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3話
最初に可能性が見えたのは――
ライ麦。
だが問題があった。
「……苦い」
「香りが好まれませんな」
「パンには向きません」
どの料理人も首をひねった。
しかしアントワネットは諦めなかった。
「食べ物は、工夫で変わるわ。
それなら、美味しくすればいいだけよ」
宮廷の厨房で、少女王女は手を汚しながら、
何度も試作を繰り返した。
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そして――生まれた。
香りづけを混ぜ、
軽く焼き上げてふわりと膨らませる。
出来上がったのは、
素朴な甘さを持つ小さなケーキだった。
“ライ麦パンケーキ”
アントワネットは目を輝かせた。
「これなら……!
これなら、子どもでも食べられる!」
その日、少女は宮廷の外へ出た。
寒風にマントを揺らしながら。
村ごとに配って歩くために。
農民たちの前で、アントワネットは微笑みながら言った。
「パンが無いなら……
このパンケーキを食べてください。
あなたたちが生きられるように。」
その言葉を聞いて、
子どもたちは小さな手でケーキを掴み、
温かそうに頬張った。
老人や母親たちの目には涙が浮かんだ。
少女は知らなかった。
その言葉が後に“嘲笑”として歪められることなど。
ただ、目の前の命を救いたかった。
ただ、それだけだった。




