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播磨守大宰府下向附相撲節会事(「清盛の大一番」)

 播磨守清盛、大宰府下向の由承りて、郎党ばらを引き具して大宰少弐に見え給ふ。時に大宰少弐は原田種直と申しけるが、原田は鎮西重代の家にて、播磨守の下向し給ふを心地悪しくぞ覚えける。然れども、おぼえめでたき播磨守を、うたてくもてなすもあさましければ、遠く異朝の山海珍味、殊に茶などもふけて、いつきかしづき奉る。播磨守、甚だ悦に入り、殊に茶など天目の椀に注ぎたるを、いみじくめでたきものにおぼえ給ふとかや。

 さても原田、播磨守に向かひて曰く「鎮西に無頼の輩甚だ多く、我が郎党と召し使ふも是国内鎮撫の理なり。国の卑賤をいかが問はむ」とぞ申しける。播磨守これを聞きて「げに尤もなり」と申し給へども、御心の内には「げにあさましき有様かな、かくも我身ばかりをもてなし給ふにや」とこそ思われて「如何にせむ」と覚え給ふ。いよいよ思案して播磨守、郎党の兎丸を召して即ち原田にたびにけり。曰く「鎮西に無頼の輩多ければ、我が郎党を召し使はせむ」とぞ申しける。原田喜びてぞありける。

 然れどもこの兎丸と申すは、年頃都を荒らしつる朧月なる盗賊が子にて、唐船に乗りて唐人の無頼なるを引き具して、西海の船、港、海人を、怖れさしめたる凶徒にぞありける。播磨守、いまだいとけなくおはせしが、御父忠盛公に従ひて、西海鎮撫の仰せ事賜りて、海賊ばらを討伐せし折、この兎丸の大力にして豪勇ならびなきを見給ひて、「惜しむべき有様なり」と思して郎党に加え給ひけるものなり。

 然れば、兎丸の見るに怖ろしく、物申すにおぞましき風情、原田が郎党ばらにおそれぬものぞなかりける。背高く、色黒く、太刀を横様に指しなして、原田が前に立ちければ、郎党一人太刀を構えてありけるが、兎丸の下人の甚だ腹立ちて是を痛めつけんとせしを、兎丸、そのしゃ首とって組み伏せば、重ねて打擲して庭に取って捨つ。是を見ておぢおそれぬ者ぞなき。原田、「かくもげにあさましき有様は、播磨守の思し召しにやあらむ」と覚えて、爾来、播磨守の命に従ひ奉るとかや。

 とまれかうまれ播磨守の御有様は、偏に信西入道の仰せが故とかや。然れども海賊を私に用ひて官吏を脅かせしむるは、甚だしくもいみじくおそれ多きことに違はざらむ。入道相国の公をも欺き、天をも怖れざるは、かくて始まりたる事にて候と、後の人の申しける。

 さても播磨守、原田に申しつけ、相撲節会の膳いみじくもふけさせ給ふ。遠く異朝の山海珍味、茶のめずらかなる天目にさしつるを、きよげなる唐人の女にもふけさせ、都に上らせ給ひけり。畏くも帝の御目に入りければ、「かくもめずらかなる椀かな。かくもふけ奉るは誰々ぞ」との仰せ事ありて、左右の人臣驚かざる者ぞなき。即ち信西入道進み出て曰く「播磨守がわざなり」と。帝甚だ笑壺に入せ給ふも、げに畏れ多くもめでたき事にてぞありける。

 間もなくして御位すべり給ひしが、御位にありては播磨守が仕業を間近く見るもかなわざるが故と、人々の口に上りけるも、あさましく事にて候が、げに理とぞ思われける。


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