第7話(1) 考え事
本来は鍵が掛かっていて開かないはずの扉を、私はなんの躊躇いもなく普通に開く。
私が鍵を開けたわけではない。そもそもここの鍵を手に取る事を、私は許されてはいない。生徒の中で唯一ここの鍵を持つ事が許されているのは――
突如開けた視界に、一人の女生徒の姿が映る。
ゆっくりとした動作で、その女生徒がこちらを向く。
「みどりか」
ぽつりと呟くように発せられた自身の名前に、私は短く「はい」とだけ答えた。
「どうかしたのか?」
「ちょっと、外の空気が吸いたくなって」
「……そうか」
屋上に足を踏み入れ、私は女生徒――葵さんの元に近付く。
隣に並び、暫し二人で同じ方向を眺める。
「悪い」
先に沈黙を破ったのは、葵さんだった。
「何がですか?」
私の方には、葵さんに謝られるような謂われはなかった。
しかし、何についての謝罪か見当は付いている。
「正直に言うと、私は次の生徒会長は静香が適任だと思っている」
「私もそう思います」
嘘ではなく、本心からの言葉だった。
生徒会長は、全校生徒による投票で決められる。けれど今回は、立候補の締め切りと共に無投票で生徒会長が決まりそうだ。それはなぜか。簡単な話だ。他に立候補者がいないから。一人しか立候補者がいなければ、投票をしたくてもしようがなかった。
「一年だからと渋る静香の背中を押したのは私だ。だから……」
「恨むなら私を恨めと?」
「ッ」
私の言葉に、葵さんの表情が僅かに歪む。
こんな葵さんは初めて見た。
葵さんはいつも飄々としており、捉えどころのない人だ。しかしその奥で、色々な事を考え悩んでいた事を私は知っている。だから――
「別になんとも思ってませんよ。元々、立候補するつもりもありませんでしたし」
例年現生徒会メンバーから、必ずと言っていい程一人は次の生徒会長に立候補する者が出る。それは大抵二年生の誰かで、その慣習通りなら立候補するのは私のはずだった。なぜなら、現生徒会メンバーに、二年生は私一人しかいないのだから。
だけど今年は、私より、いや誰よりも生徒会長に相応しい後輩がいる。ならば、私が出る幕ではない。
「私が言うのもなんだけどさ」
後頭部をかきながら、葵さんが言う。
「生徒会長や副会長はそりゃ目立つし、もちろん重要なポジションだと思う。けど、本当に大事なのは、その目立つ奴らを支える人、縁の下の力持ちの方なんじゃないかって私は思うんだ。だから――」
そう言って葵さんが笑う。申し訳なさそうな、それでいて懇願するような笑顔で。
「悪いが、あいつらの事を頼む。お前がいてくれるから、私は安心で生徒会を抜けられる。いや、ホントマジで」
私に、葵さんが言うような価値があるとは思えない。しかし、頼られれば力を貸そうとは思っている。だって私にとっても、あの二人は大切で可愛い後輩なのだから。




