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【短編小説】巨大な女

掲載日:2025/12/18

 台風でも来たのかと思うほど風の強い夜を、五稜郭 蟻の門渡り三郎(ごりょうかく ありのとわたりさぶらう)は細身の中型バイクで走っていた。

 軽いバイクは強風に煽られて蛇行する。

 スラックスの裾がはためく。

 蟻の門渡り三郎はハンドルを切り返してバイクを走行させた。

 早く家に帰りたいし、次はもう少し重いバイクを買おうと思っているが、大型のバイクでは摺りぬけ走行が出来ないな、とも思って踏み出せずにいた。




 蟻の門渡り三郎が自宅マンションの前に小型バイクを停めてエンジンを切ると、道路の端でうずくまっていた女が立ち上がりざまに指でバイクを掴んで伸びあがり、マンションの屋上に置いた。

「バイク熱くなかった?」

 蟻の門渡り三郎が訊くと、巨大な女は遥か頭上で首を横に振った。

 猫の様な鋭い目をしているが、なにも身体が伸びるところまで似なくて良いのにと思った。



 蟻の門渡り三郎は猫を飼った事が無い。

 だが猫が伸びることは知っている。

 この巨大な女も良く伸びるが、もしかしたら猫はもっと伸びるかも知れない。

 猫の内部はバネみたいになっていて、どこまでも伸びる。

 女の内部はどうなっているのだろう?

 やはりバネみたいになっているのだろうか?

 蟻の門渡り三郎はそんな事を考えながら階段を上がった。



 誰かが開けたのか、踊り場の窓から風が吹き込んでくる。

 湿った風は何の匂いもなく、まだ暑い日々が続きそうな事だけを予感させた。

 夏が嫌いな蟻の門渡り三郎はうんざりした気持ちになって死ぬ事にした。

 階段を上がる足音を聞いたのか、伸びあがった巨大な女が踊り場の窓から覗き込んだ。

「まだだよ、もう少し待ってね」

 蟻の門渡り三郎が言うと、巨大な女は素直に頷いた。



 蟻の門渡り三郎が四階まで上がり、重い鉄製のドアを開けると、部屋の中に充満していた埃っぽい匂いが蟻の門渡り三郎を撫でていった。

 そろそろ部屋の空気を入れ替えないとな。

 でもクーラーを切るのはどうも過ごしづらい。まだ先の話だ、雨の日にでもそうしようか。

 いや、いいかと蟻の門渡り三郎は首を振った。



 ベランダに出て煙草に火をつけると、待っていた巨大な女が嬉しそうに微笑んだ。

「ただいま」

 蟻の門渡り三郎が言うと、巨大な女は猫の様に吊り上がった目を瞬かせてお帰りと返事をした。

 巨大な女の巨大な眼球に小さな蟻の門渡り三郎が写っている。

 巨大な眼球の巨大な血管が小さな蟻の門渡り三郎を縛る様に走り回り、巨大な採光が細かく広がったり収縮したりしているのが見えた。


 

 蟻の門渡り三郎は煙草を咥えて火をつけると、ゆっくりと首を回して息を整えた。

 そしてネクタイを手すりに結び付けると、そのまま柵の外に転落した。

 蟻の門渡り三郎の首だけが伸びたが、蟻の門渡り三郎は巨大な女とおおよそ同じ大きさになった。

 蟻の門渡り三郎は満足そうに笑った。

 巨大な女は不満気に蟻の門渡り三郎を引っ張ると、蟻の門渡り三郎は小さな音を立てて千切れたので、巨大な女は投げ捨てるとつまらなそうに立ち去ったのだった。

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