19話
ルイとマリーが炎の塔に消えた後――
その場に最初に辿り着いたのは、
あの老騎士団長だった。
彼は灰の中から、
焦げた布切れを拾い、
静かに膝をついた。
王太子を守りきれなかった責任。
王妃を救えなかった無念。
そして、
最期まで寄り添い合って逝った二人への深い敬意。
その全てを胸に刻み、
騎士団長は誓った。
「この真実だけは……必ず後の世へ伝える。」
だが、彼の名前は歴史には残らなかった。
王家が滅び、
革命の書が全てを塗り替え、
記録は消され、
語る者は罰せられた。
王と王妃の愛を語ることは、
反逆とみなされたからだ。
騎士団長は沈黙を選んだ。
声を失った人のように生きた。
ただ、夜になれば机に向かい、
震える手で静かに書き残した。
紙に滲むのは、
涙か、
灰か、
それは誰にも分からなかった。
やがて彼は歳をとり、
亡くなる前の夜――
枕元にひとりの少女を呼んだ。
孫娘だった。
彼女に、
一冊の革張りの小さな手記を渡した。
そこには、誰も知らぬ真実が記されていた。
ルイの努力も、
マリーの気高さも、
二人の最後の抱擁も、
塔の炎も、
すべてが。
「これを……未来の誰かが……
いつか……必要とするだろう……
真実を……忘れさせてはならん……」
それが、騎士団長が世に遺せた
最後の言葉だった。
その手記は、
代々ひっそりと一族に受け継がれた。
誰にも見せず。
誰にも話さず。
ただ“託された務め”として。
そして現代――
薄暗い古書店の奥で、
一人の老人がその本を開く。




