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第9章 — 初めての勝利

雲ひとつない夜空なのに、

空気は嵐を孕んでいるかのように重かった。


リョクは再びゾーン・モルタ(死区)へ戻ってきた。

急いで修理した車は、まるで別物だった――

応答も鋭く、生きている。

まるで“あの存在”が錆びた部品に何かを吹き込んだかのように。


人々が驚きの目で彼を見る。

カイゼンもだ。


「墓場から戻ってきたのか?」

ライバルが挑発する。

「それとも、そいつを連れてきたのか?」


リョクは答えない。

だが内側では、別の“何か”が答えていた。

暗く、静かで、筋肉の中を火のように走る熱。


レースが始まる。

合図が落ちる。

エンジンが咆哮する。


リョクは周囲の世界がゆっくりになるのを感じた。

まるで一秒一秒が、彼のために道を開いていくように。

車は彼の指示に完全に従う。迷いも、恐れもない。

カーブは滑らかに変わり、反射は研ぎ澄まされ、

直感はほとんど“超常的”だった。


カイゼンが進路を塞ごうとする。

リョクはすり抜ける。


カーブで閉じ込めようとする。

リョクは“ありえない数センチ”を通って逃げる。


横からぶつけて転がそうとする。

リョクの車は浮きかけるが、

見えない手が車体を支えるように、すぐ安定を取り戻す。


そして――

リョクが一位でゴールラインを切った瞬間、

人々の歓声が爆発した。


カイゼンは隣に急停止し、

信じられないという顔で、憎悪を燃やしながらリョクを睨む。


リョクは車を降りる。

だがその瞬間、胸の奥に“異変”を感じた。


――穴が開いている。

頭の中に。


ひとつの記憶が消えていた。

母が笑った、ある特定の午後――

「もっと強くなりなさい」と抱き上げてくれた、あの日の声が。


思い出そうとしても、

その記憶は煙のように指の間から逃げていく。


満足げな声が、彼の内側で囁いた。


「勝利には代償がある。……今、お前は支払った。」


リョクは息を深く吸う。

喜びとめまいの中で体が震える。


そして、割れたルームミラーの奥。

自分の映る影の後ろで、

暗い色の“もう一対の目”が

まばたきをした気がした。


もっとだ。

まだ足りん。

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