表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/20

12話

パリへ戻る街道は、

祝いの花と旗で満ちていた。


民は叫び、笑い、泣き、

兵士たちは誇らしげに胸を張った。


陽光が黄金のように降り注ぎ、

凱旋の行軍は絵画の一頁のようだった。


ルイは、

その中心で静かに微笑んでいた。


(アントワネット……

 君が喜んでくれたら……

 僕はそれだけで十分だ……)


その胸には、確かな幸福があった。


だが——


それは“一瞬”で終わった。



使者、走る


街道の先から、

異常な速度で馬が駆けてきた。


砂塵が舞い、

祝福の空気を切り裂く。


「……殿下!

 王太子殿下ァ!!」


使者の声は叫ぶというより、裂けていた。


ルイの笑みが止まった。


馬を止め、

前へ行く使者を腕で受け止める。


「何があった。

 王宮か?

 国境か?

 答えろ。」


使者は息を切らし、

震え、

声を絞り出した。


「……殿下……

 急ぎ……急ぎ……!」


ルイは低く言った。


「ここで言うな。

 私の耳に、だけ伝えろ。」


使者は顔を寄せた。


その一言を聞いた瞬間、

ルイの瞳の色が変わった。


完全に。


まるで世界が砕けたように。



一騎駆け


次の瞬間——


ルイは何も言わず、

馬の腹を強く蹴った。


馬が悲鳴のように嘶き、

爆ぜるように走り出す。


「殿下!?

 殿下ァ!!」


将軍が叫ぶが届かない。


兵士たちが慌てて追いかけるが追いつけない。


凱旋の楽隊の音が止まり、

民の歓声が凍りつく。


王太子は、

誰にも目を合わせず、

誰にも声をかけず、

ただ――走った。


顔は蒼白で、

目はまっすぐ、

何かを失った人間のように。


民は口々に呟く。


「王太子様……どうされた……?」

「まるで……闇に追われているようだ……」

「一体……何が……」


彼らには分からない。


ルイの胸に落ちたのが、

“国”ではなく“たった一人の名”であることを。


馬の蹄は地を裂き、

風は泣き叫び、

ルイは息も忘れて叫んだ。


(待ってろ……!)


(頼むから……!)


(アントワネット……!!)



まっすぐ、王都へ


馬は限界を超えて走り、

道にいた旅人が飛び退く。


騎士が叫ぶ。


「殿下ッ!!危険です!!」

「せめて護衛を!!」

「止まれぇぇ!!」


だがルイは立ち上がることすら忘れ、

馬の首に手をかけ、

血走った目で前だけを見ていた。


ある兵士は後にこう語ったという。


「あの時の殿下は、

人の姿をしていたが……

“魂だけ”が走っていた。」


王都の尖塔が見えてきた頃、

ルイは唇を噛んでいた。


血が滲んでも気づかない。


馬は汗が泡のように飛び、

限界を超え、

それでも走った。


(間に合ってくれ……

 どうか……!!)


凱旋の王太子はいなかった。


そこにいたのは——


愛する者が危機にあると知り、

王でも兵士でもなく、

ただ“ひとりの男”として走るルイだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ