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お砂糖を一欠片(改稿版)  作者: みゅう
第五章 不穏な空気
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第17話(2) 尾行

 夕食後、私はお風呂に入るまでの時間を自室で過ごすべく、一人階段を上がる。


 食事をしてすぐ湯船に(つか)かると胃に悪いと言う。本当は食事を取ってから、二時間以上時間を空けた方がいいらしいが、この時間ではさすがにそこまでは出来ないので、夜バイトに行く日は食事を取ってから約三十分後にお風呂に入る事にしていた。


 階段を上がり、廊下(ろうか)を歩いている最中、手に持っていたスマホが突如(とつじょ)震える。

 ラインだった。相手は姫紗良さん。内容は、今電話をしてもいいかというものだった。


 それを見て私は、すぐさま大丈夫という(むね)のメッセージを送る。

 程なくして、姫紗良さんから電話が掛かってきた。


 画面に表示された通話ボタンを押すと私は、スマホを耳に当てる。


『話は聞かせてもらいました』

「……」


 挨拶も何もなく、スマホ越しにいきなり発せられたその言葉に、私は思わず言葉を失う。


 とりあえず、自室に入り、ベッドに腰を下ろす。


「えーっと、なんの事でしょう?」

『まーくんがさっき帰ってきて、みどりさんを家まで送って行ったって』


 どうやら雅秋さんはラインで遅くなる事は伝えたが、その理由までは伝えなかったらしい。


「あー。はい。そうなんですよ。コンビニの所で偶然会って。ホント助かりました。あ、すみません。彼氏さんお借りしちゃって」


 決して悪い事をしたわけではないが、彼女持ちの男性と二人きりで夜道を歩くという行為は取りようによっては良くない事なのかもしれない。彼氏がいた試しがないため、私にはその辺の事はよく分からないが。


『いえ、みどりさんなら全然問題ないです。むしろ、ウェルカム状態なんで、バンバン借りてやってください』


 バンバンって、物じゃないんだから……。


『そんな事より、みどりさん誰かにつけられてたって』


 あー。その事……。


「つけられたっていうか、私の気のせいかもしれないんですけど、現に彼氏さんと会った時には背後に誰もいなかったみたいですから」


 後ろにいた人がたまたま私と同じ道を数百メートル歩いただけ、真相はそんなところだろう。


『そうなんですか?』

「はい。ご心配をお掛けしてすみません」


 まさか、私の早とちりが雅秋さんと姫紗良さん、二人も巻き込む大ごとになるとは、なんだか申し訳ない気分だ。


『だったらいいんですけど……。でも、気を付けてくださいね。そういうのは用心するに()した事ありませんから』

「はい。ありがとうございます」

『もし今後も危険を感じるような事があったら、すぐに連絡ください。まーくんか父のどちらかを向かわせますので』

「いや、それはさすがに……」


 人様にそこまでしてもらうわけには……。


『みどりさん、何かあってからでは遅いんですよ』

「……」


 年下の少女に(さと)されてしまった。

 とはいえ、姫紗良さんの言う通りだ。何かあってからでは遅い。なので――


「分かりました。今日みたいな事があったら、親に電話します」


 それが無難な判断だろう。


『でも、両親に連絡って、地味にハードル高くないですか? その点、私なら気軽に連絡出来るじゃないですか。ほら、勘違いでも笑い話で済むし』


 後者はともかく、前者は確かにその通りかもしれない。ああいう時、どうしても変な理性が働き、親に連絡する事を躊躇してしまう。思い過ごしだったら、大げさかもしれない、親に連絡するような事なのか……。様々な連絡をしない理由が頭に浮かび、結局、事前に頼る事が出来ない。私なら大いに有り得る。というか、高い確率でそうなるだろう。だとしたら――


「じゃあ、もし不安な時は、姫紗良さんに連絡させてもらいますね」


 姫紗良さんの申し出を、素直に受け入れておいた方が自分の身のためだ。

 まぁ、そんな機会は訪れないと思うけど。


『はい。お待ちしております。あ、それ以外の理由でも、全然電話掛けてもらって構いませんので。私、みどりさんとお話するの好きですから』


 この子は本当に……。


『そういえば、みどりさんって高校の時に、生徒会役員だったって本当ですか?』

「えぇ。二年と三年の時に書記をやってました」


 百合さんから聞いたのだろうか?

 ……というか、他に姫紗良さんにそんな話をしそうな人は思い付かない。私と姫紗良さんの共通の知人という時点で限られてくるし。


『その時の話、ちょっと聞きたいなって……。あ、私も今生徒会に入ってて』

「いいですよ。どんな話が聞きたいんですか?」

『ホントですか。やった。じゃあ――』


 その後、姫紗良さんとのスマホ越しのお(しゃべ)りは、なかなかお風呂に入りに来ない私を呼びに来たお母さんによって止められるまで続き、結局、なんやかんやと気が付くと通話を始めてから一時間以上の時間が経過していた。


 元来人見知り気質な私が、短期間でここまで人と打ち()けられるのは、やはり姫紗良さんの人柄あっての事だろう。

 彼女が学園のアイドルとしてみんなから愛される訳が、よく分かった気がする。




第五章 不穏な空気 <完>

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