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双面のソウセイド  作者: 鹿野介助
第一章 覚醒潮流
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死湾 その一

 奴隷は哀れな被害者。野生的な戦士は純朴。そういった思いこみは、つまるところ相手を哀れんで見下しているだけの、傲慢にすぎない。弱い者も、生きぬくための狡猾さを持っている。

 笑みを浮かべるダオメを見て、俺は考えた。その言葉をどこまで信用すべきだろうか、と。

 ダオメは本当に、メルキオル語で俺と話せる可能性に気づかなかったのだろうか。試してみようと思わなかったのだろうか。

 世間知らずの王ゆえに思いつかなかった……とは考えにくい。むしろ優れた王であれば、人々を観察する能力にたけているはずだ。そして俺の勝手な印象としては、ダオメは優れた王に違いない。


 しかし、俺が一人で考えこんでもしかたない。

 ダオメの真意を考える手がかりどころか、立場を語られた返答として自分が名乗るための名前すら、俺は持ちあわせていないのだから。

「……じゃ、とりあえず、これからあんたを王様と呼ぶべきかな?」

 あえて軽い調子でいった。さっきまで威厳のようなものを感じていたのだが、いざ実際に王と自称されると、逆に実感が消えうせる。俺はダオメの臣下というわけでもないし、シャンロウとの戦いで協力したこと以上の繋がりはない。今さら必要以上にへりくだる気分にはなれなかった。

 それとも、俺が目ざめた後に爺さんからいわれた、俺がつかえるべき主とは、このダオメのことなのだろうか。

 ダオメは気を悪くした様子を見せずに答えた。

「敬称をつける必要はない。君は恩人であるし、しょせん私は千の王。ソウセイドはメルキオルの王を全て合わせたより大きな権威を持っている」

「……その千の王というのからして、よく知らないわけなんだが」

 俺の言葉にダオメはうなずいたかと思うと、再び歩きはじめた。

「時間がない。移動しながら説明しよう」

 ダオメは左手を真横に上げて、南を指さした。

「ここから南にある大陸がメルキオルだ」

「大陸の名前なのか。どんなところだ。さすがに、こんな岩しかない風景ではないと思うんだが」

 俺は歩きながら周囲を見わたした。あいかわらず平坦な岩場が地平線まで続いている。しかし馬車を作るための竹や、幌布を作るための材料、乳や蜜をもたらす動物の餌、等々の植物が存在する地域が世界のどこかにあることは確実だ。

「ああ、天まで届く樹木が密集する森も、魚や蛙が多く棲んでいる肥沃な大河も、巨獣が闊歩する広大な草原もある。甘い果実も、香ばしい種子も、脂したたる獣肉もよくとれる、豊かな大地だよ」

「……話を聞いただけで腹が減ってくるな」

 ダオメと俺は少し笑った。

「メルキオルでは、千の民をしたがえた千の王が各地に散らばり、それぞれの国を守っている。ダオメとは、一つの部族の名前であり、その部族を治める王の名前だ」

「ええと……つまりメルキオルの人口は百万人か」

「千の民も千の王も、たくさんという表現だ。実際どれほどの民が住んでいるのか、そして残っているのか、誰も正確には数えていない。ダオメの民は、私が国を離れた時、五百人に届かない数だったよ」

 俺は肩をすくめた。

「そりゃそうだろう、冗談だよ。それで、ダオメは国から出て戦い、捕虜となったわけだな」

「……ああ、そのとおりだ」

「いったい、どこと戦ったんだ?」

 南へ向けていた指を左前方へ向けて、ダオメが答えた。

「北の大陸、カスパルの軍勢だ。彼らが押しよせてきた当初は、メルキオル北部の部族が各個に抵抗し、あるいは恭順しただけだった」

「へえ、とりあえず頭をさげたところもあったのか」

「ていねいに話しあい、カスパルが持ちかけてきた商売に応じるなら、平和裏に解決できると期待したのだ。しかし部族の古い神々を否定され、収穫物を簒奪され、すぐに私たちは抵抗するための連合軍を作った。組織として完成はされていなかったが」

「それで戦って負けて、あんたは捕虜になった、ということだな」

 ダオメが歩きながらふりかえり、苦い笑みを浮かべた。

「そう、二度の衝突までは押し返すことができたが、三度目の戦いで連合軍は負けた。私の率いていた隊は、千人の精鋭をもって最前線で戦ったが、最強のソウセイド一人に手も足も出なかった」

 ダオメの古傷は、その戦いでついたものもあるのだろうか。

「最強のソウセイド……それは俺が知っている爺さんのこととも思えん。やはりソウセイドは何人もいるのか?」

「そうだ。ホシミが失われたかわりに君が登場した今、七人が表舞台に存在していることになる」

「ホシミというのは、この仮面をつけていた爺さんのことなんだな」

 俺は腰に下げている仮面へ手をやった。二枚重ねの表側、笑顔の皺が刻まれた仮面。たしかシャンロウと戦う直前、ホシミでは勝てないとかダオメがいっていたのは、この仮面を見て人違いしていたからなのか。

「そうだ。君の話を聞くまで、老人だとは知らなかったが……話を戻そう。かつてのソウセイドは十三人、さらに太古は三十一人いたという。それぞれ異なる仮面をつけて、それぞれ異なる力をふるってきた」

 ダオメは前へ向き直り、説明を続けた。こころなしか、歩みを速めている。

「本来は、ソウセイドは世界の均衡をたもつための力だった。南のメルキオル、北のカスパル、そして東のバルタザル、それぞれの大陸へ分散し、衝突が大きな戦争へ発展しないよう監視していた」

「三つの大陸……そういえば、この場所は大地の三叉路だとか聞いたな」

 どうやら爺さんは、それなりに真実をいってはいたらしい。記憶の欠けている俺にとっては説明不足だったが。

「そう、ここはたしかに三叉路といえるだろう。二つの大陸を行き来できる海路や陸路ならば他にもある。しかし三つの大陸全てを結ぶ場所は、ここだけだ。ここの他は、荒れ狂う海や、高い山脈で分断されている。しかしここも、生物がすむことは難しい。古い言葉で、死湾と呼ばれているほどだ」

 たしかに、これまで植物も動物もほとんど見かけなかった。シャンロウの群れも、おそらく大陸から大陸へ移動する最中だったのだろう。岩ばかりの何もない風景を見ると、巨大な肉食獣を生かすための充分な餌があるとは考えにくい。

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