(17)イベント予選 ~ランキング発表~
「それでは、選ばれし剣闘士たち…その名前を発表しまーす! …第16位、『レオ』さん! タイムは3:07! 僅差でギリギリ入賞ー!!」
と同時に、拍手とどよめき、そして歓声がわき起こる。
「おおおっ! 危ねぇー!」
「おお! やったなレオ! 流石だな!」
っていうか、いきなりコールされるとは思わなかった。 しかも本当に入賞するとは。
16位、つまり最下位だけど。
いや、あぶねーあぶねー。
カノンちゃんのアナウンスはその後も15位、14位、13位と続き、
「第12位! 『ユーズ』さん! タイムは2:42! おめでとうございますー!」
「…おい、マジか」
うわーっという歓声と共に、俺を詐欺に掛けようとした、あの学生も入賞した。
「どうした、レオ」
「実はな、ここに来る前にアイツと一悶着あってな…」
「またか? 昔からそうだが、レオ、お前は本当に人とトラブル起こす奴だな」
「あっちが悪いんだよ、龍真! 俺を詐欺に掛けようとしたんだから!」
「分かった分かった。 それと、今ここで、僕の本名を呼ぶのは止めてくれないか? なるべくニックネームか、シングルチャットにしてくれるとありがたい」
「あ、悪い」
「それでは、栄えある10位以上の方のご紹介に移りたいと思いまぁーす! 選び抜かれた十剣士! 彼らの名は! それは!」
ドルルルルルとドラムの連打音と共に、カノンちゃんの期待感溢れるアナウンス。
「…CFの後でぇー♪ てへっ☆」
ちょっと構えていた俺は、思わずコケそうになった。
自宅アパートのコタツの中で。
そして、スマートタブレットの画面は、全画面サイズでのCFに切り替わった。
…しょうがねぇ。 CFが過ぎるまで待とう。
「…。」
俺が勤めてるとことは違う、大手コンビニの新作弁当のCF。
「…。」
特定保健食品のお茶のCF。
「…。」
今までにない、香り高いコーヒー製造機のCF。
「…。」
映画を舞台にした遊園地のイベント案内のCF。
5本目のCFに差し掛かった所で、俺はキャンセルアイコンを探し始めたが、特にそんなものは見あたらない。
宿屋のではあったのに。
「おい、龍…、いや、バールハイト、これどうなってんだ? ここのCFはキャンセルできないのか?」
「ああ、ここのCFはキャンセル不可だ」
「…もしかして、他のイベントでも、こんな仕様?」
「そうだ。 定例イベントに参加すると、だいたい毎回こんな風に、強制的にCFを見させられる」
画面では、俺たちには全く縁のなさそうな、UV化粧品のCFが流れていた。
「何でキャンセルできないんだよ…。 不親切だな」
「忘れたか? そうしないと、賞金を出せないからだ」
そういや、そんな事言ってたな。
でも別に、CFとか飛ばしても問題ないだろ。
「大ありだ。 このゲームでの賞金を、僕は『餌』と表現したが、より正確に言うなら『顧客の誘因のための宣伝方法』なんだ」
なんか、講釈が始まりそうなイヤな予感がしたが、一応聞いてあげた。
「なんだ、その…顧客の誘因って」
「ほら、テレビや雑誌なんかで、『簡単なクイズに答えて素敵な商品をゲット!』なんて企画があるだろう?」
「ああ、あるな、確かに」
「あれは『景品表示法』という法律によって、ああいう宣伝方法が許可されているんだが、このゲームでの『賞金』も、あれと同じ根拠法のうち『オープン懸賞』に基づいて、企業から提供されている。 商品を売るために、このゲームの協賛企業となり、懸賞で気を引いて宣伝する…。 その形式を満たすため、僕らは絶対にCFを見なきゃいけない、って訳さ」
「素敵な商品」は、ここでは「Cenという架空貨幣」のことだ、と龍真は付け足す。
「でも、俺たちはクイズなんてやってないぞ」
「この剣闘士大会がそうだ」
「はぁ…」
言ってる事はまたも意味不明だったが、この延々続くCFは、どうやらこのゲームで賞金を出すための、法律に乗っ取った宣伝行為って事らしい。
「しょうがねぇなぁ…。 でも、男が化粧品のCFとか見ても意味ないと思うけどな」
「僕の所は、スーツのCFが流れてるぞ」
そういや、人によって流れる内容は違うんだったな。
確か、レコメンダシステムとか言ってたっけ。
「ところで、改めて言うが、驚いたぞ、レオ。 まさか、本当に無課金装備で入賞するとはな…。 正直、お前をちょっと甘く見ていたかもしれない」
「だろ? 無課金攻略だって、夢じゃないかもしれないぜ」
「それはどうかな…。 むしろ課金していれば、16位ではなく、優勝できていたかもしれないのが惜しい」
「おい、まさか優勝しろって言うつもりかよ」
「このイベントの勝利条件は知っているだろう? 賞金は1位と2位にだけ授与。 3位以下は無収入。 つまり最下位と同じ扱いだ」
「いや、まぁ、そう言われりゃ、そうだけど…」
言ってる事は間違ってないけど、辛辣すぎないか、それ。
「むしろ僕は、お前が勝利条件を明確にしないまま、闘いに挑んでいることに閉口しているよ。 もっとシビアな考え方をしてくれないのが、な」
龍真の発言って、マジで効率厨の発言と同じだな…。
本当なら、「金渡したんだから、もっと本気になれよ」って言いたいんだろうな。
一応友人だから、表現を多少抑えてるだけで。
でもまぁ、俺も「金さえ都合して貰えれば龍真の言うとおりに戦う」って言ったのは事実だし、そこは主張を受け入れなければならない。
やがて長々続いたCFは終了し、再びカノンちゃんのアナウンスが始まった。
「第10位! …『死季姫』さん! タイムは怒濤の2:27! おめでとうー!」
名前がコールされると、わーっという歓声と拍手がわき起こる。
…あ、これ、本物の歓声じゃなくて、ただのサウンドエフェクトなのか。
そういや、俺が入賞した時にも歓声上がってたな。
「続いて第9位! …『イズナヒロユキ』さん! タイムは驚愕の2:26! 1秒差だよ、凄いよねー!」
カノンちゃんのコールが続くのを聞き流しながら、俺はふと疑問に思った事を、龍真に聞いてみることにした。
「なぁ、龍…バールハイト」
「何だ、レオ」
どうも、ニックネームを口にして呼びあうのって、アレだな、恥ずかしいな。
「この上位の連中、名前に覚えはあるか」
「半分くらいは分かる」
「すげーな、マジでいろんな人と交流持ってるんだな」
「ただし、戦闘方法までは分からないぞ。 僕の興味はその人の『性格』だけで、戦闘力は興味の対象外だ」
それに、僕には彼らの戦力を理解したくともできない、と龍真は付け足した。
まぁ、そうだよな。
龍真、ゲーマーじゃないし。
「そうか、それじゃ仕方ないな」
「その点は、力になれなくてすまない」
俺は、もしかすると「オリオン」の奴が出てくるかと思ったが…。
「第4位! 『ウルフファング』さん! タイムは2:12! すっごいねー!!」
10位から4位まで、オリオンの名前がコールされる事はなかった。
…まぁ、麻痺剣なんかで不意打ちをする人間が、ガチバトルに参加するのは無理なんだろうな。
そして、本戦は10分後に開始される事が告げられると共に、再びCFタイムとなった。
「お、今度のCFはキャンセルできるじゃん」
「3位以上の人を見たければ、このCFを我慢して見続けて下さい、という事だ」
「…帰ろうぜ、り…バールハイト。 どうせ、外見だけ見たって、どういう闘い方をするのか分かる訳じゃねぇし」
「まぁ、お前がそう言うなら、戻るが…。 何かあったのか」
「ちょっと気になる事があってな」
さっきの露天での品ぞろえの件もあるし、情報収集に勤めた方が良いと思ったのだ。
闘技場を出ると、入場時にはなかったはずの、テントの露天がポツンと存在しており、俺はそこをイヤな予感と共にタップしたが、
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レンタルソード(赤)+ 5: 4,000c(14)
レンタルソード(青)+10: 20,000c(16)
レンタルソード(緑)+15: 90,000c(16)
レンタルアーマー(赤)+ 5: 4,000c(16)
レンタルアーマー(青)+10: 20,000c(15)
レンタルアーマー(緑)+15: 60,000c(16)
レンタルアーマー(白)+20: 90,000c(16)
レンタルアーマー(黒)+30:200,000c(16)
レンタル回復薬 100c( 98)
レンタル回復薬スーパー 150c(100)
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「ちょ待てよ!」
品揃えを確認した途端、そんな声がリアルに出てしまった。
レンタルソード(赤)が、400円?
何か価格が倍くらいになってるし。
課金アイテムに手を出してもいいか…と思った矢先にこれかよ。 どんだけがめついんだよ。
鬼かよ。 課金の鬼かよ!
「はぁ…全くもう」
何だかこのシチュエーション、山の頂上とか、辺鄙な所の自販機は価格が高くなってるのを思い出してしまった。
「闘技場内に戻ろうぜ、り…バールハイト」
「収穫はなかったのか?」
「なかった。 無駄足だった」
「それと、早く呼び名に慣れてくれ。 バ・ー・ル・ハ・イ・ト、だ」
分かってるよ…。
てか、お前は俺のアバターを「レオ」に設定したから違和感ないんじゃん。
俺たちが闘技場に戻ると、周囲がかなりざわついていた。
「…何かあったのかな」
「ちょっと聞いてみるか。 すいません、何かアナウンスがあったんでしょうか?」
流石というか、龍真が速攻で周囲の観客に話しかけてみると、
「ああ、ほら、予選が終わったから、負けた連中の大半が帰ろうってしてたんだけど、そこでいきなり『賭け』が始まるってアナウンスがあったんだよ。 それで皆、足止めされてるところ」
と、アバターネーム『アマダム無双』さんがそう答えてくれた。
顔はその大半を覆う半ヘルメット型だが、口元から髭面が見えている。
渋い声質からして、30代くらいの男性かもしれない。
「…賭け?」
「残った16人のうち、誰が勝つかって賭けさ。 1回戦が終わった後、8人になってからベット(賭け)開始で、見事勝利者を当てた人には、ベットした額と倍率に応じて、謎のアイテムが手に入るんだそうだ」
なるほど。
バトルに負けたら、今度は「賭け」で、祭りの続き。
参加者は一人残らず養分になってもらおう、って事だな。
エグい事考えるぜ、この運営。
「…賭け? そんな事が可能なのか…?」
だが龍真は、そんな事を呟いた。
「もちろん。 詳しい事が知りたければ、ほら、あそこに浮いてるカノンちゃんをタップしてみろよ。 アナウンスがリプレイできるぜ」
「へー、アマダムさんは誰に賭けるんです?」
「俺のダチ。 本戦に勝ち残ったから、そいつに賭けるよ。 思いっきりプレッシャー掛けてやるぜ、うひひ」
「それはいいッスね」
そう言って、俺とアマダムさんは笑った。
「じゃな、いっちょプレッシャー掛けに行ってくるわ」
「はい、いってらっしゃいー」
そう言って、俺と龍真は、見た目の割にはきさくなおっさん…アマダムさんを見送った。
「おい、バールハイト。 お前はもちろん俺に賭けるんだろ?」
「賭けない」
「うごっ」
速攻でブッタ斬られて、俺はヘンな声を出してしまった。
「何だそれ! そこは冗談でも『賭ける』っていう所だろ!?」
「いや、そういう意味じゃなくてな、ちょっとイヤな予感がするんだ」
「…イヤな予感?」
何だよそれと促すと、龍真は怪訝そうな口調で返答する。
「そもそも『賭け』とか…ゲーム内での賭博行為が認められるはずがない。 違法行為がこんな風に横行してるなんて、今までなかった。 初めて見た」
なんだ、そういう事か。
てか、カジノがあるRPGとか珍しくないぜ。
「それはいくら勝とうと、現実にお金が増える訳じゃないからだ。 だが、換金可能なこのゲームでの賭博行為は、法律に触れる可能性が極めて高い。 だから賭けない」
…でも、ゲームで儲けるのが禁止なのなら、そもそもこのゲーム自身が賭博行為に相当するんじゃないのか。
「だからこそ、このゲームの定例イベントは、違法行為にならないよう、既存の法を遵守した形で作成されている。 僕の目には、それが十分すぎるほど見て分かる。 なのに、それを自ら壊しに来るとは考えにくいんだ」
…なるほどな。
じゃあ、考えられる可能性としては…。
「1、一時的なイベントなら違法行為でも露見しないだろう、という確信犯の場合」
「2、一部の運営スタッフにおける、法律の勉強不足、つまり過失の場合」
「3、配布されるアイテムが、換金不可能なクズアイテム。 つまりそもそも賭博として成立しない場合」
龍真は、そんな可能性をサラサラと列挙してみせた。
俺は少し考えて、
「…3かな、一番高そうな可能性は。 次に2、1の順だと思うぜ」
と私見を述べた。
根拠はもちろん、今までのゲーム経験からだ。
「僕もそう思う。 『謎のアイテム』とか、そこらへんをぼかしたアナウンスになっているのは、期待感を煽っているのかもしれないな」
なるほど…。
「だから賭けないのか、バールハイト。 クズアイテムだと分かっているから」
「いや。 将来、法曹たらんとする人間が、自ら法を踏みにじる訳にはいかないからだ。 それが半分」
…半分?
「残る半分は?」
「お前が勝てないだろうと思ってるからだ」
「それ、本人を目の前にして言うの!? ってか、それは本戦での結果を見てから言えよ!」
「勝てばいくらでも撤回するよ」
「へいへい…」
俺たちは、闘技場の中空に浮いている、半透明カノンちゃんをタップして、『賭け』に関するアナウンスを確かめる。
1回戦終了後…8人になってからベット開始。
1口100Cen、最大100口。
負けても2次、3次と再ベット可能、か。
アマダムさんの言ってる事は間違いじゃなさそうだ。
エグいなぁ、ホントに…。
…そして、遂に決戦の時が来た。
<続く>




