(23)イベント「剣闘士の祝宴」 ~決勝戦~
「それではいきまぁす! 『剣闘士の祝宴』決勝戦! 3、2、1…。 DUEL、スタートぉ!」
遂に始まった最終戦。
だがその立ち上がりは静かで、お互いが計ったように付かず離れずの距離を維持し、様子見に徹した。
「(これは…)」
俺は周囲を旋回しながら考える。
敵は二刀流、おそらくガードはできない。
だのに、ここまで勝ち残ってきた理由は…。
攻撃力が圧倒的だから、だろうな。
なのにまだ攻撃してこない。
最上級の課金装備で二刀流、という圧倒的なアドバンテージ。
焦る様子など微塵もなく、こちらをやんわり見定めるその態度は、威圧感すら感じさせた。
「(…くそ、きちんとリサーチしとくべきだった)」
今更にそんなことを考えてもしょうがない。
とりあえず、様子見の今がチャンスだ。
俺はショートダッシュから牽制で「喉元突き」を繰り出す。
当たればキャンセルおまけで「水平斬り」をコンボにしようと思ったのだが、
「何っ!?」
ガキィンと高く響くサウンドエフェクト。
俺の突きは相手の剣で軌道を変えられ、体勢を崩す。
と同時に相手は体を翻し、俺は逆手の一撃を食らって吹き飛んだ。
「(…そうか、そういう事か)」
この一瞬の攻防で受けた「キリエ」の印象。
それで、どんな人物かというのがおおよそ見えてきた。
このイベントの優勝賞金額は、5万円。
だが、この「キリエ」は上限一杯まで課金した。
その理由は多分、アニメの主人公になりきって無双したいからだ。
では何故、わざわざネージュ村のこのイベントを舞台に選んだのか。
それはおそらく、このゲーム、熟練度や課金の他にも、「情報の多寡」が非常に影響を及ぼすのだ。
「ブレードアーツ」がそうであるように、このゲームでも「二刀流」が使えると言うことは、ここに居るルーキー片手剣使いの連中は、殆ど知らない事だろう。
まして、二刀流の固有スキルとか、知りようもない。
だからこいつは、この大会に参加してきた。
地方都市の情弱プレイヤー相手なら、自分が絶対に勝てる。
それを何らかの方法で知って。
アニメの「キリエ」の闘いを再現できる、それを確信して。
「(…やってやる)」
そう意識した時、俺の中で、不自然なほどに闘志が燃え上がった。
格闘ゲームで一番楽しい時間とは、強キャラで無双している奴を、弱キャラを使ってボコボコにする事だ。
というか、相手プレイヤーの思い上がった心根をぶっ壊してやった時だ。
これは鶴羽先輩の主張だったし、俺も同意見だ。
勝つ材料は殆どない。
こちらが勝ってる物と言えば、ガードができる事と、体力がやや上(回復薬が尽きているのか、それとも余裕なのか、相手はゲージの8割程度しかなかった)な事だけだ。
それ以外は、全て相手が上回る。
だけど、絶対に一泡以上吹かせてやる。 見てろ。
俺はそう堅く決意し、闘志の炎をたぎらせると、距離を計りつつ、再び「喉元突き」による牽制の一撃を繰り出した。
それを見て、敵はまたもあの「双剣カウンター」を繰りだそうとしたが、それは俺も読んでいて、突きは紙一重で届かない。
相手のカウンターが空振りしたところに、キャンセルでの「水平斬り」がヒットし、続く連携の「上段袈裟斬り」「下段足払い」もフルヒット。
よっしゃ、やったぜ!と思ったのもつかの間、敵の体力は殆ど減らなかった。
小技を一発当てた程度だった。
「…く」
これが課金装備の防御補正か。
分かっていたけど、報われねぇな、これ。
すると、敵…「キリエ」も、「喉元突き」を繰り出してきた。
反射的にガードする俺だが、そのまま流れるような動作で、「水平斬り>逆水平斬り>上段袈裟斬り>下段足払い」と、連携を混ぜた連続攻撃を繰り出してきた。
「うお…っと!」
一瞬、汗で手が滑りそうになったが、中段、中段、上段、下段、と危なげなくガードした。
さらなる追撃があるかと思ったが…ない。
無理はしないその態度、底が知れなくて不気味だ。
うかつに手を出せば、がっぷり噛まれるような恐怖がある。
だけど、こちらから行かなくては。
相手が余裕かましている間に、できるだけ体力を削ってやる。
そう思った俺は、再び「喉元突き」を繰り出したが、相手も全く同じタイミングで、「喉元突き」を繰り出してきた。
ギィン、と高い音を立てて、両者にノックバックが発生する。
俺はこの空いたリーチから一気に攻撃を届かせるべく、「下段足払い」を選択したが、相手も「下段足払い」と、同じ攻撃を選択した。
「(なんだこいつ…!?)」
「水平斬り」と「水平斬り」。
「喉元突き」と「喉元突き」。
「上段袈裟斬り」と「上段袈裟斬り」。
激突する剣と剣、煌めくエフェクトの火花。
俺と奴は、互いに全く同じ攻撃を繰り出し続けた。
剣と剣の「相打ち」の連続、そのシンクロっぷりに、うわぁっ、と周囲が一気に盛り上がる。
「すっげぇ、カッコイイ!」
「やるなー、あの連中!」
「いい決勝戦じゃん!」
だが、俺の心中は決して穏やかではなかった。
何がいい決勝戦なものか。
この「キリエ」は、俺の攻撃を読んで…あるいは、見てからの超反応で、攻撃を合わせて来ているのだ。
お互いの技量の拮抗、その結果のシンクロじゃない。
この完全なシンクロの理由…多分、俺は準決勝あたりからリサーチされ、対策を立てられていたのだろう。
明らかに手のうちを知られ過ぎている。
そして…相手が、双剣を封じて片手剣の技を使いだし、手加減の遊戯に興じているのは、
「キ・リ・エ! キ・リ・エ!」
「おらー、レオ、絶対勝てお前! 全額お前につぎ込んだんだぞー!」
「ブラック先生カッケェっす! マジパネェ!」
「二人ともいいぞー!」
この大歓声が目的だった。
つまり、盛り上げるだけ盛り上げて、ちょっとはピンチを演出し、最後に圧倒的な力の差を見せつけて勝つ…そんな事を目論んでいるのだろう。
そして、俺の思惑どおり、敵は「二刀流」スキルを使わず、とにかく「魅せる」プレイに徹し、カッコイイ決勝戦を演出し続けた。
「いけー、そこだキリエ! さっさと決めちまえ!」
「無課金相手に手こずらないで下さい、先生!」
まるで華麗な闘牛士と愚鈍な闘牛だな、と自虐的な気持ちに駆られた。
捌ききれないほどの手数を出して、相手を宙に舞わせてやりたい…そう思ってはいるのだが、いかんせんゲームの中では、システムに規定されている以外の技は出せない。
…しょうがない。
気は引けるけど、やるか。
俺はシングルチャットのアイコンをタップ、「キリエ」に話しかけた。
「…アンタ、強いね。 キリエの外見だけパクってるかと思ったのに」
「…」
無視された。
「双剣のスキルって、どうやって習得したの?」
「…」
またも無視。
「この後、猛攻撃の予定? カッコよく俺を倒すの?」
「…」
…完全無視かよ! しょうがねぇ、最後の手段!
「ところでさ、ヒロインは誰が好き? やっぱキリエだけあって、エリス一筋な訳? 俺はメリアさんが良いな」
エリスってのは、アニメ「WWS」の劇中、村を守ろうとした可憐な女性剣士で、メリアさんは村の孤児たちを見守る修道院のお姉さんだ。
「…やっぱ、メリアさんの大人の魅力が最強みたいな? 胸元とか、エリスの完敗だよね。 ソフマットの初回特典の水着ポスター、圧勝だったじゃん」
「…お前は何も分かってないな」
おっと、返事が帰ってきた。
しかも、想像より恐ろしく渋い声。
…もしかすると、中身はおっさんか?
「全部良い! …だが、ミルファに叶うヒロインは誰も居ない! ミルファ最高!」
ミルファって誰だっけ、と脳内検索を開始したが、思い当たる名前はただ一つしかなかった。
あの5歳児…?
「え、いつも危険な行動ばかりして、メリアさんにいつも叱られている、あのミルファ…?」
「そうだ! 天使過ぎるだろ、あの行動、あの泣き顔…! ミルファちゃん可愛杉!」
やべえ、コイツマジで討伐しなくちゃ。
っていうか、キリエのくせに正妻放置とか、主人公の風上にもおけないだろ。
「おいおっさん、ロリコンは良くないぜ! 犯罪者は俺がメリアさんに代わっておしおきしてやる!」
「誰がおっさんだ! ロリコンだ! てか犯罪者じゃねーし!」
いや、お前インモラルプレイヤーじゃん。
最初、「WWS」の本かDVDのパッケかで、キリエ先生のグラ取り込もうってしたろ? 著作権に思い切り触れただろ?
「うるさいうるさい! メリアみたいな年増信者に言われたくねーよ!」
「年増じゃねーよ! やっぱ大人の魅力ってのが分からないのかなぁ、ロリコンは!」
「お前、マジで殺す!」
と、容赦なく煽ったのが良くなかったのか、キリエ先生…の偽物はアニメの主人公らしからぬ毒満点な台詞を吐いて、俺に猛然と切りかかってきた。
<続く>




