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(36)魔法使いになりたい

「ま、とにかく9時まで、装備を整えてようぜ。 多分すぐに時間経ってしまうからさ」


そんな喋りをしている間に、ネージュ村に着いたので、俺たちはイベントの攻略準備をする事にした。


「そうだな、まずは礼雄、お前の魔法の本…。 それをみんなで解いてみようじゃないか」

「分かった、じゃあ頼まれてくれるか?」

「任せろ」


そう言って、龍真達はタブレットを置き、俺の両脇に座ってくる。


「じゃ、行くぞ。 『ファイアー・ボール』を展開するぜ」

「お、火炎魔法か。 次のイベントで役に立つかもしれないし、これは是非ともマスターしたい所だな」

「おいおい、そういうプレッシャー掛けんなって…。」


俺はアイテムストレージから、魔法の本をタップして展開する。

すると画面は暗転し、魔法陣の中から、炎の槍を携えた、真っ赤に燃え盛るトカゲが現れた。 

…サラマンダーかな?


「問おう! 汝は、我を召還したマジックマスターか!?」


はいはいそうですよー、と俺は「はい(Y)」を連打し、この後の会話をすっ飛ばす。


「よかろう! それでは貴様が、マスターたりうる知性を備えているかどうか、見極めさせてもらう! いくぞ!」


「頼むぜ龍真、のぞみさん!」

「アニメ以外ならまかせろ」

「スポーツ以外ならなんとか」


そして、ウインドウに表示されたクイズはこんなのだった。


『Q:RPGには武器としてよく出てくる「はがねのけん」。 さて、「はがね」とは鉄を主成分にする合金の名称であるが、鉄以外に何の元素を他に含有しているか答えよ』


…えっ?


1:アルミニウム

2:炭素

3:ニッケル

4:銅

5:マグネシウム

6:ジャパニウム


うおおー、なんじゃこれ。

ってか、「鋼」って合金だったの?

そんなん全然知らねぇよ! と思ってたら、


「炭素」


と龍真が横から画面をタップした。

ピンポーン、というSEと共に、サラマンダーさんがビックリしたようなグラフィックへ変化する。


「正解だ! よかろう! 汝を、我がマジックマスターとして認めよう! 受け取れ、我が力『ファイアー・ボール』!」


すると、画面は一瞬光輝き…元に戻った。

アイテムストレージの魔法の本は無くなっていたが、ステータス欄をチェックすると、スキルタブ「マジックスペル」の所に、無事「ファイアー・ボール」が登録されていた。


「おおっ、やった! ありがとう、龍真!」

「今みたいな問題ばかりなら、楽勝なんだけどな」

「そ、そうなの…? リョウくん、今の全然分からなかったよ、私…」


俺もー。

っていうか、ファイアーボールでこの難易度って、絶対にプレイヤーにクイズ解かせる気ねぇよな。

スタッフ悪魔か。 悪魔の子か。


「ところでさ…。 のぞみさんの『トラウム』はよく『ヒーリング』を覚えてるよな。 最近知ったけど、ヒーリングって、かなりレアなんだろ?」


すると、龍真とのぞみさんは困ったように言った。


「らしいな。 今思えば、それは僕も不思議に思う。 だが、安くで売ってる時が本当にあったんだ」

「何の気になしに魔法の本を使ってみたら、知った問題が出てきて…」


どんな問題?


「アメリカのガーデナー、ターシャ・テューダーの絵本デビュー作は? って問題で、正解は『パンプキン・ムーンシャイン』」


…何だそれ。


「のぞみは、ガーデニングが好きなんだよ。 ターシャ・テューダーは、ガーデナーだったら誰でも知ってる」


そ、そうなんですね…。

常識なんですね…。


そうだよ、本屋さんにも普通に売ってるよ、素敵だから礼雄くんも見てみたら? と言われ「機会があったらね」と冷や汗かきつつ返すのが精一杯だった。


「どうせ3人居るんなら、他の魔法の本がないか見てみないか」


と龍真に提案され、俺も同意した。

だが、今日のオークションハウスに売っている魔法は…。

売り切れ後の残り物、ばかりだった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「アンチ・パラライズ」:20,000Cen

 ※麻痺に対する抵抗力が大幅に増加する。

  麻痺になってからでも、復帰にかかるまでの時間が短くなる。


「ピュアリフィケーション」:15,000Cen

 ※解毒魔法。 毒や病気などの状態異常から復帰する。

  毒のレベルによっては複数回の解毒が必要。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「うっは、こりゃ要らねぇ」

「…やっぱりそうなのか、礼雄。 こんな時に限って、こんな品ぞろえとはな」

「まぁ、耐麻痺に解毒だから、使いどころはありそうだけど、いざ買うとなると悩むな」

「で、どっち? 買った方が良いの? ダメなの?」


普通だったらスルーする所だけど、「オリオン」の奴は麻痺武器を使っていた。

PKプレイヤーなら、状態異常武器を好んで使うかもしれないし、「アンチ・パラライズ」だけは必要かもしれない…。


「よし、じゃあ買うか」


龍真がジャララジャキーンと魔法の本を即決で購入。


「思い切りが良いな!」

「人数が揃うのはあまり無いからな、機会は逃さない方が良い。 …のぞみ、この魔法の本を受け取ってくれ」

「え、私が?」

「そうだ、もしかすると、女性キャラの方が優遇されている可能性があるからな」

「でも、私じゃ使いこなしきれないよ」

「資金を無駄にしない方を選びたい。 のぞみ、頼む」

「う、うん…。 リョウくんが、そう言うなら…」


…というか、それはそれでちょっと困ったな。

「アンチ・パラライズ」をのぞみさんが覚えるという事は、俺がソロで奴と出会った場合、逃げの一手だな。


だけど、先に取られてしまったんだから、しょうがない。

今さらグチグチ言っても後の祭りだ。


「よし、じゃあ問題を頼む。 礼雄もいいか」

「あ、ああ」


のぞみさんが魔法の本をタップすると、「…私のご主人様になりたい殿方ってのはぁ~、貴方かしらぁ~?」と、やたら色っぽい花の妖精が出てきた。


そのグラフィックはもうちょっと見たかったが、のぞみさんは恥ずかしかったのか、「はい(Y)」連打で飛ばし、すぐさまクイズ画面へと移行した。


「じゃ、行くよ問題」

「OK」

「いいとも」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『Q:日曜朝のヒーローヒロインタイム番組の問題。 女児向け番組『魔法少隊まじかる☆あーじゅ』で、主人公のヒロインは誰?』


1:ローザ・キルシュブリーテ

2:ヴァイス・リーリェ

3:ヴィオレット・ロートス

4:ブラウ・イーリス

5:ローツ・カメリア

6:ゲルプ・レーヴェンツァーン


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「えっ、何これ」

「またアニメの問題か」


そして、画面の右上で、10からタイムカウントが始まる。


「ねぇ、礼雄くん、これ分かる?」

「無茶言うな、のぞみ。 礼雄が見てたのは、あのワーズ…なんとか言うファンタジーアニメだけだぞ」


いや、分かる。 これ正解むっちゃ分かる。

っていうか、分かりやす過ぎて困ってるわ!


答えは「5:ローツ・カメリア」だ。

「碧守つばき」たんが変身する、へっぽこ主人公。

女子児童なら100人が100人正解できる、超楽勝問題だ。


しかし、俺、大学生!

この問題に答えてしまったら、アニオタどころか、ロリコンの称号まで頂いてしまうかもしれない…ッ!!


「(はぅっ…!)」


しかし、ここでプライド惜しさに答えなかったら、せっかくの「アンチ・パラライズ」を失ってしまう。

それは同時に、「オリオン」への有効そうな対抗策を自ら失ってしまう事をも意味する。


5、4、3…。


「分からないなら、もう勘だな。 2番で行ってみるか」


違うーッ!

「ヴァイス・リーリェ」は白百合モチーフの、追加戦士ですうぅ…ッ! 

主人公じゃありませーんッ!


「2の、ヴァイス・リーリェ、と…」

「はっ!」


だが、龍真の指が「2」を押す直前に、俺が嵐のような勢いで「5」を叩いた。

何故か驚愕した表情の俺と、あっけに取られた顔の龍真と、俺の勢いにビビって引いたのぞみさん。

その視線が幾重にも交わる。


「いやぁーん! 正解よぉ~! 良いわ、私の力…貴方にあ・げ・る! 受け取って、『アンチ・パラライズ』!」


こうして、魔法の契約は成功した。


「…礼雄、お前、もしかして、こういうアニメも」

「いやぁー、分からなかったから、偶然で押したら当たっちゃったよ! 偶然って怖いな! 偶然って!」


と、俺は龍真の冷静なツッコミを力技でぶった斬った。


「…う、うん、そうか、偶然なのか…。 何にせよ、助かったぞ、礼雄」

「う、うん…。 偶然なんだね…。 ありがとう、礼雄くん」

「い、いやぁ、どういたしまして!」


龍真たちの優しさが心に沁みた。


そして、実際に「アンチ・パラライズ」を使ってみたら、なんと耐麻痺の数値が1%から6%になった。

それだけだった。


「…」

「…」

「…」


まぁ、RPGで序盤に使える補助魔法は総じて役立たず、ってのが通例だけど…。



DATE : H27.1.27

TIME : 21:05

STID : 00941724,00187632,00187839



時刻は夜9時を回り、俺、龍真、のぞみさんはベルディスカ山の麓に戻る。

そこには、イベント発表時と同じ規模人数のプレイヤーが集まっていた。


山の麓には、レッドギルド「クリーピング・コインズ」の面々が一列に並び、その中からリーダーであるサムライアバター「ヤツフネ」が出てきて、大声で叫ぶ。


「皆の衆、定刻となった! 定めに従い、入山可能プレイヤーを発表する! …9時から『ウルフファング』! 前に出て、アイテムを受け取れい!」


すると、白いマントを羽織ったアバターが前に出てきた。

…「ウルフファング」って、先週のイベントで、俺と準決勝を争った奴だ。

本来はあんな格好だったのか。


「11時から、『死季姫』!」


またも、前回のイベントと同じメンツがコールされ、紫の女性型アバターが前に出てくる。

ま、今回の試験もPVPだったし、同じ人間が選ばれたとて、何の不思議もない。

その後も次々とコールが続くが、


「…15時から、『カブト』!」


俺たちは一向に呼ばれない。


「…おいバール、俺たち遅いな」

「ああ、もしかすると最後の方か。 これはマズいな」

「次、かな…?」


「16時から、『鋼鉄戦鬼ムラサメ』!」


だが、コールされたのは俺たちではなかった。

代わりに、全身を赤銅色に染めたアバターが、俺たちのすぐそばから出てきた。


「ムラサメ…!?」


あいつも、このイベントに勝ち残ったのか。


「最後の組、17時から18時まで! 『レオ』!」


そのコールを聞いて、群衆が小さくざわめく。

…お、もしかして、まだ皆、大会で俺が準優勝したこと知ってるのかな。


「なお、パーティメンバーは最大4人まで! 制限時間は1時間! 1分でも破った場合は、我々が直接狩りに行くゆえ、各自、時間厳守を心がけられよ!」


俺は移動用の課金アイテムを、手持ちの1万Cenとトレードしに向かうが、その帰りしな、


「お前も勝ち残ったんだね、レオ。 また、歌を歌って勝ったの?」


わざわざ「鋼鉄戦鬼ムラサメ」が、俺に話しかけてきた。


「いやまぁ、別にそういうんじゃないけど」

「今度は負けないよ。 結果を楽しみにしてなよ」


豪語するだけあって、確かに奴は強そうではあった。

前回はレンタル装備だったから、線の細い素顔が見えていたが、今回は赤銅色に統一された騎士装備で顔を覆っている。

おそらく、課金した奴だな。

そして、見事な緋色の長剣も、多分課金剣。


「…お前、本当は両手剣使いだったのか」

「お前は…まだルーキーなんだ。 意外だね」

「ほっとけよ」


装備新調したのに、まだルーキー扱いかよ。

まぁ仕方ないけど。


「明日は、僕の真の強さを見せてやる。 泣くなよ」

「誰が泣くかよ、とっとと帰れ」

「ふん、明日もその台詞が吐けると良いね。 逃げたりするなよ、レオ」


そう言って、「鋼鉄戦鬼ムラサメ」は群衆を通り抜け、帰ってしまった。


「…レオ、ムラサメ氏に結構言われたな」

「本当、なんだよあいつ、粘着すげぇし超うぜぇ」

「いや、彼は案外イケるかもしれないぞ」


…イケる? 何が?


「事によっては彼は、僕たちの勝利の鍵になるかもしれない」

「…奴が? 俺たちの勝利の鍵? どゆこと? 何を考えてるんだよ、バールハイト」

「それは明日話してやる。 彼が、僕の望む条件を満たしているか、まだ不明だからな」


そして、俺たちは再びネージュ村へと戻った。

時刻は夜9時半を回っているが、まだやる事が残っていたからだ。

明日のイベントに備えての、課金アイテムの購入。

今のうちに買っておかないと、おそらく明日は暴利な値段に変化するだろう、というのが俺たちの共通見解だった。


「礼雄、イベントの経費は紙に書いていてくれ。 後で不公平がないように精算するから」

「…分かった。 ところで、50,000Cen返さなくて良いのか? まだ余裕あるけど」


龍真はちょっと考えていたが、


「…受け取っておこう。 明日は、PK合戦になる可能性が高いしな」

「えっ、リョウくん、本当に?」

「多分な。 僕は一番に脱出するが、皆にも『転移の魔法石』を渡しておく。 礼雄、のぞみ、受け取ってくれ」


俺たちは「転移の魔法石」をCenとトレードしながら、龍真の見立てを聞く。


「あのヤツフネというプレイヤーの強さの底が分からないが、本当に最後まで戦い抜く自信があるなら、入山料を取らずに、自分たちでイベントを占拠した方が儲かるだろう。 だがそれをしないのは、最後まで護りきれる自信が流石にない、からだと思う」

「まぁ…そうだな。 でもそれだと、俺たちが山に入る時は、この決まりは崩壊してるかもだよな」

「ああ、今日トレードしたアイテムも、もしかすると無駄になってるかもしれない」

「マジかよ…最悪だな」


俺はアイテムストレージを開けて、トレードしたウインドウを見る。

「約束の翼」というアイテムがそこにあったが、これが山の中に居る連中のアバターの所にまで飛ぶアイテムだ。


「理不尽だよね。 無駄になるかもしれないのに、あんな人たちの言うことを聞かなきゃいけないなんて」

「暴力は普遍的に存在する『力』の一つだ。 現実にだって、理不尽な事はどこにでもあるさ」


そう言って、龍真はのぞみさんを諭す。

だが、俺はその言葉を聞いて、ふと龍真の左手を見る。

何気なくスマートタブレットに添えられているその手だが、まだ龍真の中指は思うように動かないはず。


高校二年の時の…あの日の事件のせいで。


<続く>

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