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お砂糖を一欠片(改稿版)  作者: みゅう
第一章 物語の脇役
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第3話(1) 身の程

 木曜日は午前にしか授業を入れていないため、十六時からバイトに入る。

 喫茶店には大体、朝・昼・夕方と数時間ずつ混みやすい時間というものがあり、十六時から十八時の二時間もその内の一つだった。


 時刻は十七時を少し回ったところ。店内には現在四組・十名のお客さんがいて、このお店のキャパシティーからすると大変(にぎ)わっていた。


 たまにこんなにお客さんが来なくて大丈夫なのかなと思う時もあるが、コンスタントに来てくれる常連さんがいる上こういう時間が定期的にあるので、充分(じゅうぶん)やっていけているようだ。


「いらっしゃいませ」


 新たなお客さんを出迎えるべく、私はカウンターの前に移動する。


 鈴の音と共に、一人の男の子が姿を現す。見慣れた制服に身を包んだ常連さんだった。


「お好きな席にどうぞ」


 笑顔を浮かべ、男の子に声を掛ける。


 男の子はいつものように恥ずかしそうに(うつむ)くと、ぺこりと頭を下げ店の奥へと消えていった。


 人見知りなのか、女性が苦手なのか、あるいはその両方か。私が個人的に嫌われているという事はさすがにないと思うが、どうだろう。


 お冷とお絞りを手に、私は男の子の座る席へと向かう。


 男の子の前にお冷とお絞りを置く。そして――


「ご注文はお決まりでしょうか?」


 私はそう尋ねた。


「あっ。えーと、ブレンドを……」


 メニューを開く事なく答えたそれは、男の子がいつも注文するお気に入りの飲み物だった。


「畏まりました。少々お待ちください」


 一礼の後、私はカウンターに足を向ける。


「ブレンドを一つお願いします」

「はーい。いつものね」


 百合さんに注文を伝えると、私は周囲に気を配りながらも、同時に男の子の動向も(うかが)う。


 見た目は悪くない。格好いいかと聞かれれば首を傾げざるを得ないが、決して格好悪いわけではない。どちらかと言うと、可愛いタイプだろうか。大半の女子には好かれる容姿をしていると思う。それが、恋愛感情にまで発展するかと言ったら正直微妙だが……。

 背は低め。体付きも華奢で、それこそ女の子のよう。もしかしたら、優子ちゃんよりも小柄かもしれない。


 優子ちゃんと言えば、葵さんの(お父さんの)お店に一緒に行く事になっているけどいつにしよう。静香ちゃんと彼氏がよく来るのは、平日なら夕方、休日ならお昼過ぎという話だったが果たして……。


「みどりちゃん、これお願い。ブレンド一つね」

「あ、はい。分かりました」


 いけないいけない。余所事(よそごと)なんて考えず仕事に集中しなければ。特にこの時間帯は。


 カップをお盆の上に乗せ、男の子の元に向かう。


「こちら、ブレンドになります」


 そう言って、男の子の前にカップを置く。


「あ、ありがとうございます」

「ごゆっくりどうぞ」


 一礼の後、私は男の子に微笑(ほほえ)み掛け、その場を離れた。


 それからおよそ三十分後。ようやく店内に落ち着きが戻り、私はほっと一息を()く。

 今いる店内のお客さんは男の子を含めて三人だけ、全員が一人で来ている常連さんだった。


「みどりさんはどんなタイプが好きなの?」


 注文の頻度(ひんど)が減り手持ち無沙汰(ぶさた)になったためか、百合さんがそんな事を私に聞いてくる。


「なんですか、急に……」

「いや、ふと気になっちゃって」


 ただの世間話という事か。


「特に、これといったタイプってものはないですね。凄く好きになったっていう人も、今までいませんし」


 視線は店内に向けたまま、私は百合さんの質問に正直に答える。


「身長は? 高い方がいいとか低い方がいいとか」

「別に、どっちでも……」


 そこを気にした事はない。つまり、身長は私の中で判断材料になり得ないという事だろう。


「じゃあ、年齢は? 年上がいいとか年下がいいとか」

「年齢も別に」


 どちらでもいい。というか、なんだこの質問は? 明確な意図がありそうだが、それがなんだか分からない。身長? 年齢? 百合さんは何を私から聞き出したいんだ?


「ん?」


 ふと視線を感じそちらを見ると、男の子が私達の事を見ていた。


「――ッ」


 私の視線に気付いた男の子が、それから逃げるように慌てて下を向く。


 うるさくし過ぎた? 声のトーンは、(おさ)え気味で話していたつもりだったが。


「みどりちゃんの事が気になったのかしら」


 そう言って、百合さんが微笑む。


「まさか。だとしたら、百合さんの方ですよ。私より断然魅力的ですし」

「みどりちゃんって、自己評価低めだよね」

「そんな事ありませんよ。自分の事は自分がよく知ってます」

「そうかな?」

「そうです」


 確かに私は、自分に対し期待をしていない節がある。しかし、だからと言って、自分を過少評価しているかというとそうではないと思う。それに、美人な知り合いがこれだけ多いと、さすがに自分の身の程を(わきま)えたくもなる。

 特に、高校時代の生徒会メンバーは皆美人(ぞろ)いで、居心地の悪さを覚えた事は一度や二度ではない。その中でも、静香ちゃんと葵さんは群を抜いていたが。


「そんな事ないと思うけどな」

「……」


 百合さんの(つぶや)きは聞かなかった事にして、私は心の中で溜息(ためいき)を吐く。


 過剰な期待は抱かない方がいい。その事を私は、小学生の頃痛い程思い知った。

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