20話
チリン――。
古書店のドアベルが、午後の光の中で小さく揺れた。
「おじゃましまーす!」
元気な声とともに、
中学生くらいの男女が店に入ってきた。
男の子は部活帰りのようで、
ジャージ姿のままカバンを背負っている。
「うわ、マジであったんだ、この店……
なんか地図にない裏道にあるって噂だったけど」
女の子は店内を見回して目を輝かせる。
「すご……
本当に古書店って感じ。
あ、暖かいねここ。」
埃の匂いと紙の匂いが混じった静かな空気に、
二人は自然と声を落とした。
老人は奥の机に座り、
そっと顔を上げた。
その瞬間――
老人の胸の奥で、何かがふるえた。
(……ああ……)
男の子が棚を覗き込みながら言う。
「なあ真莉、ほらここ歴史の本ばっかだぞ。
例の“パンが無いならケーキを食べればいいじゃない?”
のやつとか、なんかありそうじゃね?」
少女は微笑んで首をかしげた。
「ほんとにそんなこと言ったのかな……ねえ類…
わたし、なんか違う気がするんだよね。」
老人は、
その声を聞きながら
自分の指先がかすかに震えているのを感じた。
しかし、
次の瞬間には表情を整え、
いつも通りの穏やかな声で言った。
「……いらっしゃい。
寒かったろう。
ゆっくりしていきなさい。」
二人は同時に笑って、頭を下げた。
「ありがとうございます!」
古書店の灯りが、
優しく揺れた。
そして物語は静かに終わる。
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