16話
夜が落ちた王都。
騎士団に守られながら、
城外の古い屯所に避難していたルイは、
窓の外をぼんやりと見つめていた。
心は空白だった。
呼吸の仕方も忘れた。
胸の奥は、
壊れたまま動かない。
そんな静寂を破るように、
外で騎士が急報を叫んだ。
「団長!!
新たな情報が入りました!!」
騎士団長は眉を寄せる。
「何があった。」
伝令の騎士は顔色を失っていた。
「……ジャコバン派が……
マリー殿下の遺体を……
塔に運び……」
その先を言えなかった。
だが団長は悟った。
「……まさか……」
「……はい。
御遺体を、
塔の上で燃やそうとしております……!!」
室内の空気が一瞬で凍りついた。
ルイの心臓だけが、
鈍い音で脈を打った。
ドン……
ドン……
ドン……
まるで地面の底から響くように。
⸻
塔の上、燃え始める炎
王都の中心にそびえる古塔。
その頂上に、
異様な赤い光が揺らめいていた。
燃えさかる火。
投げ込まれる薪や油。
狂ったように歌い、踊り、喚くジャコバン派。
「革命の証だ!」
「王家の血を、火で浄化せよ!!」
「新しい時代のためだ!!」
嘘でも理屈でもいい。
狂気に身を任せて、
アントワネットの遺体を“利用している”。
塔の上の炎は風に吹かれ、
王都の夜空を真っ赤に染めていた。
その赤は、
どう見ても——
彼女の最後の色だった。
⸻
騎士団長の低い声
騎士団長は、
ルイに近づくことを迷った。
だが、
真実を隠しても意味はない。
ゆっくりと、
膝をつき、
言葉を絞った。
「殿下……
アントワネット殿下の……
御遺体が……」
その瞬間——
ルイの視界に、塔の炎が映った。
まるで炎が
彼の胸に直接突き刺さったようだった。
手が震えた。
息が詰まった。
目の奥が熱くなった。
そして、
音のない声が漏れた。
「……やめろ……」
⸻
炎は止まらない。狂気は止まらない。
塔の上の影が動く。
火に照らされて踊るように揺れる。
アントワネットの形が、
徐々に炎に呑まれていく。
ジャコバン派は笑い、叫び、
酒を地面に撒きながら狂気の夜を祝福していた。
「革命だ!!」
「王を焼け!!王妃を焼け!!」
「これが民の怒りだ!!」
塔の炎が一段と強くなり、
夜空へ飛び散る火の粉が舞う。
その光景は、
ルイの目に“地獄”そのものに見えた。
⸻
ルイの心が、音を立てて崩れた
立ち上がったルイの動きは、
まるで人形のようだった。
膝が揺れ、
手が震え、
口がかすかに開き、
声にならない声が漏れる。
「……やめろ……
やめてくれ……
彼女を……
これ以上……」
だが塔の炎は、
彼の願いなど欠片も聞かなかった。
アントワネットが愛した国が、
アントワネットを焼いている。
その現実が、
ルイという人間を全て壊した。
⸻
騎士団長が叫ぶ
「殿下!!
外へ出てはなりません!!
敵はまだ王の命を狙っています!!
どうか……!」
だが、
その声は届かなかった。
ルイは、
塔の方へ一歩、また一歩と歩き出した。
まるで“引き寄せられる”ように。
騎士団長は血の気が引いた。
「殿下を止めろ!!」




