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増殖する惑星  作者: 金城絢


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第一章:第283番からのメッセージ

「これは…何だ?」

火星地質調査チームのリーダー、ジェームズ・チェンの声が通信回線に響いた。2387年3月15日、火星のヘラス盆地で実施中の掘削調査での出来事だった。

私は地球低軌道上の国際宇宙ステーションで、リアルタイムデータを監視していた。地球化学が専門の私は、火星の地殻組成分析を担当している。

「チェン、何が見えてる?」

「理香、地層が…おかしい。これは火星の岩石じゃない」

モニターに送られてきた画像を見て、私は息を呑んだ。

掘削孔の深部、火星形成期の地層に、明らかに異質な物質が混入していた。それは、玄武岩だった。しかし、同位体比が火星のものと一致しない。

「サンプルを回収して。至急、分析する」

3日後、分析結果が出た。

スクリーンに表示された結果に、会議室がざわついた。

「この岩石の年代測定結果が出ました。約50億年前です」

私の報告に、国際宇宙開発機構(IUDM)評議会メンバーの一人が、疑義を唱えた。

「50億年?火星の年齢は46億年のはずだ」

「それが…火星の核の同位体分析を再検証した結果、火星という惑星そのものの形成年代が、実は50億年前だった可能性が浮上しています。従来の46億年という推定は、表層クレーターの年代。惑星本体は、それより4億年古かったんです」

私は次のデータを表示した。

「そして、このサンプルには微細な化石が含まれています。シアノバクテリア類似の構造です」

「火星の古代生命か?」

「いえ」私は首を横に振った。

「酸素同位体比、ストロンチウム同位体比…すべてが『地球の岩石』と一致します。しかも、この化石の構造は、46億年前―地球誕生時のものと完全に同じです」

「どういうことだ?地球由来の岩石が、地球誕生前の火星にある?」

「矛盾しています」私は画面を見つめた。「説明がつきません」

沈黙が会議室を支配した。

その後、火星探査は全面的に拡大された。世界中の宇宙機関が協力し、火星全土の詳細な地質調査が行われた。

そして、発見された。

火星の地下3000メートル、タルシス台地の下に広がる巨大な空洞。磁気異常と重力異常から特定された。

その中に、信じられないものがあった。

「これは…都市か?」

廃墟だった。建造物の残骸。金属の構造物。そして──文字。

解読チームが数ヶ月をかけて分析した結果、その文字は、地球の古代文明のどれとも一致しなかった。

しかし、構造は驚くほど人類の言語に似ていた。

ある日、言語学者のマリア・サントスが震える声で報告した。

「この文字、解読できました」

「何と書いてある?」

「『我々は第283番“地球”の住人である』」

会議室が、凍りついた。

「第283番…地球?」

「はい。そして、続きがあります。『我々の惑星は生殖期に入った。我々はその過程で死を選んだ。次の子供たちに、幸運を』」

私は立ち上がった。

「『生殖期』?『次の子供たち』?まさか―」

マリアは頷いた。

「この遺跡は、約50億年前のものです」

50億年前―私の言葉に、誰もが絶句した。

「地球誕生の4億年前。ありえない」

私は続けた。

「地球に存在する物質の一部が、火星から来た可能性がある。そう仮定すると、説明がつくことがいくつかあります」

痺れを切らしたように、誰かが叫んだ。

「それでは、地球は、この惑星から生まれたとでもいうのか?」

その仮説は、あまりに荒唐無稽だと受け止められた。

「待って。ここに別の記述があります」

突然、マリアが声を上げた。

「『我々は生殖により、第284番地球を射出する。座標と予測軌道は以下の通り』」

表示された座標データは、現在の地球の軌道と完全に一致していた。

「つまり、第283番は自分たちが生み出す子供の番号まで、予測していた…」

その後の調査で、さらに驚愕の事実が判明した。

火星だけではない。金星の地下にも、水星の極地にも、同様の遺跡が発見された。

すべてに、同じ文字で記されていた。

『第281番地球─核分裂により死亡。射出物は金星軌道へ』

『第279番地球─同様のプロセス。射出物は水星として残存』

『第276番地球─完全消滅。射出物は太陽に落下』

そして、理解した。

太陽系は、かつて複数の「地球」で満ちていた。

彼らはすべて死に、その遺骸が、私たちの知る惑星になった。


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