17話
騎士団の制止など、
ルイの耳にはもう届いていなかった。
塔の上の炎。
踊る火の粉。
アントワネットの残された影。
その一つ一つが、
彼の胸を裂き続ける。
そして――
身体が勝手に動いた。
⸻
一人走る影
「殿下!!」
「止まれ!!」
「危険です!!」
叫びが背後で重なった。
だがルイは振り返らなかった。
涙は出なかった。
怒りもなかった。
あるのはただ一つ。
“彼女の元へ行きたい”
それだけだった。
塔の階段を駆け上がる。
息が苦しい。
足がもつれる。
煙が押し寄せる。
(待っていてくれ……
アントワネット……
いま……いく……)
その心だけが、
彼の身体を動かしていた。
⸻
仕掛けられた罠
塔の中腹に差し掛かった瞬間、
足元で鈍い音がした。
ドンッ――!
爆風が吹き抜け、
石壁が崩れ、
衝撃が全身を叩きつける。
ルイの身体は宙に浮き、
背中を打ち、
転がり、
階段の角にぶつかった。
息が一瞬で奪われる。
だが――
立ち上がった。
足は震えていた。
視界は霞んでいた。
腕は思うように動かない。
それでも、
階段の上を見つめた。
(……行かないと……
行かないと……)
巨大な岩を押すような足取りで、
ルイは再び一段ずつ登り始めた。
⸻
炎の天へ
塔の最上階。
炎が渦巻き、
熱風が吹き荒れ、
煙が泣いているように流れ出していた。
その中央に、
白い布に包まれた“形”があった。
アントワネットの遺体が横たえられていた。
ルイは膝から崩れ落ちた。
(…………)
言葉がなかった。
世界から音が消えた。
ただ、
炎の揺らぎだけが光として残っていた。
震える手で、
彼女の顔に触れた。
火の熱で温かいのか、
もう体温が残っているのか、
分からなかった。
⸻
願い
ルイは彼女を抱き寄せた。
煙が視界を曇らせる。
息ができない。
身体が軋む。
それでも離さなかった。
耳元で、かすれた声で呟く。
「……アントワネット……
ごめん……守れなかった……
ごめん……」
炎の光が二人を包む。
「……願わくば……
生まれ変わっても……
また……君と……」
呼吸が浅くなる。
身体が重い。
痛みも感じない。
「……今度は……
ずっと、平和な国で、そばにいたい……
君の笑顔を……
ずっと……」
涙は一滴も落ちなかった。
泣く力すら、もう残っていなかった。
⸻
最期の抱擁
塔の崩れる音が遠くで聞こえた。
炎が二人を丸ごと包もうとしていた。
ルイは、
最期の力で、
少女の手を握った。
「……君と……また……」
声が、途切れた。
次の瞬間、
大きな崩落音と共に、
塔全体が炎に呑まれた。
二人の影が、
ひとつに重なったまま。
その光景は、
夜空に溶けるように消えていった。




