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双面のソウセイド  作者: 鹿野介助
第一章 覚醒潮流
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象狼 その三

 俺は竹槍をかまえ、息を飲んで頭上をにらみつける。

 巨大な狼に似たシャンロウの頭部、その大きく開いた口が視界いっぱいに広がった瞬間……肉を強く叩く音がした。

 視界の横から黒い鞭が伸び、シャンロウを攻撃したのだ。叩かれたシャンロウの横顔から、太い毛と数滴の血が飛び散った。

 俺は竹槍を捨て、身をかがめながら前方へ飛び込んだ。あいた手をシャンロウの胸元へ伸ばす。背中をシャンロウの前足がかすめた。

 目の前が赤く染まるような痛み。鋭い爪が背中を深く切り裂いた。しかし頭から噛み砕かれるよりはずっといい。

 俺は前転しながらシャンロウの腹をかいくぐり、地面にひざをついた姿勢でふりかえった。


 太く長い鞭が再びシャンロウの横顔を打ち、左の耳から眼球まで削るように切り裂いた。

「ダオメ!」

 太い鞭は、ダオメの手首に繋がっている、鉄の鎖だ。

 ダオメの胸元に盛り上がる黒い筋肉が脈動し、伸縮するたびに両腕が交互に動き、鉄の鎖を左右からシャンロウの顔へ叩きつける。シャンロウの太い尾が横殴りに襲いかかってきたが、ダオメは地面へはいつくばって避けた。そのまま四足で這うように横へ飛びすさる。

 その視線をシャンロウの全身へ油断なく注ぎつつ、シャンロウの左側へ這うように移動する。左目をつぶしてできた死角から攻撃しようと、隙をうかがっているのだ。

 奴隷ではなく、わざわざ捕虜と自称しただけはある。仮面の力を借りているだけの俺とは全く違う、戦士の顔だ。

 だが、怪我人だ。

「もういい、下がってくれ!」

 さっきまで蛇のように自在に動いていた鎖が、地面に落ちて根をおろしたように動かない。ダオメの息は苦しげで、傷が開いたのか血が再び流れ出している。

「それで充分なんだ!」

 俺は握りしめた棒をダオメの背中へ突き出した。棒の半分にシャンロウの血がべっとり付いている。

 ダオメは振り返らなかったが、深くうなずいた。いつでも鉄の鎖をふるえるように肘を曲げているが、力は抜けている。

 シャンロウへ視線を移すと、巨獣は地面へつっぷすようにして、苦しげにあえいでいた。開いた口から血がとめどなくあふれ、岩の割れ目へ流れ出していく。しかし口よりも、胸から溢れ出す血の量が明らかに多い。

 俺は握りしめた棒を見て、地面へ捨てた。硬い岩に当たって金属音が鳴る。馬車の骨組みに使われていたらしい、鉄の棒。おそらく竹の節を抜いて長い筒にし、その芯として入れていたのだろう。

 俺はシャンロウの攻撃をかいくぐる時、その胸に刺さった棒を引き抜いた。棒が栓となって押しとどめていた血液が噴出し、シャンロウは倒れた。そういうことだ。逆にいえば、残骸を蹴散らした時に深く傷ついた時点で、いずれシャンロウは倒れたということでもある。

「棒をつかんだ時、勝利もつかんでいた……なんてな」

 時間がある時に、よく残骸を調べておけば、竹槍よりも使える武器があると気づいたはずだった。もっとも、そのおかげで助かったともいえる。

 狙ってできたことではない。こんな小さな棒を急所に刺す方法など思いつかないし、シャンロウが空中から落下してくる勢いを利用しなければ、肉に深く食い込んだ棒を抜くことすらできなかった。

「何にしても、とりあえず切り抜けられたな」

 ダオメがうなずくように溜息をついて、地面に座り込む。シャンロウはとっくに動きを止め、大地に倒れふしていた。

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