6話
アントワネットについての“別の物語”が広まっていた。
「王女は言ったらしいぞ」
「パンが無いならケーキを食べろ、とな」
「俺たちをバカにしてやがる」
まるで火が藁を舐めるように、
その言葉は広がった。
そして村外れで配られた印刷物には、
はっきりと書かれていた。
『暴君アントワネット』
その文を読んだ瞬間、
村の空気は決定的に変わった。
もう、誰も彼女の言い訳など聞かなかった。
⸻
包囲
アントワネットは
護衛と老騎士と共に、
いつものように村へ向かった。
だが村に入る前に、
既に人々が道を塞いでいた。
怒号も、不満も、
もはや隠さなかった。
「来やがった……!」
「裏切り者め!!」
老騎士が剣に手をかける。
「殿下、お下がりくだ――」
その瞬間、
背後からも人々が押し寄せた。
完全な包囲だった。
⸻
捕縛
「殿下、逃げて!!」
護衛が叫んだが遅かった。
腕が伸び、
服が掴まれ、
アントワネットは馬から引きずり落とされた。
地面に倒れた彼女の周りに、
怒りで濁った目が集まる。
「パンが無いならケーキを食べろ、だと……」
「俺たちを笑いやがって……!」
「違う……!私は……そんな……!」
アントワネットは叫んだ。
だが掻き消された。
怒りの波が彼女の手足を押さえつける。
老騎士が駆け寄ろうとしたが、
数人の男に押さえつけられた。
「殿下ァァァァ!!」
彼の声が空へ絶叫として響いた。
アントワネットは縄をかけられ、
木の柱に縛り付けられた。
幼い頃から慈しんできた民に囲まれ、
彼女は初めて“本当の恐怖”を知った。
⸻
沈黙
アントワネットは震えながら言った。
「お願い……
私は、あなたたちを救いたかっただけなの……」
しかし返ってくるのは沈黙。
もう誰も、
少女の言葉を信じてはいなかった。
ジャコバン派の扇動者が人混みから一歩進み出て、
冷たい声で囁いた。
「――捕らえよ。
その首を、王都へ送れ。」
そして彼らの怒号が、
永い歴史の中でも最も残酷な“誤解の始まり”として刻まれた。




