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双面のソウセイド  作者: 鹿野介助
第一章 覚醒潮流
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重月 その一

 馬車の残骸は隠れた場所のすぐ近くにあるはずなのに、しばらく歩いても見えてこなかった。

 ひょっとして方向を間違えたのか、とまで思った。ほんの少ししか時間がたっていないのに、巨獣の群れが駆け抜けたことで、まったく風景が変わってしまっていた。

「シャンロウのしわざか、まいったな」

 もともとシャンロウとの戦いで残骸は粉砕されていたのだが、さらに上を群れが踏みつけていったため、破片が地面に細かく散乱してしまっている。使えるような骨組みは残っておらず、幌布も引きちぎられて風に飛ばされていた。壷の破片も粉々になり、完全に中身が流れ出している。

 少しでも食べられるものが残っている壷の破片を二人で探した。俺は蜜の入っていた壷の破片を拾った。指先にべとつく蜜をなめたり、乳をすすったりして、少しでも多く腹に入れた。

 破片をしゃぶって甘みを感じながら、周囲を見わたす。すぐ近くに、巨大な白骨死体が転がっている。耳も鼻も失われているが、巨大な牙の並ぶ口から、俺たちが倒したシャンロウとわかった。

 子供ほどもある巨大な大腿骨の中心に、歯型がついていた。

「……とも食いか。空腹だったにせよ、残酷な奴らだな」

「かれらは、なかまをとむらうため、したいをたべる。よわったなかまは、ころさず、たすける。ざんこくでは、ない」

 白骨死体を見上げるダオメの瞳は優しかった。

「……そうだな、縄張り争いでもないのに、意味もなく同属を殺すのは人間だけか。しかし、さっき食われそうになった俺としては、シャンロウが仲間に優しくても、どうでもいいな」

 シャンロウの骨には血がまだら模様にこびりつき、骨の何箇所かに噛んだ痕が残っている。周囲に飛び散った血液や内臓から悪臭もただよっている。分厚い毛皮も骨にはりつくように残っているが、おそらく加工しないと使い物にならない。

「どうすれば使える毛皮になるんだったかな」

 俺が持っている知識は少なく、もちろん毛皮の加工方法などはなかった。

「なんども、よくかむ。じかんが、かかる」

 ダオメの言葉に、俺はふりかえった。ダオメは幌布の大きな切れ端を背負うようにして、即席のマントにしていた。紐状の切れ端を胸元で結び、固定している。

 膝まで届くような白いマントから、屈強な黒い肉体がのぞく姿は、威厳のようなものを感じさせた。

「ほう、格好いいじゃないか」

 ダオメは白い歯を見せて一瞬だけ笑い、すぐ真顔になって答えた。

「くすりで、にこんでも、なめすことは、できる。でも、どうぐがない」

「薬どころか火を作る道具もないものな。他の人間に会うことが先決か」

 俺は手ごろな大きさの幌布を選んで、あちこちを繋げて袋状にし、簡単な靴を作った。細い布を巻きつけただけより、ずっと頑丈で、歩いた時の痛みも少ない。

「ダオメはどうする?」

 皮膚の分厚い丈夫そうな足を見る限り、裸足で歩くことに慣れているらしいが、念のために聞いてみた。

「ひつようない」

 ダオメは短く答えて、地面の割れ目に隠しておいた皮袋と鉄の棒、そして鉄の鎖を引っぱり出した。塩水につかっていたが、わずかな時間なので錆びたりはしない。しかしダオメは、じゃらりと垂らした鎖を、じっと見つめ続けた。

「その鎖は、ここに捨てていくか? 重いわりに、使い道はないだろうし」

 本心からの言葉ではない。武器として使えることは確認したばかりだ。しかし、ダオメを奴隷という立場に縛りつけていた道具でもある。かりそめにせよ仲間となった者の気持ちを思うなら、ここに捨てるべきだ。

 そう俺は思っていたが、ふりかえったダオメは微笑んでいた。

「ぶきに、なる。一本だけ、もっていこう」

 そういって、二本ある鎖から短い一本を選び、ひゅんっと回転させた。

 空気を切り裂く、良い音だった。

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