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(49)おかゆ、うまい

「(…いや、分かんねぇ。 もっと、情報収集が必要だな)」


とにかく、先に進もう。

その中でこいつのデータを取って、回復薬を使い切らせて、なるべく広い所で殺す。

それがベストだ。


「ねぇ、レオくんが先頭に出てよ、ちょっと怖いよ、ここ」

「分かった、でもさっきみたいにハンマー振り回すのは止めてくれよ、俺までダメージ受けちゃうよ」

「あ、ごめんね」


その時、彼女はどんな声をあげるんだろうか。

さっきみたいな悲鳴だろうか。

それとも裏切られた事に対する絶望か、怒りか。

ふと、そんな疑問が頭をよぎった。


「部屋の奥、誰か居るよ、レオくん!」


廊下奥の扉を、何の気なしに開ける。

そこは書斎のようで、本棚が壁一面に並んでいた。

だがそこの片隅で、くすんだ茶色の服を着た女が、こっちに背を向けしゃがみこんで、何かを食べていたのだ。


「あー…。 これ、ダメだ」

「え? え、レオくん、何が?」

「あれ、スゴいダメな奴。 ルナ、もうイヤな予感しかしないから、心の準備しててね」

「う、うん」


そして、俺が近づくと、なんと珍しくイベントムービーが始まった。


「誰…?」


映像の中で、しゃがみ込んでいた女性がゆっくりと振り返る。


「誰…私の邪魔をするのは!?」


俺とルナのアバターの驚愕の表情。


「今、食事中だっだのにぃぃいいイイイイッッァァアア!!」


女性はネズミを食べていた。

しかも顔の半分が腐っていた。


えーと、ゾンビですね! ありがとうございましたァッ!


「きゃああぁぁああっ!」


これは心の準備をしていたはずの、ルナの悲鳴。

てか、いくら18歳以上推奨とはいえ、このゲームの残虐表現、結構ヒド杉内!


俺はムービー終了と同時に、こちらに両腕を掲げて掴みかかってこようとするそいつを、ブレードアーツでメッタ斬りに切り刻んでいく。


「ぐえぇ、おぼぉ、あぼぁ」


やはり、アンデッドなんだな。

死体である敵の女性ゾンビが麻痺する事はなかったが、ダメージボイスがいちいちキモすぎる。

そしてそのゾンビさんは、全身バラバラになって倒れた。


「呪ってやる…私を2度も殺したお前を…」


それが断末魔の台詞。

誰だよ、こんなキャラの設定にした奴。

萎えるだろがマジで。


部屋の主っぽいそいつを倒した俺たちは、書斎の中に魔法の本でもなかろうか、と部屋の物色を始めていたのだが、


「ねぇ、何かアイテムがあるよ」

「マジで!? 何のアイテム!?」


机の中から日記を発見した。

どうやら、ここの家主の日記らしい。


家主の名前は「コクーンデイ」。

それは極めてありがちな設定だが、コクーンさんは不老不死の研究をしてたら、人の生命活動を停止する薬…いわゆるゾンビパウダーを間違って作ってしまい、その結果、家族はもちろん、自分もうっかりゾンビになっちゃった、と綴られていた。


「おかゆ…うまい」


コクーンデイ自身が徐々にゾンビになり、味覚が変化し、内臓が腐食していくにつれ、今まで全く好きじゃなかったおかゆが食べられるようになった…。

という衝撃の一文で、日記は終わっていた。


「どんなドジっ子研究者なんだよ」

「ホントだよね…えっ!?」

「どうした!?」

「あそこ! ほら! いやぁ!」


振り向けば、さっき倒したゾンビ女性が、肉の塊となって、そこから復活しようとしていた。

ドス黒い色の肉の塊から、足や顔半分が生えてるのはヒドくシュールで、しかも超怖い。


「ちょっとルナ、あれツブしてよ。 ほっといたら復活しそうだから」

「えーっ!? イヤだよ、レオくん倒してよ!」

「いや、パーティなんだから、ルナもやってよ」

「ええ、もう、やだなぁ…」


そう不満をこぼしつつも、ルナはやってくれた。


「てい!」

「えい!」

「てぇーい!」


餅つきみたいに肉塊をスタンプした後、豪快なスイング。

バキーンといういい音と共に、肉塊状態の女性ゾンビはバラバラの肉片となって虚空に散った。


「また私を殺してくれたなぁ! この恨み、決して忘れないぞぉ!」


と、肉片になったはずなのに、どうやって喋ってるのか、またもそんな断末魔。


「うわぁ…気分最悪だよ、レオくん、もう!」

「ごめんごめん、次俺がやるよ、勘弁してよ」


そう。


ゲームだと分かってるのに、人間型のモンスターを倒して、こんな事を言われると、何故かイヤな気分になる。


ゲームなのに…。


架空の出来事なのに…。


何で、なんだろう?


その後も、俺たちは書斎の物色を続けていたが、


「あ、良いもの発見! 『ホーリークロス』だって!」


遂に、ルナが書斎の本棚から、魔法の本を発見した。


「え、マジで!? どんなの!?」


ーーーーーーーーーーー


「ホーリークロス」 57,000Cen


・自分の周囲に十字が描かれ、範囲内に居るアンデッド属性を持つモンスターは大ダメージを受ける。


ーーーーーーーーーーー


おお、アンデッド退治の魔法か!

しかも強力そうだし、いいな、これ!


「おお、これは役に立ちそう…」

「じゃ、本使うねー」

「ちょ、待った…!」

「え、何? あ、問題出てきたよ! レオくんも手伝ってね!」


だが、俺の制止よりも早く、ルナは魔法の本を展開してしまったらしい。

本当なら人数を集めてから対応したかったけど…。


「えーとね、ラッキーハンド社から発売されたカーレースゲーム『F-MEGA』の問題…あ、これ知ってる!」


え、マジで?

あの10年くらい前に出たレゲー(※レトロゲームの略)のF-MEGA?


「そうそう、それ! えーとね、主人公機『A-CAR』の最高時速425km/h に達するには、スタートからフルスロットルで何秒かかるか?」


「17秒」

「17秒!」


俺とルナは同時に即答し、わぁっというルナの歓声が上がった。 やはり正解だったらしい。


「『F-MEGA』の問題かぁ、懐かしいな、子供の頃よくやってたなー」


一対一のカーレースゲームで、俺は兄貴に付き合わされてよくプレイしていた。


「レオくんも!? あたしも良くやってたよ!」


そうだよな。

そもそも、「A-CARのMAXスピード到達速度が17秒」とか、使用車の選択ナレーションをアホほど聞いてないと覚えてないはずだし。

それだけで、ルナが「F-MEGA」を相当にやりこんでいた事はよく分かる。


「あれさぁ、今にしてみれば、相当極悪な仕様だったよなぁ」

「だよね、レースゲームなのに、柵ないもんね」

「そうそう、コースアウトですぐ爆死。 しかもさ、薄暗いトンネルでキャノン砲打ってくるじゃん? あれも最初に見た時は絶句したよな」

「いきなりドカン、だもんね! 最初、何が起こったのか分からなくて、呆然としてたよー」


ルナは、楽しそうな笑い声をあげた。


…あ、これ、今、殺せる時間だな。

ルナは完全に油断しきってる。

いきなり切りかかり、麻痺させれば、ブレードアーツで即死まで、一気に持っていける。


「でもさ、何でそんなに『F-MEGA』に詳しいの? 昔ゲームやってた?」


だけど、俺は何故か会話を続けた。


「うん、子供の頃からずーっとゲームしてたから」

「マジで? 親に怒られなかったりしなかったの?」

「あたし、親居ないもん」

「…え?」


聞けば、「ルナ」…の中の人は、小さい頃、両親が突然蒸発したのだと言う。

祖母の元に引き取られたルナは、それからしばらくふさぎ込んでおり、不登校の時代を続けていた。


だが、その姿に心を痛めた祖母は、孫とどうすれば交流を持てるか…を必死に考えた末、当時流行していたゲーム機一式を買い与えた。


彼女いわく、これがゲーマー「ルナ」の誕生日だった。


それからしばらくして、新しいゲームが欲しくなったルナは、祖母と徐々に喋り出すようになり、数年を掛けてやっと学校に行き出すようになり、中学校と卒業すると同時に、就職したのだという。


「あたしバカだから、高校行っても無駄だと思って…で、今は、アキバの地下でアイドルやってまーす」


そして、そんなことをあっけらかんと仰ってくれた。


「…」


ちょっと、俺の想像を遙かに越えた話だった。


「だからね、今もゲームするのは好きなの。 小学生の時みたいに、お婆ちゃんがお菓子持ってきてくれて、それを食べながらゲームして…。 あたしがゲームの事を喋る度にね、お婆ちゃんはうんうん、ってずっと聞いてくれてたんだよ」


そこで、ルナはちょっと声のトーンを落とし、


「でも、お婆ちゃんは、あたしが何を言ってたのかは分かってなかったと思う。 何でも良いから、引きこもりのあたしと喋らなきゃ、ってそう思ってたから、毎日何時間も隣に座っていてくれたんだ」


「そうか…。 いいお婆ちゃんだね」

「うん…。 凄く好きだった」


…だった?


「だから、ゲームをしてたら…。 今でも、お婆ちゃんが側に居てくれるような気がするの」


それを聞いて、俺は冷や汗が出そうな気分になった。

そのお婆ちゃん、多分、今は故人なんだな…。


「夢の中だけでなら、まだお婆ちゃんに逢えるから」

「そう…かぁ」


やっぱり故人だった。

そして不覚にも、ちょっとグッと来てしまった。


「本当に、素敵なお婆ちゃんだね。 俺の兄貴とか、俺をイジメ殺す事しか考えてなかったよ」

「え、そうなの!?」

「いや、もちろんゲームで、だよ? あれ、車体同士で押し合いになったら、エネルギーの低い方が飛ばされるじゃん? 柵のない所になったら、兄貴の車がにじり寄ってくるんだよ」

「うわ、それ超怖いね」

「だろー? もうホント極悪な兄貴でさー」


…ルナの話、聞かなきゃよかった。

殺意が、心の中でみるみるうちに萎んでいったのが、自分でも分かったのだ。

それに、どうも本物の女性みたいだし…。


「ね、レオくんの話も聞かせてよ。 レオくんは何でゲーマーになったの?」


ゲーマーって言うか…。


「俺には、ゲームしか取り柄がないから、かな…」


俺の話はもっとシンプルだ。

周囲から、ずっと劣等生扱いされてきた俺。

親父を除く家族は全員そうだったのだが、特に兄貴からのプレッシャーは酷かった。


「それと…ゲームが、どう関係するの?」

「ゲームでだったら、俺は兄貴と互角に戦えたからだよ」


俺は家族だけじゃなく、周囲からも劣等生扱いされてきた。 毎日続くそれが苦痛で仕方なかった。

本当に劣等生なんだろうか、と思う時もしばしばあった。


だが、俺はゲームでなら、誰にも負けなかった。

攻略本を隅々まで読み込み、それで得た情報を元に練習をして、学校帰りのゲーセンで、手当たり次第に対戦を挑みまくって、皆をボコボコにするのが好きだった。


…俺は、他人に劣ってなんてない。


俺は戦える。


本当の俺は、強いんだ!


「ゲームの中だけでも、そう思い込まないと、やってられなかったのかな…ってのは思う」

「レオくん…」


ゲームがあったからこそ…。

俺は最後に残ったプライドを失わずに済んだ。

自分は劣ってなんてないんだ、そう思う事ができた。


我ながらみっともないが、それだけが…俺の唯一の心の拠り所だったんだ。


「いいじゃない、それ」

「…え?」

「それでも良いよ、あたしも似たようなものだし」

「でも…ゲームが心の拠り所、ってのもどうかと思わないか?」

「いいじゃない、もっと変な物を心の拠り所にしてる人は一杯いるし! ゲームくらい、全然おかしくないよ!」

「そうだ…。 そうだね」

「そうだよ! それに、ゲームが楽しいのは事実じゃない?」

「そうだ…。 本当にそうだね」


他人はどうあれ、俺がゲームを楽しい…と思っている事は事実だ。

自分の周囲から否定されたからと言って、俺自身はともかく、ゲームの存在までをも卑下するのはどうか。

それでは、まるで自分の気持ちに嘘を付いてるみたいじゃないか…。


「ルナ…君の言うとおりだ。 ありがとう」

「ううん、そんな事ないよ! それで…」


…?


「それで? どうかした?」

「良かったら、その仮面取ってよ。 レオくんが、どんな顔してるのか見てみたい」

「え、マジで…?」

「そんなにイヤなの?」

「いや、そういう訳じゃないけど、イマイチ自信ねーから…」

「大丈夫! 笑ったりしないから、見せてよ!」


そう説得され、俺は渋々と頭装備の透過度を上げる。


「あ…。 レオくん、結構可愛いじゃない! もっと酷いのかと思ってたよ、安心したー」

「そ、そう言ってもらえて、良かったよ…」


どんだけ酷いのを想像してたんだろうか…?

でも、自分の顔を晒した事で、俺は完全にルナの事を殺せなくなった。


「良かったー、なんかレオくんに親近感湧いてきちゃった! これからもよろしくね!」


「(失敗したなぁ…)」


相手の事を知れば、情が湧く。

ルナは、多分俺と同世代で、しかも似たような心の傷を持っていた。

そんな相手に裏切りの剣を振るえるか?

どれだけ自分に問いかけても、俺の心からは、否、という答えしか帰ってこない。


「(しょうがない…。 PKは次に回そう)」


時間がないのに、少し惜しい気がしないでもないが、ルナを殺すのは気持ち的に無理だ。


「(今は…楽しむか)」


ここは割り切るべき、と気持ちを切り替えた俺は、今日の嫌な出来事は全て頭から閉め出して、今のプレイを楽しむ事にした。


その後も俺たちは、洋館の中を探索し、ゾンビやカラス、スケルトンなどの定番モンスターを駆逐しつつ、部屋の奥へと進んでいった。


「なあ、このスケルトンから出た『長く真っ直ぐな骨』…これ、役に立つのかな?」

「それ『虫網』や『石ピッケル』の材料だよ。 山で鉱石掘るのに使えるよ」

「へー、良いこと聞いた! でも、ここらへんに鉱石掘れるところある?」

「ベルディスカ山の頂上の崖の麓に、一カ所掘れる所あるよ。 時々『ダルカ鉱石』が掘れるから、チャレンジしてみたら?」


それはまるで、ファンタジー世界での仮想デートみたいで…。 正直言うと、凄く楽しかった。


「じゃあさ、今度場所教えてよ」

「良いよ、じゃあレオくんもまた付き合ってね」

「ああ、もちろん!」


それに、我ながら現金な話だが、相手が本物の女性、しかも可愛いと分かっていると、テンションの上がり方が驚くほどに全然違うのだ。

昔、ネカマにうっかり騙されていた時とは比較にならない。


やがて、俺たちは洋館の迷宮、その最深部にたどり着く。


「えっと、ここが地下室だね…。 コクーンデイの実験の場所だったらしいから、多分ここ『コクーンデイ』が居るよね」

「今までの展開からすれば、多分そうだな」


いわゆるボス部屋、と言った所か。

準備と覚悟を決めた俺たちは、地下室の扉を開ける…と、またもムービーが始まった。


「誰だ貴様等は…? この屋敷が、この私…コクーンデイの城だと知っての狼藉かぁっ!!」


はいビンゴ、ボス登場だぜ!


コクーンデイは、奇妙な衣装に身を包んだ、しわくちゃの老人ゾンビだった。


「よし、行くぜルナ!」

「お願いね、レオくん!」


俺とルナは二手に別れ、挟撃で相手を叩く作戦に出たが…。


「貴様等如きが、この儂を倒せると思ってか!? 『パーガトリー・フレイム』!」


すると、コクーンデイの周囲に炎の柱が一斉に巻き起こり、俺たちは逃げ場もないままにダメージを受ける。


「マジかよ、ゾンビのくせに魔法とか…!?」

「どうするの、これ、レオくん!?」


コクーンデイは空中に浮遊し、ドス黒いオーラを湛えつつ、次々に魔法を放ってくる。


「食らえ! 『フェニックス・ストライク』!」


巨大な炎の鳥が出現して、俺たちに体当たりを敢行してくる。

もちろん俺はそれをガードで凌ぐが、防御力は高いはずなのに、結構ダメージがあった。

物理攻撃と魔法攻撃はとうやら別にダメージ計算しているらしい。


「ど、どうしよう、レオくん!?」

「とりあえず、俺の後ろに居ろ!」


隙を見て、それぞれ回復した俺たちは、盾を構えて距離を取りつつ、コクーンデイを観察する。


「燃え尽きろッ! 『スイーブル・エタンセル』!」


コクーンデイの両腕から炎の蛇が出てきて、弾け炸裂し、床や壁に引火して、周囲を業火の海へと変えていく。

その魔法の威力の激しさに、俺たちは近寄る事すらままならない。


「(くっそ、このままじゃ…!)」


どうやら、この「コクーンデイ」は、ゾンビでありながら、広範囲魔法に特化した敵らしい。

何か魔法を封じる方法がないと、このままズルズル負けちまう…!


「見つけたぞぉお! コクーンデイ!」


だがそこで、予想外の乱入者が現れた。


「あ、さっきのゾンビ女」


最初に叩き潰したゾンビ女が、突如この部屋に乱入し、襲いくる魔法の嵐をものともせず、コクーンデイに近寄り、すがりついたのだ。


「お前のせいで! お前のせいで、皆、ゾンビになってしまったぁ! お母さんを、弟の命を奪ったお前を…絶対に許さない!」

「離せアシュリー! お前たちの犠牲は必要なものだったのだ! そうしなければ…この魔法は完成しなかった!」

「家族の命を奪ってまで必要な魔法なんて…ありえないわぁあぁ!」


目の前で、そんな愛憎劇が繰り広げられるが、


「おい、ルナ! 今がチャンスだ! 多分これ、イベントだぞ!」

「えっ!? う、うん、分かった!」


多分これは、そういう劇仕立てのイベントなのだろう。

魔法の研究のために家族を犠牲にした父、それを糾弾する娘。

周囲を寄せ付けない魔法を放つボスと、その動きを一時的に止めるモブ。

多分、捜索か何かでこの劇の話を掘り下げていけば、もっと簡単に攻略できるアイテムが何かあったに違いない。


だが、今はこのチャンスに賭けよう。


「行くぞっ!」


俺はもみ合う二人…アシュリーと呼ばれた女性ゾンビにダメージを与えないよう、彼女の反対側からコクーンデイにブレードアーツを打ち込む。


「ぐわあああっ!!」


そんなダメージボイスと共に、なんと、コクーンデイは「麻痺」した。


…え? こいつ、アンデッドじゃないの?

もしかするとゾンビじゃなくて、本当の不老不死になった生物って設定なのか!?


「ルナ! チャンスだ、コクーンデイを思いっきりぶっ叩け!」

「分かったよ、レオくん! …てい! えい! てぇーい!!」


老人ゾンビを凶悪な鈍器で撲殺しようとするルナと、それに巨大なダメージエフェクトをまき散らしつつ耐えてる老人の姿は相当にシュールだが、そんな事考えてる場合じゃない。


「もっと行け! ぶっ叩け、ルナ!」

「わかったよ、レオくん!」

「ぎゃああああっ!」


ルナのブレードアーツの軸がちょっとずれたせいか、コクーンデイにしがみついていたアシュリーは、とばっちりの一撃を食らってまたも肉片になり、


「また私を殺してくれたなぁ! この恨み、決して忘れないぞぉ!」


と断末魔を上げられたが、そんなの後回し!

ルナは俺の言うとおりに、コクーンデイをブッ叩きまくり、ブレードアーツの5発目をたたき込んだ頃…。


「ぐあああああっ! そんな、バカなぁぁああああっっ!!」


コクーンデイは、そんな断末魔と共に、灰となって消え去っていった。


「やったな、ルナ!」

「やったよ、レオくん!」


まさか、麻痺からのコンボ連打、そのワンチャンスだけで倒せるとは思ってなかった。

いや、これはルナのハンマーの攻撃力が凄まじ過ぎたせいもあるだろうけど…。


コクーンデイを倒した事で、画面が暗転し、ムービーが始まった。

なんと、さっきのゾンビ女…アシュリーが、成仏して美しい女性の霊の姿になったのだ。


「ありがとうございます、正義の心を持った皆様…! あなた方のおかげで、父の邪悪な企みは費えました…。 これで、ようやっと、私たちの魂は解放され、天国に行くことができます…!」


アシュリーの周囲には、母親、弟、そして犬が居て、皆が俺たちに手を振ってくれていた。


「私たちを救ってくれて、本当に、ありがとうございました…!」


そう言って、天に昇っていくアシュリー一家。


「…いや、今さっき『この恨み忘れない』って言ったばっかじゃん、お前」

「レオくん、そのツッコミはなしだよ、ここは素直に感動しとこうよ」

「そうだな…ぷぷっ」

「そうだよ…あははっ」


俺たちはどちらからともなく、爆笑し始めた。


そして、ムービーが終わると、後に残ったのはキラキラ光る何か。 ドロップアイテムの証だ。


「…ルナ、取りなよ」

「ううん、あたし魔法をゲットしたから、次はレオくんにあげるよ」

「そうか…? それじゃ、遠慮なく」


俺はドロップアイテムを拾う。


ーーーーーーーーーーーーーーー


『エクスチェンジリング』 67,000Cen


・生命力を、魔力に変える禁断の指輪。

装備していると、MPが尽きてもHPを減らす事で魔法が使えるようになる。

ただし、この指輪を装備している間は、回復魔法は全て使用不可能になる。


『サラマンダーの護符』 7,300Cen


・装備していると、炎属性のダメージを30%~50%の割合で軽減する。


『ピュアリフィケーション』 15,000Cen


・解毒魔法。 毒や病気などの状態異常から復帰する。

 毒のレベルによっては複数回の解毒が必要。


ーーーーーーーーーーーーーーー


あれ、3つもアイテムゲットしちゃったよ。


「ルナ、3つもアイテム手に入ったから、何かいらないか? 好きなもの取っていいよ」

「いいよいいよ、全部レオくんにあげるよ。 ここまで来れたのも、レオくんのおかげだし」

「…」


何だか、悪いな…。

コクーンデイを倒せたのは、ルナのおかげなのに…。


「(…あれ)」


途中まで思っていた、ルナを殺そうという意志は、本当に綺麗さっぱり消え去っていた。


それどころか…。

俺は、ささくれた気分を癒してくれた彼女に感謝したいような、そんな気にさえなっていたのだ。


俺たちは、雑談をしながら地上へと戻る。

洋館を出ると、あったか下着のCMを挟んで、あの小島へと出た。


「このマップ、結構ボリュームあったね~」

「だよな、このオンボロ小屋が、あんな洋館だなんて信じられないよな」

「もしかしたら、以前は違ったマップだったのかもね」


…?


以前は、違うマップ…?


そういや、「キリエ」も、そんな事言ってたような。

イベント内容は、毎回微妙に変わる、って。


「じゃあ、ありがとうね、レオくん! すっごく楽しかったよ!」

「あの…待ってくれ、ルナ、よかったら…」

「え、何?」

「俺と…」


友達になってくれないか…?


そう言おうとして、俺は思いとどまった。

えと、このゲーム、女性に対して電話番号や、メールアドレスを聞こうとしたらダメなんじゃなかったか。

確か、ハラスメントプレイヤーのフラグが立ったはず、だよな…?


「(え、じゃあ、知り合いになるにはどうしたら…?)」


このゲーム、フレンド申請とかあったっけ…?

そう俺が困惑した時、


「えっ!?」

「何ッ!?」


突如、ルナの背中に、一本の矢が突き立った。


<続く>

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