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お砂糖を一欠片(改稿版)  作者: みゅう
第五章 不穏な空気
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第18話(2) 門限

「で、結局、GPSはなんだったの?」


 挨拶を交わした後、隣の席に腰を下ろした榊さんが早速とばかりに、朝送られてきたラインの件を私に聞いてきた。


 ラインを送ったのは優子ちゃんだったが、そこに私がいたのは榊さんの中で確定事項らしい。

 まぁ、実際その通りなので、その判断は間違っていないのだが。


「なんか話の流れで、優子ちゃんの家族がみんなGPSを共有してるって話になって、そこから他の家はどうなんだろうって」

「みたいよ」

「へー。やっぱりアレかな。誘拐対策」

「私もそれは思った。優子ちゃんのウチ、お金持ちっぽいもんね」


 具体的に両親の職業等を聞いたわけではないが、様々な話を統合すると自ずとそういう結論に行き着く。


「でも、そんな感じでよく、一人暮らし許してもらったよね」

「お父さんが一人暮らしも社会勉強だって、二つ返事でOKしてくれたみたい」

「なるほど。耳が痛い話だ」


 私も榊さんも共に実家暮らしの身、その気持ちはよく分かる。


「いっそ、ルームシェアも手かなって思ったり?」


 そう言って榊さんが、にやりと笑う。


 まぁ、それも一つの手だろう。二人なら家賃は半分、家電も物によっては一つで住む。更に、気持ちの面でも一人より二人の方が心強い。他人と暮らすのに抵抗がない人ならば、いい事()くめだ。


「候補はいるの?」


 一緒に暮らすなら、相手選びは重要だ。全く知らない人と住むなんて博打(ばくち)まがいの事は、少なくとも私には考えられない。


「みどりさんはどう? 私とルームシェアなんて」

「え? 私? うーん。今のところする気はないかな。ルームシェアも一人暮らしも」

「そっか。残念」


 言ってみただけというやつなのだろう。榊さんの反応は、然程(さほど)残念そうではなかった。


「ありがと」


 例え社交辞令だとしても、そう言ってもらって悪い気はしない。


「けど、学校から徒歩数分は、普通に魅力的よね。朝何時まで寝てられるんだって話よ」

「私達なら、一時間は多く寝られるわね」


 家から最寄り駅まで行く数分と電車に揺られる五十分あまりに加え、プラスアルファの数分が、丸々不要になるのだから。


「一時限目がある前の日だけでも、優子ちゃん泊まらせてくれないかな」

「ダメでしょ、そんな便利な宿泊施設感覚で友達の家を使ったら」


 まぁ、相手の性格やお互いの関係性によってはそれも許されるのかもしれないが、なんにせよそこに至るまでいくつかの段階を踏む必要はあるだろう。


「だよねー。そもそも私、まだ優子ちゃんン家泊まった事ないし。みどりさんは?」

「私もまだ泊まった事はないかな。いつか近い内にって、話にはなってるけど」


 ……といった感じだ。具体的な事は何一つ決まっていない。


「優子ちゃんの事だから、みどりさんを迎えるために色々な準備してそう。高級布団とかシルクの寝巻きとか」

「……」


 否定したところだが、(あなが)ち有り得ない話でもないので、どう返すべきか悩む。


「みどりさん最推しって感じだもんね、優子ちゃん」

「何がそんなにいいんだか」


 自分ではそこまで好かれる理由が分からない。入学したてに困っているところを助けたから、余計に感情に補正が掛かっているのだろうか。(ひな)が産まれて初めて見た、動くものを親だと思う的な。さすがにそれは言い過ぎか。とにかく、優子ちゃんが私の事を必要以上に推してくれているのは間違いなかった。


「まぁ、恋は盲目(もうもく)って言うしね」

「絶対それ、(つか)い方間違ってるでしょ」

「どうかなぁ」


 私の指摘に対し、榊さんはにやりと笑いそう口にする。


 どうかなぁって……。


「みどりさんは、そういうのダメな人?」

「ダメって事はないけど……」


 そもそも自分が当事者になる事を想定していないので、その手の話を振られてもただただ困るだけだ。


「まぁ、今はそれでいいんじゃない? 今は、ね」

「どういう意味?」


 榊さんの(ふく)みのある物言いに、私は(まゆ)をひそめる。


「うーん。私の口からはこれ以上言えないかな。あんまり言い過ぎると、怒られちゃうから」

「誰に?」

「さぁ、誰にでしょう?」

「……」


 今までの話を振り返れば、答えは自ずと導き出される。


 だとしてもそれは、あくまでも榊さんの考えであり、真実というわけではない。結局のところ、答えは本人の中にしかないのだ。となれば――


「現状、私が何かをする事はないわ」


 直接本人に尋ねるわけにもいかないし、私の出来る事はない。今まで通り、友人として接するだけだ。


「そうね。私もそれがいいと思う。ただ、今後のために、心に()めておく必要はあるかなって」

「……」


 榊さんは案外(と言ったら失礼か)、思慮(しりょ)深い人だ。そんな彼女がここまで言うのだから、本当に必要な事なのだろう。


「分かった。心に留めとく」

「うん。そうして」


 私の返事に対し榊さんは、にぃっと歯を見せて笑うのだった。

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