(15)イベント「剣闘士の祝宴」~予選~
「それよりも、そろそろ時間だぞ。 中央広場前に集まろう」
「あ、ああ」
龍真にそう促され、俺は中央広場前へ向かったが、そこには異様な程の数のプレイヤーが集結していた。
その皆々が、昨日まで存在しなかった、やたらSFチックなオブジェクト…青色の淡い光を放つ楕円と、そのど真ん中にそそり立つ三角タワーに向かって、次々飛び込んでいっている。
「何だあれ?」
「今回のインスタンス(一時的)マップ…闘技場への転移門だ。 ちなみに名称はオベリスク、という」
なるほど、イベントは専用フィールドでやるよ、ってことか。
ここにはそんなスペースないもんな。
でもなんつーか、アバターが次々と吸い込まれる様は、まるでブラックホールだな。
「てか、これ何人居るんだろう」
「分からんが、100人は軽く居るな」
「マジかよ…」
「レオ、行こう。 もう時間ないぞ」
「ああ、分かった」
そう言うと、龍真はさっさと転移門へ飛び込んでしまう。
だが、俺はそれよりも、中央広場の周囲に、あの露天商がまだあるのが気になった。
あのレンタルソード、結局何がどれだけ売れたんだろうか。
俺は興味本位で露天をタップしたが…。
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レンタルソード (黄)+ 0: 0c(∞)
レンタルアーマー(赤)+ 5: 2,000c(33)
レンタルアーマー(青)+10: 10,000c(12)
レンタルアーマー(緑)+15: 30,000c(9)
レンタルアーマー(白)+20: 50,000c(2)
レンタルアーマー(黒)+30:100,000c(0)
レンタル回復薬 50c(574)
レンタル回復薬スーパー 70c(112)
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「なんじゃこりゃ!?」
店の品ぞろえがガラッと変わっていた。
「そういう事か…」
剣を買い損ねた連中、あるいはさらなる強化を目している連中相手の商売か、これ。
ってか、「レンタル回復薬」の存在とネーミングにツッコミたくなったが、ゲーマーとしての直感で、これは購入しておくべきだ、と予感した。
というのも、レンタル回復薬が存在するという事は、大会の戦闘終了後は「体力が自動的に回復しない」可能性が高いからだ。
つまり、これを購入しない場合、HP回復は自前の回復薬、あるいは魔法が使える仲間がないと不可能という事に他ならない。
これは致命的な仕様だ。
回復魔法が使える、のぞみさんの「トラウム」がここに居ないのが悔やまれるが、それを嘆いても仕方ない。
「くそっ!」
ここで買わないと、確実な負けだ。
それどころか、何もできずに退場となる可能性がある。
それだけは避けなければならないと思った俺は、レンタル回復薬スーパーを4個購入した。
龍真からお金を借りてるから、来月の携帯代が膨れる事はない。
でも、このゲームでお金を借りるのは、現実にお金を借りている事に全く変わりない…。
ゲーム内で赤字になれば、オークションハウスで現金とCenを交換しなければならない羽目になる。
「しかし、なんだよこれ…。 剣が売り切れたら、今度は鎧かよ。 どういう商売だよ」
俺が思わずそんな事をつぶやくと、「そこのお兄さん! 剣あるよ」と誰かが俺に話しかけてきた。
「…誰、君?」
このゲームはエリアチャットがデフォルト設定なのだが、そのつぶやきを聞かれてしまったのか、やたら幼い感じの男性剣士…アバターネーム「ユーズ」が話しかけてきた。
「俺、ユーズ。 この大会に参加しようとしてた友達がさ、急に部活で来れなくなって、剣余ってるんだよ。 余った奴、要らない?」
…部活?
お前、高校生か中学生だろ。
このゲーム、18歳以上推奨だぞ、オイ。
だけど、それを今相手に問うた所で意味はない。
「剣余ってるって…。 色は何?」
「赤。 攻撃力+5の、200円の奴」
赤か…。
最初にお買い得って言われてた奴だな。
買った方が良いんだろうか…。
「どうするんだよ、買うのかよ、買わないのかよ。 もう大会始まるまで時間ねぇんだから、さっさとしてくれよ」
「わ、分かった、買うよ」
ここまで来れば、もうなるようになれだ!
課金してる姿勢を見せれば、龍真の考えも変わるだろ!
「じゃ、よろしく。 余りもんだから、ちょっと割引して、2,000から1,500にしとくよ。 とっととトレードしてくれよな」
ユーズがそう言うと、トレードウィンドウが現れた。
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「ユーズ」が「レオ」に対し、以下の条件でトレードを要求しています。 承諾しますか?
・「ユーズ」:レンタルソード(赤)
・「レオ」 :15,000Cen
はい(Y) いいえ(N) 条件の再提示(R)
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「じゃ、よろしく」
「分かった…。 …!?」
…15,000Cen!?
「おい、何だこれ!? 15,000Cenって、どういう事だよ!」
一瞬見過ごしかけたが、桁が増えていることに直前で気づいた。
俺がそれを指摘すると、ユーズはヘッドセットの向こう側で、小さく…だが確実に「舌打ち」をした。
「…え? ああ、ごめん、入力ミスしちった。 メンゴメンゴー」
「…ワザとじゃねぇのか、お前」
「何でだよ、俺がワザとやったって証拠あんのか、お前」
確かに証拠はない。
だがこのキレっぷりは、多分確信犯だ。
最初から、詐欺にかけるつもりだったのか。
これ以上関わらない方が良い、と思った俺は何も言わず、即座に「いいえ(N)」を選択した。
「…はっ、覚えてろよテメェ! 大会で出会ったら、ズタズタにしてやるからな!」
奴はそう捨て台詞を残して、転移門へと飛び込んだ。
「待てお前!」
追う俺だったが、転移門に飛び込んだ先は、
「うおっ」
まるでローマのコロシアムのような巨大闘技場だった。
年季の入った煉瓦(※というテクスチャだけど)、所々に設置された戦士の胸像、びっしりと壁面に絡まったツタ…という外観は、昔の甲子園をも思わせる。
「デケぇ…!」
それと、人多すぎ!
コロシアムの周囲に人が大勢居る様は、マジで夏の甲子園そのものだった。
俺がその規模に躊躇していると、カノンちゃんのインフォメーションウインドウによるアナウンスが飛び込んでくる。
「そろそろ、大会はっじまっるよー! とっとと集合してねー! 入り口はこ・こ・だ・よ♪」
と、矢印付きの地図がポップ。
おかげで、俺は迷う事なく旧甲子園…もとい、闘技場へと突入できた。
中はもちろん球場…ではなく、だだっぴろい石版敷きのステージ、その周囲にはぐるっと観客席が設えられているという、定石を裏切らないレイアウト。
これ、少年誌のバトル漫画で良く見る光景だが、開発側もこういうの好きなんだろうか。
…けど、周囲は人、人、人の嵐で、俺は完璧に龍真の姿を見失っていた。
「おい、龍真! 居るか!?」
だが、龍真の返事はなく、
「サラちゃーん、どこー!?」
「今から始まるのか、どうなるんだろうなぁ」
「よっしゃ、やるぜー!」
という他人の声が返ってくるばかり。
ヤバいどうしよう、マジで龍真とはぐれた。
だが、俺の視界を遮るように、響希カノンちゃんのインフォメーションウインドウが飛び込んでくる。
「それでは、定例イベント『剣闘士たちの祝宴』はっじまっるよー! みんな、参加してくれてありがとー!」
うおおおおおーーーー!!!
と、参加者全員の歓声。
その怒濤の勢いに、俺は圧倒されそうになる。
「だけど、参加要項はちゃんと読んだかなー? この大会はねー、露天で売ってる武器防具でないと参加できないんだよん☆ 自前の強い武器で、俺TUEEEしようったってダメなんだからねっ♪」
すると、結構な数の「えーっ!?」というどよめきが結構聞こえてきた。
…読んでない奴、結構居るんだな。
まぁ俺も人のこと言えないけど。
「はーい、資格のない方々は観客席に移動っ!」
すると、多数のアバターが見えざる手に捕まれて、ポイポイと観客席に放り込まれていく。
なんかその光景が愉快で、思わず笑ってたが、
「そして参加者の方々、レンタル装備以外の品物は一時預かるね!」
そんな驚愕のアナウンスを聞かされた。
不意に発光するマイアバター。
周囲の連中の悲鳴と怒号までもが聞こえる最中、俺が「機能」アイコンで、ステータスウインドウを開くと、確かに「レンタルソード(黄)」と、「レンタル回復薬スーパー」以外の品はすべて無くなっていた。
…レンタル回復薬、買っててよかった!
だけどこれ、自前の回復薬は許さない仕様だったのか。
こりゃ相当に極悪だろ!
実際、俺のその考えを裏付けるかのように、周囲からは相当に不平不満の声が漏れていた。
「はいはーい、ミンナ、ルールはちゃんと守ろうねっ♪ 次はちゃんと要項を読んできてね~」
何がルールだ。
課金してない奴は参加すんな、って言いたいだけだろ。
というか…。
こんな洗礼を浴びせられたら、次からのイベントは確実に課金してしまうな。
俺も今、「課金して良かった」って思ったもん。
「それじゃ行くよー! 今回の参加者は521名、うち、有資格者355名! 人数多すぎるから、予選を開始しまーす!」
「予選!?」
「なんだよ、予選って?」
<続く>




