アケミの知らない話
母親がパートに出かけた後、アケミの父親は新聞を読みながらマグカップを手に取る。妙に軽いので中を除くと、マグカップの底が見えた。飲み干していたらしい。2杯目を注ごうと腰を浮かせると、アケミが話しかけてきた。
「ねぇパパ」
「うん?どうしたアケミ」
「一族の掟で、この鉄仮面を着けなきゃいけないのは理解してるの」
「ああ、無理強いして済まないね。年頃の娘にはキツイかもしれないと理解はしているんだが、それでも必ず着けていて欲しいんだ」
「うん、分かってる。でもね、私が聞きたいのはそうじゃないの。パパの仕事って何なの?」
アケミの素朴な疑問に、父親は答えない。額から滲み出た汗が、マグカップへと落ちていく。
「ふ、普通の会社員だよ」
「どこの会社?」
「あまり大きな会社じゃないからね、言ってもアケミには分からないさ」
アケミは父親の答えに納得いっていない様子で、ふーんと言いながらスマホを取り出す。
ポケットに入れていた父親のスマホが鳴った。
「パパのスマホ、私やママがかけると普通の着信音なのに、偶に緊急災害アラート並の大きな音が鳴るのは何で?」
「そ、それは会社からの連絡だよ。気付かなかったら、大事だからね」
「スマホの画面が赤くなって、秘密結社みたいなマークも出るのに?」
首に巻いていたタオルで汗を拭う父親の手が、小刻みに揺れている。
アケミは、ただ父親の仕事を知りたいのではない。父親が危険な仕事をしているのではないかと、心配なのだ。文句も言わずに鉄仮面をしているのも、父親を信頼しているからだ。
「どうして急に、パパの仕事が気になったんだい?」
「彼氏に家族を紹介する時、なんて言えばいいか困ったから。ちゃんと聞いとこうと思って」
「ああ、なんだ。そうかそうか。って彼氏!?パパ初耳だけど!?!?」
ウィーンウィーンウィーンウィーン
騒がしい音と共に父親のスマホの画面が真っ赤になり、秘密結社みたいなマークが浮かぶ。
「すまないアケミ、会社から呼び出しだ」
「取り敢えず、彼氏には小さな会社に勤めてるって言っとくね」
「理解力のある手のかからない娘で、本当に助かるよ。パパが帰ったら、彼氏君の話を聞かせておくれ」
「うん、パパ無理しないでね。私もママも、パパのこと、大好きだから」
「ありがとう、行ってくるよ」
アケミの父親が壁にスマホをかざすと、壁がスライドし、ダストシュートの様な穴が現れる。父親がその穴に飛び込むと、壁は元に戻り、穴は消えた。
「......耐震とか、大丈夫かしらこの家。もしかしたら、核シェルター並に丈夫だったりするのかな?」
父親の仕事の他に、気になる事が出来てしまったアケミであった。




