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お砂糖を一欠片(改稿版)  作者: みゅう
第五章 不穏な空気
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第16話(3) 過去2

 月曜日。私は駅を降りると直接家に帰らず、三島商店(みしましょうてん)へと向かった。


 店内のカウンターには予想通りくみやんがいて、そこにうつ伏せになりダレていた。


「ちわー」

「ハロハロ」


 私の適当な挨拶に、くみやんはこれまた適当な挨拶で(こた)える。


 カウンターから体こそ起こしたものの、その態度はまだまだ客を迎えるものには程遠く、私でなければ怒られそうだ。


「そんな風にだらけてていいの? バレたらまたおじさんに叱られるんじゃない?」

「私はね、みどちゃん。今の今まで怒涛(どとう)のガキんちょラッシュに合ってたわけよ。だから、客のいない間ぐらいダラけさせておくれよ」


 現在の時刻は午後五時を少し回ったところ。

 この辺りの小学校は午後五時を門限にしており、学校終わりからその時間までが小学生の書き入れ時となっている。というわけで、間の数時間は日頃閑古鳥(かんこどり)が鳴いている三島商店もそれなりに混雑する。しかも相手は小学生。応対する店員の苦労は、想像に(かた)くない。


「お客さんが来たら、ちゃんとシャンとするの?」


 (ゆえ)に私も、ついついくみやんに甘い対応をしてしまう。


「そりゃもう、背筋ピーンの目ピカーンよ」

「ならいいけど」


 私とくみやんの仲だ。客扱いされていない事については目を(つむ)ろう。


 レジ横に置かれた小さな冷蔵庫からラムネの入った(びん)を一つ取り出し、代わりにお金をカウンターに置く。


「これ、貰うわね」

「まいど」


 断りを入れてから、ビー玉を瓶の中に落とす。そして、瓶を口に持っていく。


「そう言えば、あれからどう?」

「何が?」

「田澤君に会ったって言ってたじゃない」

「あぁ……」


 この前会った時に、そんな話もしたっけ。姫紗良さんと違って、くみやんは良くも悪くも空気みたいな存在なので()で忘れていた。


「実は、昨日もいたんだ、彼」

「え? 待ち伏せされてたって事? もうガチじゃん」


 私の返答にくみやんが姿勢を正し、本格的に話を聞く態勢を取る。


「それで?」

「話があるって言うから、近くの公園に一緒に行って」

「うん」

「小学生の時の事を謝ってきた」

「今更? 謝るタイミングなんて、今までいくらでもあっただろうに」


 くみやんの言う通りだ。小中とずっと同じ学校に通っていたのだから、謝ろうと思えばいつでも謝れたはずだ。


「で、みどちゃんはなんて答えたの?」

「昔の事だしもう気にしてないって」

「まぁ、そう言うしかないか。変にもめるのも面倒だもんね」


 そこで(うら)(ごと)を口にしたところで、私の気はおそらく晴れない。ならば、穏便(おんびん)にその場をやり過ごした方が断然マシだ。


「じゃあ、とりあえずこの件はこれでおしまい?」

「だといいけど」


 連絡先を聞かれた辺り、向こうは私と接点を持ちたがっているようだったが、こちらにその意思はない。出来ればこのまま、何事もなく終わって欲しいのだが……。


 誰かがやってきたのを気配で感じ、私は半ば反射条件気味に出入り口の方に目を向ける。

 見慣れた制服を着た男女が、お店に入ってくるところだった。


「いらっしゃいませー」


 それを見て、くみやんがそう二人に声を掛ける。


「あっ」


 男子生徒の顔を目にした瞬間、思わず声が出た。見覚えのある顔だったからだ。


「あっ」


 相手もこちらに気付き、同じく声を上げる。


「こんにちは」

「どうも」


 私の挨拶に対し、男子生徒がいつものようにぺこりと頭を下げる。


「誰?」

「バイト先によく来る常連さん」


 くみやんの問い掛けに、私はそう答える。


 向こうでも同じようなやり取りが行われていて、女子生徒に尋ねられた男子生徒が「()()けの喫茶店の店員さん」と答えていた。


「彼女はその幼なじみで」

「そうですか。仲いいんですね」


 同じ高校に通い、こうして放課後に一緒に行動しているなんて。


「あぅ……」


 私としては(いた)って普通の事を口にしたつもりだったが、男子生徒はなぜかダメージを受けたように(うつむ)いてしまう。


 一体どうしたのだろう? おかしな事は言っていないはずだけど……。


「今のはみどちゃんが悪い」

「え? 何が?」


 理由は分からないが、とにかく私が悪いらしい。


 後でこっそり、くみやんに聞いてみるか。……自分で考えろって言われそう。というか、絶対言われる。だって、くみやんだもん。こういう時、素直に答えてくれるはずがない。


「あれ?」


 なんて事を考えていたら、隣からふいにそんな声が聞こえてきた。


「どうかした?」

「ううん。なんでもない」

「そう?」


 声の感じからして何かに気付いたようだったけど、本人がなんでもないというならこれ以上詮索(せんさく)するのはよそう。お店に関する、私が聞いたらまずい話かもしれないし。

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