仮面 その一
水の流れる小さな音がした。
まぶたを開くと、青一色の明るい世界が視界いっぱいに広がった。
まぶしさに目を細めた俺を、空中に浮かんでいる巨大な瞳が見つめ返す。瞳は大きく白く輝いていて、怪物が俺を食おうとしているのかと思った。しかし、目の他には耳も鼻も口も存在しない。巨大な青い布に、宝石を二つ転がしたかのようだ。
この時ようやく、自分が地面に寝転がっていることに気づいた。正面で白く輝く一対の円は、怪物の瞳などではない。地上を照らす太陽だ。
太陽が二つあることが不思議だった。しかし、なぜ不思議に感じたのか、そのこと自体も不思議だった。太陽の数はいくつだったか、頭がぼんやりして思い出せない。
上半身を起こし、周囲を見わたした。植物どころか、土や砂の地面すら見当たらない。平らな岩が網目状に割れていて、まるで鱗のように見えた。それがどこまでも平坦に続いていて、地平線まで視界をさえぎるものが存在しない。
まるで視界の全てが巨大な石畳で埋めつくされたかのような風景。
岩の割れ目を見ると、水が細くゆるやかに流れている。最初に聞こえた水の音は、これだったのか。
周囲を見わたしているうちに、さっきまでどの方角を見ていたのか、一瞬わからなくなった。平べったい岩が続く他には、建物も岩山も森林も見当たらない。かろうじて天上の太陽だけが目印になる。
ふいに乾いた風が吹きぬけて、俺は体をふるわせた。
けして冷たい風ではなかったが、素肌から水分を奪って体温を下げた。自分の体を見下ろして、下着すら身につけていないことに驚く。風にさらされている股間が涼しい。
「うおう?!」
とりみだした俺の背後から、押し殺したような声がした。
「……そなた、ようやく目ざめたか」
「誰だ!」
恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じつつ、俺はふりかえった。
五歩ほど離れた先の地面で、頭部に仮面をつけた布の塊が、あぐらをかいていた。