雷鳴 その一
耳もとで、悲鳴のような轟音が聞こえる。
うとうと眠っていた俺は、目をこすりながら顔をあげた。
尻が冷たい。黒くぬれた洞窟の壁が、一瞬だけ青白く浮かびあがり、闇へ消えた。
洞窟の外は、薄暗い灰色の空。雨は今もふりつづけている。
入り口から水が入ってこない場所を選んだつもりだったが、水の流れは俺の座っていた場所までとどいていた。
……いや、少し違う。
入り口から入りこむ水は、洞窟の床をおおうように流れている。勢いこそ激しくはないが、焚き火も水にぬれて、消えてしまっていた。
上から声がした。
「起きたか」
見あげると、立ちあがったダオメが洞窟の壁によりかかっていた。マントはたたんで脇にかかえている。身につけているのは黒く濡れた下着だけ。どうりで、闇の中で姿が見えなかったわけだ。
「どれくらい俺は眠ってた?」
目をこすると、小さな目やにが指先についた。
「二刻くらいだろう」
「そうか……よくわからんが」
その一刻とか二刻とかいう単位からしてわからん。
それでも、どうやら長い眠りでないことだけは見当がついた。
目やにがこびりついた指先をこすって、背をのばす。
壁のでっぱりに当たっていた肩が痛んだが、がまんできないほどでなかった。
ダオメが洞窟の外を見やった。空の雲の形がはっきり見えるくらいの薄暗さだ。太陽が沈むまでは時間があるだろう。
しかし外を見つめたままダオメはいった。
「そろそろ出発することにしよう」
「今すぐにか?」
ダオメがふりかえり、目を細めた。
「昼間に移動するのは嫌なのだろうか?」
「なぜそこで昼間という話になる。雨がおだやかになる時を待ってから、出発すればいいじゃないか」
ダオメが目をしばたたかせて、教えさとすようにいった。
「雨が降らない昼はない」
……どういう意味だ?
俺の不思議そうな表情を見てか、ダオメがたずねてきた。
「まさか、太陽が照りつける間、ずっと雨が降りつづけることも忘れたのだろうか?」
「……俺の記憶にはない。そうだな、たとえば朝昼晩によって風向きが変わったりはするが、天気は毎日のように変わるものだ。どちらかといえば、季節による違いが大きいぞ」
俺の説明を聞いて、ダオメがゆっくりとうなずいた。俺の考えの正しさではなく、ただ正直さを認めるかのように。
「……これも、俺の記憶が間違っているのか?」
ダオメはゆっくりとうなずいた。
「もうすぐ、この洞窟は雨に沈む」
背後をふりむいた。
何も見えない闇から、音だけが聞こえてくる。
奥から聞こえていた音楽は、いつしか波の音に変わっていた。
洞窟の外では今も雨が降り続けている。




