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お砂糖を一欠片(改稿版)  作者: みゅう
第三章 お泊り
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第9話(3) ルーブル

 お店を出ると私達は、家には()()ぐ帰らずある場所に向かう。

 優子ちゃんから、私が日頃行く場所を案内して欲しいと要望があったからだ。


 歩いて数分、目的地が見えてくる。

 一階が店舗(てんぽ)になった二階建ての建物。そこが今回の目的地だ。


三島商店(みしましょうてん)】。四十年以上前からこの地に店を構える商店で、飲食をメインに雑貨(ざっか)(など)(あつか)う今で言うコンビニ的なお店だ。

 そのコンビニや薬局が近くにあってもここに常習的に買い物に来るお客さんはまだまだ多く、近隣住民の生活の一部となっている。


 さて、今日は日曜日だし、この時間ならやつがいるはずだが……。


 スライド式の扉を横に引き、店内に入る。


 やはりいた。


「いらっしゃいませ――って、なんだ、みどちゃんか」


 レジの中に座りだらけていた少女が、来客用の挨拶をした後こちらを見やり、すぐに相手が私だと気付き態度を変える。


「なんだって何よ。私も客には変わりないでしょ」

「ごめんごめん。(ひま)過ぎて気抜いてた」


 少女――くみやんがそう言って相好(そうごう)(くず)す。


「で、後ろの子はもしかしてあれ。みどちゃんの隠し妹か何かかい?」

「そんなわけないでしょ。大学の同級生の大橋優子ちゃん。で、こっちが幼なじみの三島久美子(くみこ)。通称くみやん」

「ハロハロ」

「はろはろ?」


 疑問符をお尻に付けながら、くみやんの言葉を繰り返す優子ちゃん。可哀想(かわいそう)に、反応に困っているのだろう。


「こんな感じのやつだから、適当に相手しとけばいいからね」

「おい」


 右からツッコミらしきものが入ったが、特に気にするような案件でなかったためスルーする。


 毎度毎度相手をしていては、私の方が疲れてしまう。


「ラムネ(もら)うわね」

「どーぞ」


 くみやんの返事を聞くより先に私はレジ横の冷蔵ショーケースから(びん)を二つ取り出し、代わりにトレイにお金を置く。


「優子ちゃん」

「え? あ、はい」


 その内の一つを優子ちゃんに手渡すと私は、(ふた)を使って自身の瓶で(せん)の役割をしているビー玉を下に落とす。プシュという音がして邪魔者が底の方に沈む。


 瓶を口に運ぶ。炭酸飲料の刺激が甘さと共に口と喉を通り、体の中に流れていく。


 夏とラムネはなぜかよく合う。炭酸ならコーラでもいいはずなのに。やはり、祭りを連想させるからだろうか。


「優子ちゃんってどこに住んでるの?」

水甕口(みずがめぐち)です」


 ビー玉を下に落としながら、優子ちゃんがくみやんの質問に答える。


「あー。二人が通ってる大学がある。近くに住んでるんだ?」

「歩いて五分くらいのとこです」

「そりゃ、楽でいいわ」


 くみやんも私も、一時間以上掛けて大学に通っている。週四日大学に通うとして、私達と優子ちゃんの通学時間の差は八時間以上。それだけの時間があれば、色々な事が出来る。読書に勉強、料理にゲーム、バイトの時間を増やす事も可能だ。まさにタイムイズマネー。時は金なりというやつだ。


 優子ちゃんがビー玉を下に落とし、瓶を自分の口に持っていく。

 そして、顔を(わず)かにしかめた。炭酸の刺激が思ったより強かったのかもしれない。


「大学でのみどちゃんって、どんな感じなの?」

真面目(まじめ)で大人っぽくて、私の事を優しく(しか)ってくれる、素敵なお姉さん、みたいな?」

「へー」


 優子ちゃんの評価というか感想を聞いて、くみやんが何か言いたげな視線を私に向ける。

 それを私は目で制す。


「久美子さんは今、その、何をされてるんですか?」

「え? 店番?」

「そうじゃないでしょ」


 見事に()み合わない二人の会話に、私は助け船を出す。


「進学先とか就職先とか聞いてるんだと思うよ、優子ちゃんは」

「あぁ。大学生。鳴見谷(なみや)大学って知ってる? 私、そこに通ってるの?」

「え? 鳴見谷大学って、あの鳴見谷大学ですか?」


 優子ちゃんが驚くのも無理はない。鳴見谷大学と言えば、県内はもちろん全国でもトップクラスの名門国立大学である。そこにこの感じで通っていると言われても、にわかには信じられないし信じたくもないだろう。


「意外でしょ?」

「あ、はい。いえ、そんな事は全然……」


 咄嗟(とっさ)に私の言葉を肯定(こうてい)し掛けて、途中でそれを慌てて打ち消す優子ちゃん。


 どちらが本音かは、言うまでなかった。


「ひどっ。どうせ私は、馬鹿(ばか)っぽいですよーだ」

「まぁ、否定はしないわ」

「しないのかよ!」


 実際中学に入って、くみやんの答案用紙を見て私は我が目を(うたが)った。

 中学生になり小学生の時より高得点を取るのが難しくなったはずなのに、彼女は相変わらず満点付近をキープしていたのだ。


 というか、十年来の付き合いとなった今でも、くみやんが本当は(かしこ)いという事実を私は度々(たびたび)忘れそうになる。

 そのくらい彼女は、なんというか、素敵な性格をしているのだった。

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