15話
石畳に崩れ落ちたルイの背後で、
不穏なざわめきが起きた。
「……あれを見ろ」
「王太子じゃないか?」
「本物か?」
「まだ生きてやがるのか……!」
ジャコバン派の連中だった。
武器を持ち、
革命の腕章を巻き、
暴力の匂いをまとった集団が
広場の影から現れた。
先頭の男が吐き捨てる。
「逃げもせずに、首を見に来たか……
いい度胸だな、ルイ王。」
その声は好機を見つけた獣そのものだった。
ルイは動かない。
いや、動けなかった。
(……どうでもいい……
僕は……もう……)
視界はぐらつき、
呼吸も浅く、
手は震えていた。
男が槍を向けて近づく。
「捕らえろ。
こいつを見せしめにしてやる。」
その瞬間――
⸻
「殿下ァァァァ!!!」
広場の反対側から、
地鳴りのような叫びが響いた。
鎧の音。
剣の音。
重い足音。
王家直属の騎士団が雪崩れ込む。
先頭にいたのは、
白髪に鋼の瞳を宿した老騎士――
騎士団長。
彼は真っ直ぐにルイの前へ飛び込み、
剣を横一文字に構えた。
「お前たち……!!
その穢れた手で、
殿下に触れるなッ!!」
声が広場を震わせる。
ジャコバン派の数名が怯む。
だが、後退しない。
「あの女は処刑した!
次はこの王だ!!」
怒号が飛ぶ。
騎士団長の瞳が鋭く細められた。
「――後悔するぞ。」
⸻
⚔️ 斬撃の嵐
一歩踏み込み。
たったそれだけで、
前衛のジャコバン派三名の武器が弾き飛んだ。
「ぐっ……!」
「ひ、ひぃ!!」
騎士団長は
老いてなお“化け物”のような強さだった。
「殿下を守れ!!
一人残らず薙ぎ払え!!」
騎士団が左右から展開し、
ジャコバン派を押し返す。
槍が折れ、
剣が跳ね、
叫び声が響く。
だがルイは、
その光景を見ていなかった。
ただ地面に崩れたまま、
アントワネットの首だけを見ていた。
(僕も……
行きたい……
君のところへ……)
胸が裂けるようだった。
⸻
「殿下、立ってください!」
騎士団長がルイを抱き起こす。
その手は震えていた。
怒りでではない。
悲しみで震えていた。
「殿下……!
ここはもう危険です……!
すぐに離れねば……!」
だがルイは首を振った。
「……離れたくない……
あれは……
あれは、僕の……」
言葉にならない。
騎士団長は歯を食いしばり、
その肩を強く掴んだ。
「殿下!!
あなたまで失えば、
この国は本当に滅びます!!」
ルイの目が揺れた。
(……滅びても……
もうどうでも……)
そう思ったその時。
後方から矢が飛んだ。
シュッ!!
騎士団長はルイの頭を抱え込んで伏せた。
後ろにいた騎士が倒れた。
騎士団長は叫ぶ。
「退却!!
殿下をお守りしながら撤退せよ!!
本気で来ているぞ!!」
⸻
引きずられるように、ルイは連れ出された
部下二人がルイの両側に入り、
半ば抱えるようにして走る。
ルイは抵抗しようとする。
「やめろ……
僕を……
ここに置いていけ……!」
騎士団長は怒号した。
「殿下ァ!!
あなたの命は、
――この国の未来そのものだ!!」
ルイの動きが止まった。
胸に突き刺さるその言葉。
アントワネットの微笑みが、
胸を締めつける。
(……守りたい……未来……)
涙ではなく、
血が滲むような痛みだけがあった。
そのまま、
騎士団に囲まれて、
ルイは王都の外へと運び出された。




