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双面のソウセイド  作者: 鹿野介助
第一章 覚醒潮流
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重月 その三

 前を行くダオメの背中を見ながら、俺は腰にさげている仮面へふれた。

 ダオメは、ソウセイドという言葉が仮面を使える者のことと知っていた。シャンロウという巨獣の名前と恐ろしさを知っていた。俺がいったことに対して、意味がわからないかのような反応をすることはほとんどなかった。

 一度だけ、空に二つある月を太陽といった時だけ、少し驚いたそぶりを見せたことはある。だが、あれはダオメに知識がなかったからというより、常識が俺から欠落していることへの驚きだったように見えた。

 言葉づかいこそたどたどしいが、知識は充分に持っている。単語も、少なくとも記憶が欠落している俺より多く理解できている。つまりダオメは何らかの手段でよく学び、その知識をたくわえている。

 実をいえば、体力を取り戻した後もダオメが言葉がまともに使えなかったことについて、奴隷だからという理由も考えていた。しかし、学習がさまたげられて育つような生まれつきの奴隷ではなく、捕虜にされた奴隷であるならば、もっと単純な真相が考えられる。

「なあ、ダオメ」

 俺は前をいく黒人に話しかけた。

「ひょっとして、俺と話している時の言葉と、もともと使っていた言葉は、違うんじゃないか?」

 ダオメが知らないのは文法だけ。文法を知らないのに多くの言葉を理解しているということは、もともと別の言語を使っていた人間が、必要な単語だけ新しく学んだということ。奴隷として主人に教えられたのか。

 俺の問いを聞いたのか、前を行くダオメが速度をゆるめた。しかし答えは返ってこない。

「俺はダオメに聞きたいことがたくさんある」

 空に二つある月の意味、それが呼ぶ脅威とは何か。南のメルキオルとは何か、なぜ俺はそこへ向かえと命じられたのか。ソウセイドと仮面についても、結局わかっていない。

 ダオメ自身についても、どのような戦いで捕虜となり、奴隷となったのか、わからない。ダオメを使っていた連中が、どこからどこへ移動していたのかも、移動していた目的も。

 今にしても、目的地は南のはずなのに、まるで巨獣を追うかのように俺たちは西へ向かっている。二つの月が示すという危険から逃れる近道が西にあるのだろうか。自然や地形についても俺は何も知らないのだ。

「もっとダオメが話しやすい言葉があるなら、それを使ってみないか?」

 俺自身は、自分が使っている言葉がどこのものなのか自覚できていない。他の言語を使えるという確信も持てていない。しかし、試してみる価値はあると思った。

 それに、俺だけが好きに話せる言葉を使うのは、どこか不公平という思いもあった。シャンロウとの戦いでは、ダオメに助けてもらったのだ。ダオメの言葉が俺には理解できなくても、学ぶ意味はあると思った。


 しばらく沈黙しながら歩いていたダオメが立ち止まり、ふりかえった。唇が歌うように動く。

「君がメルキオル語を操れるならば、そうしよう」

 最初は、ダオメが何をいっているのか、全く理解できなかった。これまで使っていた言葉と、いくつかの単語こそ共通していたが、音の高低は違っていたし、言葉の順序が全く異なっていた。

「メルキオル語で話すことが難しいならば、やはり私が君の使っていた言葉を話そう。これまで聞き苦しかったのならば、すまないことをした」

 衝撃が薄れるにつれて、ダオメの発した音声が、意味のある言葉のつらなりとして理解できるようになった。そして、その低く響くような発音からは、見せかけの威厳にとどまらない落ち着きと、深い知性が感じられた。

 聞いて理解できたということは、メルキオル語とやらを、どうやら俺も操れるらしい。しかし、そのことよりずっと知りたいことを俺は問いただした。

「あんた、いったい誰なんだ……いや、何者なんだ」

 俺より高い上背が、さらに大きくなったように感じられた。黒い肉体が、まるで光を背負った石像の影のように見えた。ダオメは一つうなずき、俺の問いに答えた。

「私は、メルキオルのダオメ王。最も小さき王の一人だ」

 内容の重大さからは信じられないほど気負いのない口調だったが、確かにそういった。

「あらためて、虜囚の身から救ってくれたことを、君に感謝する」

 そう柔らかい声でつけくわえ、王は微笑んだ。

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