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第14章 — 裏切られた救い

夕方がゆっくりと落ちていく。

焼けたような空が、ビルの表面を引っかくように赤く染めていた。


リョクは車を、いつものレースの集合場所の近くに停める。

だが今日は――

エンジンの咆哮も、きらめくライトもない。

あるのは張り詰めた沈黙だけ。


風が砂埃とゴミを巻き上げ、

まるで“何かが始まる前の準備運動”のようだった。


最初に現れたのはカイゼンだった。

笑いも挑発もない。

あるのは硬く、心配と疑念に満ちた目。


「リョク……話がある。」

彼は、傷ついた獣に近づくような慎重さで歩み寄る。

「昨日のお前を見た。あれは……お前じゃなかった。

 死ぬところだったんだぞ、バカ。」


リョクは答えない。

世界そのものが、音を失ったように重かった。


カイゼンは深く息を吐く。

「一度しか言わねぇ。

 燃え尽きる奴、壊れる奴……影に呑まれる奴、見てきた。

 お前は今、その道を歩いてる。」


彼はリョクの目を真正面から捉える。


「助けたいんだよ。

 ふざけてねぇ。

 昨日、お前の“鏡”を見た。あんなの普通じゃない。」


リョクの中の存在が蠢く。

捕食者がゆっくり目を覚ますように。


「そいつは“道”からお前を外そうとしている。

 ……黙らせろ。」


リョクは無視しようとする。

だが呼吸が変わり、

風が不自然に冷たくなる。


カイゼンは半歩後ずさる。

「……なんだよ、それ。何が起きてる?」


リョクの背後で影が伸び、

地面に“人の形に近い”輪郭を落とす。


カイゼンの瞳が震えた。


「リョク……何か“いる”。

 戦え、抵抗しろ――」


その瞬間、

存在がリョクの頭の中を熱く、残酷に押し流した。


リョクは口を開く。

だが出てきた声は――

二人分の声が重なったように濁っていた。


「誰にも……俺を道から外させない。」


カイゼンはさらに後ずさり、

今度は明確に恐怖で顔が歪む。


「お前……本当に助けが――」


リョクは動いた。

早すぎる速度で。

カイゼンの襟を掴み、車に叩きつけた。


「……口出すな。」


カイゼンは抵抗しようとするが、

次の瞬間、リョクは急に手を離した――

一瞬だけ残った“彼自身”の良心が引き戻したのだ。


カイゼンは膝から崩れ落ち、咳き込みながら震える。


そして、最後の力でリョクを睨みつけた。

怒りと恐怖が混ざった目で。


「そうかよ……

 じゃあもう勝手にしろ。

 その道、一人で行けよ。」


リョクは背を向けた。


一歩踏み出した瞬間、

頭の奥で――何かが“裂けた”。


大きな記憶。

これまでとは比べ物にならないほど大きな欠片。


父が彼の手を握り、

ドライバーの持ち方を教えていた記憶。


――消えた。


空白。

深すぎる虚無。


闇の中で、存在が笑う。


「あいつはお前を救おうとした。

 だが残ったのは――裏切りだけだ。」


そして、“微細な変化”は囁きとなって

割れた意識の奥に響いた。


「これからは……誰もお前を助けようとはしない。」

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