7話
アントワネットが柱に縛られ、
群衆が怒号を放ち、
ジャコバン派が彼女を辱めようとしたその時――
その騒ぎを切り裂くように、
村外れから蹄の音が響いた。
ズダダダダッ!!
「道を開けぇぇぇ!!!」
老騎士の怒号だった。
その後ろには、
王宮から駆けつけた精鋭の騎士団が続いていた。
彼らは農具で武装した群衆を蹴散らし、
雪と泥を巻き上げながら突入した。
「殿下をお守りしろ!!」
「前列、楯を構え!!」
騎士たちが盾を並べ、
怒り狂う民を押し戻す。
ジャコバン派の扇動者たちは
すばやく群衆の背後に隠れ始めた。
⸻
老騎士、殿下へ
老騎士は馬を降り、
泥を跳ねてアントワネットへ駆け寄った。
「殿下!!ご無事か!!」
アントワネットは両腕を縛られたまま、
震える唇を噛んでいた。
「わたしは……大丈夫……
みんなは……?怪我は……?」
老騎士は、その優しさに胸を締めつけられる。
「殿下……いまはそれどころではございません!!
ここは危険です、すぐに御身をお連れします!!」
彼は突破しようとを剣を抜いた。
しかし、
その腕をアントワネットが止めた。
震える手で、
でも、はっきりと。
⸻
少女の静かな拒絶
「……やめて」
老騎士は目を見開いた。
「殿下……!?
なぜ……?」
アントワネットはゆっくり首を振る。
その目は涙で濡れ、
しかしその奥には強い光が宿っていた。
「あなたたちの剣は……民を守るためのものです。
民に向けるものではありません。」
老騎士の腕が止まる。
アントワネットは、
自分を取り囲む怒りの群衆を見つめながら続けた。
「わたしの命で……
少しでも流れる血が減るのなら、
わたしは……ここで終えても……構わないのです」
老騎士は叫んだ。
「そんな……そんなことを言ってはならぬ!!
殿下は、この国の未来……!」
「未来……?」
アントワネットは微笑んだ。
とても弱く、儚い笑みだった。
「未来は……わたしではなく……
この子たちの中にあるのです」
怒号を上げる民、
泣き叫ぶ子ども、
怯える母親。
彼女はその全員を“守る民”として見ていた。
「わたしは、ここで……
あなたたちに剣を振るわせたくない……
民を傷つけるくらいなら……
わたしの死を……差し出す方がいい……」
老騎士は地面に膝をついた。
「殿下……
どうか……どうか……
ご自分を……」
アントワネットは、
老騎士の手をそっと握った。
「あなたは……ずっとわたしを守ってくれた。
でも……最後くらい……
わたしに、わたしの国を守らせて……」
風が吹いた。
雪が舞った。
老騎士の頬を、
その雪よりも冷たい涙が伝った。
⸻
「わたしは……
いつか、この国が笑って過ごせるなら……
それでいいのです」
その言葉は、
雪の中に落ちた小さな火のようだった。
誰もが息を呑んだ。
そして――
民の誰かが、
震える声で呟いた。
「……王女……様……?」
だが、
扇動者が叫び返す。
「騙されるな!!
こいつは王族だ!!
殺せ!!!」
怒号が再び炎を上げた。




