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お砂糖を一欠片(改稿版)  作者: みゅう
第二章 大学の友人
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第7話(1) 考え事

 本来は鍵が掛かっていて開かないはずの扉を、私はなんの躊躇(ためら)いもなく普通に開く。


 私が鍵を開けたわけではない。そもそもここの鍵を手に取る事を、私は許されてはいない。生徒の中で唯一ここの鍵を持つ事が許されているのは――


 突如(とつじょ)開けた視界に、一人の女生徒の姿が映る。

 ゆっくりとした動作で、その女生徒がこちらを向く。


「みどりか」


 ぽつりと(つぶや)くように発せられた自身の名前に、私は短く「はい」とだけ答えた。


「どうかしたのか?」

「ちょっと、外の空気が吸いたくなって」

「……そうか」


 屋上に足を踏み入れ、私は女生徒――(あおい)さんの元に近付く。


 隣に並び、(しば)し二人で同じ方向を眺める。


「悪い」


 先に沈黙を破ったのは、葵さんだった。


「何がですか?」


 私の方には、葵さんに謝られるような()われはなかった。

 しかし、何についての謝罪か見当は付いている。


「正直に言うと、私は次の生徒会長は静香(しずか)が適任だと思っている」

「私もそう思います」


 (うそ)ではなく、本心からの言葉だった。


 生徒会長は、全校生徒による投票で決められる。けれど今回は、立候補の締め切りと共に無投票で生徒会長が決まりそうだ。それはなぜか。簡単な話だ。他に立候補者がいないから。一人しか立候補者がいなければ、投票をしたくてもしようがなかった。


「一年だからと渋る静香の背中を押したのは私だ。だから……」

「恨むなら私を恨めと?」

「ッ」


 私の言葉に、葵さんの表情が(わず)かに(ゆが)む。


 こんな葵さんは初めて見た。

 葵さんはいつも飄々(ひょうひょう)としており、(とら)えどころのない人だ。しかしその奥で、色々な事を考え悩んでいた事を私は知っている。だから――


「別になんとも思ってませんよ。元々、立候補するつもりもありませんでしたし」


 例年現生徒会メンバーから、必ずと言っていい程一人は次の生徒会長に立候補する者が出る。それは大抵二年生の誰かで、その慣習(かんしゅう)通りなら立候補するのは私のはずだった。なぜなら、現生徒会メンバーに、二年生は私一人しかいないのだから。

 だけど今年は、私より、いや誰よりも生徒会長に相応しい後輩がいる。ならば、私が出る幕ではない。


「私が言うのもなんだけどさ」


 後頭部をかきながら、葵さんが言う。


「生徒会長や副会長はそりゃ目立つし、もちろん重要なポジションだと思う。けど、本当に大事なのは、その目立つ奴らを支える人、(えん)の下の力持ちの方なんじゃないかって私は思うんだ。だから――」


 そう言って葵さんが笑う。申し訳なさそうな、それでいて懇願(こんがん)するような笑顔で。


「悪いが、あいつらの事を頼む。お前がいてくれるから、私は安心で生徒会を抜けられる。いや、ホントマジで」


 私に、葵さんが言うような価値があるとは思えない。しかし、頼られれば力を貸そうとは思っている。だって私にとっても、あの二人は大切で可愛い後輩なのだから。

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