11話
—アンリ四世の再来—
努力の日々は、誰にも気づかれず続いた。
弱かった少年の背筋は真っ直ぐになり、
言葉は丁寧に、そして強くなり、
剣筋は粗削りでも迷いが消えた。
だがルイ自身は知らなかった。
自分の変化が、既に“外の世界”に伝わり始めていたことを。
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戦でのルイ:誰よりも前に立つ王太子
初陣。
兵たちは驚いた。
「……殿下が、一番前に……?」
王太子は旗の影に隠れるどころか、
兵士の列の先頭に立ち、
自ら剣を構えていた。
無謀ではない。
無策でもない。
ただ、確固たる意志があった。
(俺の背中に、この国がある。)
(俺の背中に、アントワネットの未来がある。)
兵の恐怖は、
王太子が前へ進むことで静かに消えた。
「王太子殿下、突撃準備完了!!」
「進めぇ!!」
泥と煙が満ちた戦場で、
ルイは兵を導いた。
決して逃げない。
決して背中を見せない。
何より──誰よりも泥を浴びた。
兵士たちは、その姿を見て震えた。
「殿下……泣き言ひとつ言わねぇ……」
「俺たちより先に走るとは……」
「これが……王ってやつか……」
ルイは振り返らず進んだ。
ただひとつの想いが胸にあった。
(守るために強くなった。
守るために前に立つんだ。)
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民からの評判:ただの王子ではない
戦の帰還時。
ルイは決して豪華な馬車に乗らず、
兵士と同じ地面に立ち、
怪我人の手当をし、
失われた命に祈りを捧げた。
それが民の心に火を灯した。
「王太子様……自ら町に来て……」
「勝利だけじゃなくて、死者のためにも祈ってる……」
「こんな王子、見たことない……」
パン屋の老人は呟いた。
「昔のアンリ四世が、こんな人だったと聞いたが……
……まるで、その再来じゃ……」
その噂は一気に広まった。
ブルボン朝の創始者アンリ4世、現代でもなお、フランス史上最高の王と呼ばれている…
「アンリ四世の再来」
ルイは知らない。
そんなあだ名を、民が勝手につけていたことを。
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兵士たちの信頼:命を預けられる王
戦ごとに、兵士たちの顔が変わっていった。
低い声で自然にこう言うようになった。
「殿下が先頭なら……死ぬのが怖くねぇ」
「殿下が後退と言ったら下がる。前進と言ったら突っ込む。」
「命、預けられる王ってこういう人か……」
ルイは気づいていないが、
この信頼は“恐怖”ではなく“尊敬”から生まれていた。
その変化を一番知っていたのは、
老練の将軍だった。
「王太子殿下は……別人のようだ……
努力は、人をここまで変えてしまうのか……」
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ルイの心には、ただ一人だけがいた
戦場の休憩で、
ルイは馬に寄りかかりながら空を見ていた。
兵たちは語り合う。
笑い、飲み、眠る。
ただ一人、ルイだけが空を見ている。
(アントワネット……
君がくれた言葉が……
僕をここまで連れてきたんだ……)
(君の隣に立てる王に、
僕は……なれているだろうか……)
その時、
遠くで鐘が鳴り、
戦の終わりが告げられた。
フランス軍、大勝利。
兵士たちは歓声を上げた。
「殿下!パリが殿下を待っています!」
「凱旋式だ!」
「国が喜ぶぞ!!」
ルイは、初めて少し笑った。
(民の犠牲もほとんどなかったよ…
君に……この勝利を伝えたい……)
そして、
凱旋の行軍が始まった。




