(16)バーサーカーグリズリー
「それじゃ行くよー! 今回の参加者は521名、うち、有資格者355名! 人数多すぎるから、予選を開始しまーす!」
「予選!?」
「なんだよ、予選って?」
アナウンスはそんな喧噪の疑問に答える事なく、俺のアバター「レオ」は、青い光と共に、周囲に誰もいない円形の空間に放り込まれた。
そして目の前には、檻に囚われたモンスターの姿。
ああ、これもバトル漫画にありがちな展開だなぁ…。
「予選は、スペシャルモンスター『バーサーカーグリズリー』でのタイムアタックだよ! 討伐タイムの早かった上位16名が、本戦に参加できまぁす! では行くよー! 戦闘開始は20秒後! 19、18、17、16…」
展開早ぇな!
理解して付いていくのも精一杯だよ!
まぁとにかく、目の前のこのモンスターを速攻で倒せばいい、ってこったな!
「3、2、1ぃ…。 ぜろぉーーっ!」
「ゴァアアアァァ!」
カノンちゃんのタイムカウントがゼロになると共に、目の前の檻が粉々に吹っ飛んで、中から赤い巨大熊が、雄叫びを上げながら、俺めがけて一直線に襲いかかってきた。
「っと!」
俺はそれを余裕で避け、周囲を旋回しながら隙を伺う。
…見た目からして、これはおそらくパワータイプのモンスターだ。 正面からガチで殴り合うのは自殺行為。
だが、赤い巨大熊の右目には、大きな傷跡がある。
「…くそ、多分あれが『弱点』だな」
ベタな設定だが、多分そうだろう。
あそこを狙えば、大ダメージが与えられるはずだ。
もしくは、一時的に視界が断てるとか。
武器防具が弱い俺は…多分あれを狙わないとダメだ。
周囲を旋回して、ヒットアンドアウェイでダメージを与えていくというセオリーどおりの、だが悠長な闘いをしたら、おそらく時間切れで負ける。
「…やるしかねぇな」
俺は周囲を旋回しながら、その巨大熊の顔が狙えそうなタイミングを計る。
ダッシュの直前、四つ足で力を溜めているとき。
ダッシュの後の振り返り際。
掴みかかり攻撃の直後。
暴れて爪を振り回す攻撃の時…は、無理そうだ。
俺は、熊のダッシュの振り返り際と、掴みかかり後に焦点を絞り、それ以外は足を狙う事にした。
もしもモンスターの転倒が狙えるなら、マキアがやっていたように、足に攻撃を集める事は有効なはず。
まずはダッシュを避けて、振り返りざまに一撃。
「…よし!」
危険を侵しての、頭への攻撃。
そして俺の期待通り、出血を表現する赤いライトエフェクトが大きく飛び散った。 ダメージを与えた証だ。
「ガァッ!」
だが、赤熊はダメージを喰ったにも関わらず、怯むことなく反撃してくる。 スーパーアーマーか?
だが、俺は用心して事前に回避していたので、その爪攻撃は喰らうことは無かった。
そして、相手の足に水平斬りの連打を集め、ほどほどにしてガードの体勢に移行する。
「おっと」
赤熊の「振り返り爪攻撃」に、俺は押し飛ばされる。
用心してのガードで事なきを得たが、今のはジャストガードできたら、攻撃チャンスになったかもしれない。
「はい、倒した人、出ましたー! 一人目です! すごーい!」
だがいきなり、カノンちゃんのそんなボイスアナウンスが通知される。
「何ッ!?」
てか、もう倒した奴いんのかよ! 早すぎるだろ! 化け物か!
アナウンスを聞かされてかなり焦るが、だがそれは禁物だと戒める。
格闘ゲームでもそうだが、焦ったり動揺したりは、大抵負けに繋がる。 平常心が大事だ。
「はい、二人目出ましたー!」
焦るな。 耳を貸すな。 平常心、平常心。
そう思った俺は、最初に決めた戦法を忠実に、冷静にこなしていく。
振り返りに一撃。
掴み攻撃をバックステップで避けて一撃。
周囲を旋回しながら、丁寧に足に一撃。
「グギャヒィイン!」
幾度目かの振り向きに攻撃を合わせ、そして反撃を避けて、足に攻撃をすると、赤熊…。
「バーサーカーグリズリー」が転倒した。
…ここがチャンス!
と思った俺は、弱点であろう顔の前に回り込んで、「A」…攻撃アイコンをタップする。
このアイコンだと、自動で連続攻撃が出てくれる。
モンスターはガードしないし、まだマクロコンボがしょっぱい俺にとっては、これが最大でDPS(ダメージ・パー・セコンド、単位時間当たりのダメージ効率)を稼げる攻撃だ。
「ギャオオオオオン!」
俺が赤熊の顔面に怒濤のラッシュを加えていると、地面に寝転がっていたはずの赤熊は、起きあがるモーションを飛ばして、いきなり立ち上がった。
「なんだ!?」
そして、両手をいっぱいに天に伸ばして、痙攣しながら前にドターンと倒れ込んだ。
「YOU WIN!」
あ、なんだ、もう倒したのか。
っていうか、これなら俺結構、いい線行ったんじゃね?
かなり早かったろ?
だが、カノンちゃんのアナウンスはそれに答えてくれず、俺は青い光に包まれて、皆の居る闘技場…その観客席へと戻された。
「おい、礼雄!」
「龍真! 探したぞ!」
「こっちこそだ! 付いてくるかと思いきや、全然現れないから、どうしたのかと思ったぞ」
「いや、ちょっといろいろあってな…。 ところで、俺、どうだった?」
「かなり早かったぞ、見ろ!」
「どこをだよ」
「ほら、闘技場の中に、小さい丸テントが沢山あるだろ」
「ああ、なんだあれ?」
「あれが予選、参加者の戦ってる個別のインスタンスマップだ」
「おお…」
確かに、まだ戦闘中の奴が結構残ってるな。
っていうか、殆どじゃねぇ、これ?
「ああ、上位は3名までアナウンスがあったが、それ以降…16名全員のアナウンスはなかった。 だが、この残りっぷりを見るに、お前が本戦に出場できている可能性は高いぞ」
「だと良いけどな」
「丸テントをタップすれば、参加者の名前が出る。 もう一度タップすれば、その闘いぶりが見られるぞ」
「…お前、もしかして」
「探したぞ、本当に」
「悪い」
バツが悪くて、俺はちょっと黙ってしまう。
すると、周囲からの喧噪で
「行けー!」
「ひいっ!」
「そこだ、もうちょっと!」
「ああっ…!」
「僕のプレイギアフォースぅー!」
観客や参加者の、そんな声が折り重なって聞こえてくる。
確か、参加者は355名とか言っていた。
こんなイベントが全国各地で開催されているのか。
「極悪なゲームだけど…。 皆、案外楽しそうだな」
「全員が全員、このゲームの課金の仕組みを全て把握している訳じゃないからな」
そう言って、龍真は続ける。
「中には、無料で参加して、5万円が手に入ったら儲けもの…程度に考えている人も居るかもしれない。 そう思えれば、それはそれで幸せかもしれないな」
「ま、それに結構楽しいしな、こんな緊張感あるお祭り」
「ゲームの中の出来事だがな」
「おい、そういうシラケる事言うなよ」
「事実だろ」
そう言われて、俺は多少、複雑な気持ちになった。
このゲーム、相当アツくなる。
演出のせいもあるがろうが、やはりお金が懸かっていると、緊張感が段違いだ。
龍真の言う、「ここはもう一つの現実」…というのも、何だか分かる気がする。
だけど、PKとか詐欺も含めて、やはり俺は、これをゲームとして楽しむべきだ。 無理にでもそう思うべきだ。
そうしないと…。
俺はこの世界にどこまでもドップリ浸かっていきそうな、そんな気がしたから…。
「はーい、制限時間の10分が過ぎましたー! 皆さん、お疲れさまでぇーす☆」
と同時に、うぇぇえーーっとどよめく声。
てか、制限時間あったのか。
まぁ、今しがた声を上げた連中は全員脱落だろうな、こりゃ。
「それでは、選ばれし剣闘士たち…その名前を発表しまーす! …第16位、『レオ』さん! タイムは3:07! 僅差でギリギリ入賞ー!!」
と同時に、拍手とどよめき、そして歓声がわき起こる。
「おおおっ! 危ねぇー!」
「おお! やったな礼雄! 流石だな!」
っていうか、いきなりコールされるとは思わなかった。 しかも本当に入賞するとは。
16位、つまり最下位だけど。
いや、あぶねーあぶねー。
カノンちゃんのアナウンスはその後も15位、14位、13位と続き、
「第12位! 『ユーズ』さん! タイムは2:42! おめでとうございますー!」
「…おい、マジか」
うわーっという歓声と共に、俺を詐欺に掛けようとした、あの学生も入賞した。
<続く>




