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第5章 — 禁じられたアスファルトへの招待

その夜、月は消えた灯台のように見えた。

リョクがエンジンの調整を終えたとき、三台のバイクが路地に現れた。

その唸りは、脅しと誘いが混ざり合ったように震えている。

ライダーたちはゆっくり降りる。黒いヘルメット、濡れたアスファルトに反射する赤い光。


そのうちの一人――背が高く、ひび割れたバイザーの男が近づいてくる。

「お前が…あの鉄くずを走るようにしたガキか?」

リョクは答えない。ただ見つめるだけ。

ライダーは乾いた、煙のような笑いを漏らす。

「ゾーン・モルタ(死区)でレースがある。金は簡単に手に入る。

 本当のスピードが欲しいって聞いたぜ?」


“レース”という言葉が、リョクの内側の何かを覚醒させた。

忘れられた歯車が、再び噛み合うように。


工場の扉からタケダが声を上げる。

「そこは彼の行く場所じゃない。長生きしたい奴の行く場所でもない。」


だがライダーは続ける。

「勝てば倍。負ければ…学ぶだけだ。」


彼は金属製のカードをリョクの足元に放った。

そこに刻まれているのは、二つのヘッドライトが頭蓋骨を切り裂くような紋章。


リョクはそれを拾う。

金属の冷たさが掌を焼くように感じる――まるで生きているかのようだ。


胸の奥で、あの誓いが脈打つ。

二度と無力にならない。

二度と遅れた救急車を待つ側にはならない。

“支配”を持つ。“力”を持つ。


バイクたちが闇に消えていくと、リョクは自分の車を見つめた。

そこに“避けられない道”を見るように。


タケダは重い罪悪感のような手を彼の肩に置く。

「坊主…その道を行くと、戻ってきても同じ自分じゃいられない。」


リョクは視線を落とす――

だが、地面に伸びた彼の影は、どう見ても長すぎた。

まるで“もう一人”が後ろから影を引き延ばしているかのように。


そして、車の奥底から、くぐもった低い息が漏れた。


「行け。ついていく。」

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