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(20)イタい子供は剣に代わって折檻よ

「それではぁー、いよいよ2回戦を開催いたします!

これより先は、トーナメント方式の闘いになりますので、一度、対戦相手をシャッフルさせて頂きますね!」


すると、さっきの8人の顔画面がバラバラに吹っ飛んで、あちこちに飛んでいったかと思うと、画面奥からこちらに向かってくるトーナメント表の最下段に、シャキシャキシャキーンと貼りこまれた。


そしてそのままズームアップ。


「第2回戦、第1試合は、『レオ』! オッズは3.87! 対するは、『ユーズ』! オッズは2.72! 皆さん拍手ー!」


「ユーズ…!?」

「おやおや、相手さんも勝ち残ってたのか。 これは因縁の決戦だな」


名前の後に呼ばれた「オッズ」。

通常「賭け率」を意味し、数字が少ないほど有望視されている。

つまり、強いと判断されている。

だが、俺のオッズは3.87で、奴は2.72。

俺をハメようとしたサギ学生「ユーズ」は、周囲の連中には、俺より強そうと思われている訳か。


「あいつ…装備が」


そして「ユーズ」が勝ち残り、高く評価されている理由は、見てすぐに分かった。

剣が「紫」、鎧が「白」装備だ。

確か、あれ両方ともに揃えたら、1万円くらいかかったはずだが…?


「へー、お兄さんも本戦残ったのかよ。 案外やるじゃん」


俺の姿を見て、奴が話しかけてきた。


「どういたしまして」

「ふーん…。 ところで、アンタどこの高校?」

「…俺は大学生だけど」

「はっ、大学生? チビすぎ、全然見えねー」

「うっせ、ほっとけ! これでも気にしてるんだよ」


あかり姉からは昔「礼雄は…ちっちゃくて可愛いよ」と言われたが、何のフォローにもならなかった覚えがある。


「ところで、『ユーズ』…覚えてるか? さっきの件」

「知らね。 何のこと?」

「詐欺の件だよ! さっき、課金装備を10倍の値でトレードしようとしただろ!」

「だから知らねぇよ馬鹿。 誰か見てた奴でも居んのか」


俺の詰問に、逆ギレするかと思ったのだが、すっトボケるという予想外の相手の返事。 

それで逆に、俺が言葉に窮した。


確かに…このゲームの中で、さっきユーズがやった事は、俺と奴にしか知り得ない事だ。

第三者の確認ができない中で、こんな風にトボケられたら手も足も出ない。


「それよりむしろ、俺が言った事覚えてるか? ズタズタにしてやるって。 頭ボコボコにぶっ叩いて、さらにチビにしてやるから覚悟しとけよ」


…ムカつくなぁ、こいつ!


「ところでお前、その装備どうした? 子供のくせに万単位で課金とか、どっからそんな金出してんだよ」


やられっ放しもシャクなので、俺も相手を煽り返した。

中学生でこの課金ぶり、おそらく、内緒で親のクレジットカードを使っているパターンじゃないかと思ったのだ。

俺も、親のすねかじりまくってる人間だからデカい事は言えないけれど、こういう節度のない子供は、即座にご退場願おう。

ここは18歳以上推奨、紳士の住む世界だぜ。


「お前みたいな貧乏人と一緒にすんなよ、バーカ」


相手はサラッと切り返してきたが、語尾が微妙に震えていた。

まぁ、多少なりともダメージは与えたみたいだから、良しとしとこう。


「ベット終了ー! それでは、第1試合を開催しまぁーす!」


カノンちゃんのアナウンスと共に、再びデュエル開始のダイアログが画面に飛び込んでくる。


「お前、マジでボコボコにしてやるからな!」


デュエルスタートのタイムカウント直前に、奴がシングルチャットでそんな脅しめいた事を言ってくるが、虚勢にしか聞こえない。


「それでお前がやられたら、恥ずかしい事この上ないけどな」


と、保険をかけつつさらに煽り返す。


「3、2、1…。 …DUEL START!」


俺は、イタい子供にお仕置きをするつもりで、開始と同時に、さっきの戦闘で覚えた「キャンセル技」を使おうとした。


「おらぁっ、死ね!」


だが、反射的にイヤな予感がして盾を構えた。


すると、相手がしなやかな動作と共に繰り出して来たのは、「喉元突き」「水平斬り」「逆水平斬り」「上段袈裟斬り」の4連コンボ。


ガガガガッ、という盾を鋭く弾く防御音と共に、俺のスタミナが大きく削られる。

「逆水平斬り」は初めて見るモーションだが、ムラサメ氏の「前蹴り」と同様、熟練度システムで覚えた固有技なのかもしれない。


ユーズの連携は、中段>中段>中段>上段という構成で、ガードこそ容易だったが、あの音から察するに、一発喰らえば最後まで繋がる「連続技」の可能性が高い。

油断は禁物だ。


「…く」


だが、だからと言ってビビって飲まれてちゃ意味がない。

ユーズの奴は調子に乗って、今のコンボを再度繰り出して来たが、俺はコンボの最後の「上段袈裟斬り」を、タイミングを計って「ジャストガード」で弾き飛ばす。


そして、相手がたたらを踏んだ…いや、ノックバックの硬直を喰らった隙に、ムラサメ氏との戦闘で覚えた「水平斬り>上段袈裟斬り>下段足払い」を入れる。

この技は、一度喰らえば最後まで技を喰らい続ける「連続技」ではなく、ガードしにくさに重きを置いた「連携技」だ。

中段>上段>下段とガードすることを知っていれば、余裕でガードできる。


だのに、ユーズはこれをフルヒットで喰らった。

おっと、ムラサメ氏と違って、結構防御が甘い奴だな。


「…へー、アンタも『ブレードアーツ』使えるの?」


シングルチャットは依然として続行しているので、ユーズはそんな事を語りかけてきた。


「ま、そりゃそうか。 そうでないと、タイムアタックで勝ち抜けないしな」


そして、こっちが何も言っていないのに、勝手に結論付ける。

俺のはブレードアーツではなく、単にキャンセルを効かせた高速連携だ。

だが、ユーズの発言を否定する気はなく、むしろ俺も同様に感じていた。


というのも、昨晩の野良デュエルでは「ブレードアーツ」はおろか、「キャンセル技」ですら使ってくる奴は誰も居なかったのだ。

デジ研の先輩方も、龍真も「ブレードアーツ」は知らなかった。


つまり、マクロとキャンセルを利用した「ブレードアーツ」は、現時点では一部の人間のみが知る、マイナーな技なのだ。


だが、そのマイナー技を、この闘技場で勝ち残った連中は、当然のように知っていた。

これは、タイムアタックという敷居によって、プレイヤースキルが淘汰された結果、と言えるのかもしれない。

「ブレードアーツ」が無ければ、対人戦には勝ち残れない、という…。


「おらっ、死ね! 死にやがれ!」


そして対戦相手のユーズは、人間性の未熟さはともかくとして、恐ろしく強かった。


戦闘はムラサメ氏とのバトルとは逆の様相を呈し、俺が連打でダメージを稼いでも、敵の一発が重くて、すぐに追いつかれてしまう。


「(く…。 あの課金装備が、あんなに威力あるなんて…)」


レンタルソードとアーマーの補正が、これほどまでに効いてくるとは思わなかった。

同じモーションの技でも、マジでダメージがぜんぜん違う。

俺が3発当てても、奴は1発で良いなんて。


「おらぁっ!」


ユーズが、「喉元突き」から始まる例のコンボを繰り出して来た。

チャンスだと思った俺は、再び「上段袈裟斬り」を「ジャストガード」で弾き返そうとしたが、気が焦っていたのか、タイミングが悪く不発に終わる。


「何ッ!?」


だが、ユーズの奴は、コンボの最後の「上段袈裟切り」をキャンセルして、「下段足払い」を繰り出してきた。

まさか、俺の連携をコピーしたのか。


ジャストガードに意識が行っていた俺は、その攻撃をモロに浴びてしまう。

そして追撃の「逆水平斬り」。


それは危うくガードできたものの、背筋に寒気を覚えた。

もしかすると、この剣撃は「下段足払いからのコンボを試みて失敗したもの」じゃないかと思ったのだ。


「へっへー、遂に逆転。 ここからボコボコタイムだからな、覚悟しとけよ」

「お前がな!」


だが俺の気合いも空しく、体力ゲージの削りあいにおいて、遂に俺はユーズに追いつかれた。


「(くそっ…!)」


ムラサメ氏との疲れもどこへやら、俺は再び高揚に沸騰した精神で、ユーズとの死闘に臨む。


無課金でも、腕があれば勝てると思っていた。

だけどそれは、今にしてみれば甘い考えだったと言わざるを得ない。

そもそも、こんな風なトーナメント形式だと、互いのプレイヤースキルは必然、徐々に拮抗してくる。

となれば、それ以外の要素に雌雄を決するものがあるとしたら、それは課金装備しかない。


「(もしかして…)」


このゲーム、無課金でプレイできて、一見チャンスがあるように見えても、結局は課金しなければ、絶対に勝てないように作られてるんじゃ…?


「おらぁっ! 死ねよ!」


「死ね」という単語に反応して、ピンクのアイコンがポップアップした。

ハラスメントプレイヤーを判定するキーワードだ。

今までもこいつはこんな罵声を何度も叫んでいたはずだ。


それに気づかなかったという事は、俺もよっぽど集中していたと言うことで、今更ながらそれに気づいたという事は、同時に俺の集中が緩みつつあるという事でもある。


そして俺は、


「喰らえッ!」


相手の「喉元突き」から始まるコンボを、遂に喰らってしまった。


「…!」


ズバババッという効果音と共に、大きく引き離される体力ゲージ。

残る体力は俺が3割、奴が4割。

たった1割だが、その差は絶望的なまでに大きい。

何故なら、残り1割を削られるより先に、俺は相手の2割を削らなければいけないが、そのためには今までに倍する効率でダメージを与えなければならないからだ。

つまり、相手の6倍の有効手数が必要となる。


それを瞬間的に悟り、俺の脳裏には一瞬の絶望と、だがそれをかき消す闘志が去来した。


「負けねぇぞ、テメェ!」

「言ってろよ、クソチビ!」

「言いやがったな!」


口では反射的に煽りを続けるが、頭の片隅では、より正確に、より冷静に剣を振るえ、と命令する自分が居た。


煽りとか怒りとか、戦闘には無用だ。

純粋に最適解を探しだし、それを奪い合う闘い。

それに徹しなければ負ける。


とにかく、奴の攻撃を全て封じる事に注力するんだ。

奴の欠点は、気分にムラがある事。

ディフェンスに徹しきれば、持久戦に勝機がある!


<続く>

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