、どうなるのさ」
「ログインしたら、自動的にパーティ状態になるのと、連絡用の『フレンドチャット』が使用できるようになるんだ」
「フレンドチャット?」
「相手がログインしてさえ居れば、どこに居ても話しかける事ができるんだよ」
「へー……。 バフ(支援魔法)が発動したりしないのか?」
「残念だけど、それはない」
「まぁ構わないぜ。 でも、ギルド加入は、試験が終わってからな」
「確かに……、でも、あまり時間を掛けすぎると、ヤバいかもしれないよ」
「何で?」
「連中、お前を捜してるんだよ」




