1話
夕暮れの商店街。
部活帰りの類は腹を押さえながら、
空っぽのパン屋の袋をぐしゃっと握っていた。
「……今日は売り切れかよ……マジ無理……」
毎日の“帰り道パン補給”が途絶え、
類は歩道に沈む夕日の影みたいに元気がなかった。
隣を歩く幼馴染の真莉が、ため息をつく。
「類くんさぁ……
毎日同じパン頼りすぎなんだよ、ほんと」
「いや、あのパンが無いと死ぬんだって……俺の体が……」
「はいはい。大げさ」
そう言いながら、
真莉は制服のポケットをごそごそ探し、
小さなチョコクッキーを取り出した。
一枚だけ。
本当に、わずかな甘味。
「ほら、あげるよ。
パンが無いなら……とりあえずこれ食べてれば?」
類は一気に顔を明るくした。
「えっ、マジ!?天使!?女神!!?」
「うるさい。
大事なやつだから味わって食べてね」
類はクッキーをかじりながら笑った。
「なんかさ、今の真莉の言い方、
歴史で習ったアレみたいじゃね?」
「アレ?」
「“パンが無いならケーキを食べればいいじゃない?”ってやつ」
真莉は「あー……」と空を見上げる。
「アントワネットでしょ?
なんかひどいよねあれ。
民が飢えてるのに、ケーキ食べろって……」
「まじで炎上レベルの暴言よな。
今だったら秒でSNS燃えてる」
二人の足音が、商店街の夕暮れに溶けていく。
その何気ない会話は、
ただの歴史の“定番ネタ”にすぎないはずだった。
しかし――
彼らが笑っていたその言葉には、
本当は、まったく別の意味があった。
誰も知らない。
誰も語らない。
ただ、時の海に沈んだ“ひとつの真実”。




