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(45)深淵の縁

最後に、龍真がマンションの玄関先まで送ってくれた。


「悪いな、送ってもらって」

「いや、何、ずっと迷惑をかけた。 でも付き合ってくれて、ありがとう」

「それと、お菓子ありがとうな。 のぞみさんにも、礼を言っておいてくれよ」


もう、逢えないかもしれないし…。


「ああ、分かった、伝えておく」


俺たちは玄関先から外に出る。


「礼雄…」


「何だよ、龍真」


「…」


「…?」


だが、龍真は返事をしない。


「何だよ、龍真」


「…僕は…役立たずだったか」


お前、まだそんな事気にしてたのかよ。


「そんな事ないって、俺は助かったよ」

「でも、他の連中からしたら、そうじゃないんだろう?」


その穿った発言に、俺は一瞬息詰まる。


「…そうなんだな。 お前が昔から嘘が付けない奴だったけど…。 はっきりそう言われると、やはり堪えるな」

「いや、言ってねーし! だから気にするなよ!」

「だったら…。」


…?


…だったら、何だ?


何かを堪えるような、龍真の表情。

俺は次の言葉を待つが、龍真がその先を続ける事はなかった。


「…いや、いい…。 何でもない」

「何だってんだよ、龍真…」

「いや、本当に何でもないんだ。 さぁ、早く帰った方が良い、礼雄」

「龍真!」


だが、龍真はもう振り返る事無く、マンションのロビーへと戻っていった。


「…何だってんだよ、アイツ」


最後、何が言いたかったんだ?

俺はしばらく、龍真が戻ってこないかと玄関先に佇んでいたが、


「…寒っ」


あまりにも寒かったので、下宿に帰る事にした。

宇園市は盆地なので、冬は冷気が溜まるため、相当に寒い。

俺はチャリに乗って、下宿までの道をひた走ったが、


「…あ、でも、今確認した方が良いな」


途中である事を思いつき、俺は途中でコンビニに寄り、おでんを買う。


「…えっと、あの、ウェブパース良いですか」

「どうぞー」


レジのチェッカーで、再ログインした「リヴァイアサン」の画面をかざす。

すると、「Cenとウェブパースをポイント交換しますが、よろしいですか?」とログが出たので、俺は「はい(Y)」をタップ。

すると、軽快な電子音と共に瞬時に精算が済んだ。

おおー。


「ありがとうございましたー」


5,000Cenほど減ったが、さっき13万くらい稼いでるから、別にこれくらい良いよな。

何せ、1万3千円の臨時収入があったのと同じだし。


「おー、うまうま」


俺はコンビニ駐車場の脇にある軽食コーナーに座って、おでんを食べ始めた。

夜のコンビニの軽食コーナーで一人おでんとか、警察官が見れば職質したくなるレベルの不審行為だが、別に気にしない。

それより、今はやる事がある。

まず俺は、あかり姉に電話し、今日の夕食は要らないと伝えた。


「えー、今日はポークカレーだよ? 礼雄好きだったでしょ? まだ戻ってこないの?」

「いや、急に用事が出来たから、外で食べてくる。 ごめんよ」

「用事って…。 どこで食べるか知らないけど、無駄遣いはダメだよ! それに、栄養あるものをちゃんと食べてね!」

「うぇーい、分かってますって」


俺はそう言って、電話を切る。

そして、ここからが本題だ。


俺はおでんを食べながら、スマートタブレットを取り出し、ゲームに再ログインした。


「…まず、教会だな」


ムラサメはあの後、「死亡」扱いになって、教会に転送されたはず。

声を掛けても返事しなかったのが気になるが、ミルフィーユから奪い返した「炎神剣」を一刻も早く返してやりたい。

そして、お礼を言いたいのだ。

一緒に戦ってくれた事に。


だから、奴が居る可能性が最も高いのは、復活を遂げた教会近辺か、あるいは武器屋のはず。

早いうちでないと、奴は絶望したままログアウトしちまうだろう。


「でも、その前に…」


俺、間違いなく「炎神剣」持ってるよな。

ミルフィーユから装備を剥いだ事は間違いないが、オリオンに途中で邪魔されたのが気になって、俺はアイテムストレージを開けてみた。


ーーーーーーーー


「アシッドペイン」

「デュボアナイフ」

「エレガンスメイル」

「アレキサンダーシールド」


「スクロール:スリープクラウド」×2

「スクロール:ポイズンクラウド」


「回復薬」×5

「回復薬スーパー」×7

「転移の魔法石」

「効果を失ったお守り」


ーーーーーーーー


「…そんな、馬鹿な」


「炎神剣」がない。

何度アイテムストレージを見直しても、ムラサメの愛剣は見つからなかった。


「何で…!?」


何か、手違いでもあったのか。

それとも、まだ剥ぎ取り回数が足りなくて、運悪くミルフィーユのストレージに残っているのか。

いや、でも、「デュボアナイフ」「エレガンスメイル」とかは、グラフィックで見る限り、あのミルフィーユの装備だ。

なのに剥ぎ取れてないって、どういう…。


『だね、稼ぎが殆どなくなったもん』


…そうだ、思い出した。


ミルフィーユは「奥の手を使ったせいで、稼ぎがなくなった」とか、そんな事を言っていた。

そのせいか。

何があったのかは知らないが、その時に、他のプレイヤーの装備はもちろん、ムラサメの「炎神剣」も一緒に消えてしまった、って事なのか…?


「なんてこった…」


じゃあ、残る手段は、このミルフィーユの装備を売ってお金に替え、それをムラサメに渡すしかない。

俺はやりきれない思いで武器屋に行き、NPCの武器屋の親父に、ミルフィーユの剣を売り払おうとしたら、


「『デュボアナイフ』か。 250,000Cenで買い取るけど良いかね?」


「ファッ!?」


そんな事を言われ、リアルでそんな声が出てしまった。

25万Cen…。 現実価格で2万5千円!?


え、何これ!?


俺は慌ててキャンセルすると、他の装備がいくらになるのか試してみた。


「『アシッドペイン』か。 3、500Cenで買い取るけど良いかね?」


「『エレガンスメイル』か。 850,000Cenで買い取るけど良いかね?」


「『アレキサンダーシールド』か。 300,000Cenで買い取るけど良いかね?」


ちょ、ちょっと待ってぇ…!!

あかん、あかんよ武器屋の親父…! ゴホッゲホッ!


俺は表示された金額のゴージャスさに、ピーコロ大魔王ばりにおでんの卵を口から吐き出しそうになるが、それを寸前で堪えると、改めて画面を凝視する。


何だ、この、異常な金額!?

剣が2万5千円、鎧が8万5千円、盾が3万円って…。

えっと…。 


合計で、14万円!?


「うわっ…。 俺って、いきなり金持ち…?」


我知らず、そんな声がボロッと漏れた。

それに気づいて、俺は携帯を抱きかかえて周囲を見回すが、幸いにして誰も居なかった。

良かったー。


あ、でも、ムラサメに「炎神剣」の5万円返さなきゃ。

それ返したら、残りは9万か…。

かなり減るな…。


俺はさらに操作を続け、ミルフィーユの装備の子細に調べていく。


ーーーーーーーーーーーー


デュボアナイフ(片手剣) 攻撃力+ 57 麻痺:17%

エレガンスメイル     防御力+255(※女性専用)

アレキサンダーシールド  防御力+150


ーーーーーーーーーーーー


こりゃスゲェ…。

てか、ミルフィーユも麻痺剣使いだったのか。

それに、なんだこの異常な防御力。

そりゃダメージ喰わないワケだよな。


「…女性専用装備だけ売るか」


俺は武器屋の親父に、装備不可能な「エレガンスメイル」だけを売り飛ばした。

ステータス画面の所持金に、ジャララジャキーンと850,000Cenが本当に追加され、手持ちと併せて100万Cen、つまり10万円を越えるのを見たら、急に心拍数が上がった。


ドクン、ドクン、ドクン…。


何だこれ。

何でいきなり、こんな事になってんだ。


ふと、脳裏にあの時のミルフィーユの懇願の声が響いてきた。


「いやーっ、止めて! 何すんのよ、バカ! せっかくここまで集めたのに! 止めて、止めてよぉ、バカーッ!」


…そりゃそうだよな。

これだけの金額を奪われるとなれば、あんなに必死に叫ぶのも分かる。


なのに、何でこんなに動揺してんだ、俺。

別に、強盗とかしたワケじゃないんだぞ。

ムラサメの装備を取り返そうとしただけなんだ。


悪いのはあいつらだ。


あいつらだ。


俺じゃない。


…俺は、絶対に悪くない!



「何考えてんだ…。 落ち着けよ、俺…。」


俺は、冬の寒空の下で、そんな独り言を言い、大きく息をつく。


…まずは、ムラサメを探そう。

奴に、5万円を返さなきゃ。


でも…なんで、こんなに声が震えてるんだ。

寒いのかな。

おでん食べよう。


俺は蒟蒻を噛みながら、ネージュ村の中でムラサメを探し続けるが、見あたらなかった。


「…そうだ」


教会に寄付すれば、プレイヤーのログイン状況が分かるんだった。

俺は再び教会に向かうと、速攻で100Cenを支払い、ムラサメのログイン状況を調べた。


「ムラサメは…」


「鋼鉄戦鬼ムラサメ」の名前は、暗い灰色になっていた。

つまり、今はログインしていない、という事か。

だよな、2回もPK受けた後に、ログインする気にはなれないよな…。


「…。」


俺は一通りリストを見ていくが、バールハイト、トラウム、キリエ、アマダム無双、Bara、GunーBlaze、バストーク、ヤツフネ、オリオン、ミルフィーユ、フィールドマウス…。


その誰もが、今はログインしていなかった。


「…みんな、激闘で疲れてるのかな」


なのに、俺は未だにログインしている。

それが何だか恥ずかしくて、「ムラサメを探すのは今度にしよう」と決め、俺はログアウトする。


すると、スマートタブレットがいきなり鳴り出した。

その画面に表示された名前は「桐嶋 天麒」。


「…え? 何で、お前が?」


思わず、そんな事を呟く。

何かあったのか?

何で、お前が、このタイミングで電話してくるんだ?


「兄貴…」


<続く>

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