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双面のソウセイド  作者: 鹿野介助
第二章 白日雨林
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雷鳴 その一

 耳もとで、悲鳴のような轟音が聞こえる。

 うとうと眠っていた俺は、目をこすりながら顔をあげた。

 尻が冷たい。黒くぬれた洞窟の壁が、一瞬だけ青白く浮かびあがり、闇へ消えた。

 洞窟の外は、薄暗い灰色の空。雨は今もふりつづけている。

 入り口から水が入ってこない場所を選んだつもりだったが、水の流れは俺の座っていた場所までとどいていた。

 ……いや、少し違う。

 入り口から入りこむ水は、洞窟の床をおおうように流れている。勢いこそ激しくはないが、焚き火も水にぬれて、消えてしまっていた。

 上から声がした。

「起きたか」

 見あげると、立ちあがったダオメが洞窟の壁によりかかっていた。マントはたたんで脇にかかえている。身につけているのは黒く濡れた下着だけ。どうりで、闇の中で姿が見えなかったわけだ。

「どれくらい俺は眠ってた?」

 目をこすると、小さな目やにが指先についた。

「二刻くらいだろう」

「そうか……よくわからんが」

 その一刻とか二刻とかいう単位からしてわからん。

 それでも、どうやら長い眠りでないことだけは見当がついた。

 目やにがこびりついた指先をこすって、背をのばす。

 壁のでっぱりに当たっていた肩が痛んだが、がまんできないほどでなかった。


 ダオメが洞窟の外を見やった。空の雲の形がはっきり見えるくらいの薄暗さだ。太陽が沈むまでは時間があるだろう。

 しかし外を見つめたままダオメはいった。

「そろそろ出発することにしよう」

「今すぐにか?」

 ダオメがふりかえり、目を細めた。

「昼間に移動するのは嫌なのだろうか?」

「なぜそこで昼間という話になる。雨がおだやかになる時を待ってから、出発すればいいじゃないか」

 ダオメが目をしばたたかせて、教えさとすようにいった。

「雨が降らない昼はない」

 ……どういう意味だ?

 俺の不思議そうな表情を見てか、ダオメがたずねてきた。

「まさか、太陽が照りつける間、ずっと雨が降りつづけることも忘れたのだろうか?」

「……俺の記憶にはない。そうだな、たとえば朝昼晩によって風向きが変わったりはするが、天気は毎日のように変わるものだ。どちらかといえば、季節による違いが大きいぞ」

 俺の説明を聞いて、ダオメがゆっくりとうなずいた。俺の考えの正しさではなく、ただ正直さを認めるかのように。

「……これも、俺の記憶が間違っているのか?」

 ダオメはゆっくりとうなずいた。

「もうすぐ、この洞窟は雨に沈む」

 背後をふりむいた。

 何も見えない闇から、音だけが聞こえてくる。

 奥から聞こえていた音楽は、いつしか波の音に変わっていた。


 洞窟の外では今も雨が降り続けている。

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