表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お砂糖を一欠片(改稿版)  作者: みゅう
第二章 大学の友人
15/66

第5話(3) 視線

 優子ちゃんと出会ったのは、入学して数日が()った頃だった。

 当時の私は同級生に知り合いがおらず、構内(こうない)を移動する時は大抵一人で行動していた。

 とはいえ、そんな生徒は五万といて、優子ちゃんもその中の一人だった。


 B(とう)一階にあるエントランス。そこを小柄(こがら)な少女が、不安そうな様子を隠そうともせずに歩いていた。辺りを必要以上に見渡したり手に持った何かと(にら)めっこしたりとにかく挙動不審(きょどうふしん)で、しかしどこか小動物チックで可愛らしい、そんな風貌(ふうぼう)だった。


「……」


 少し悩んだ末、私は少女に声を掛ける事にした。


「あのー」

「ひゃい!」


 背後から話し掛けたせいか、少女が驚いて飛び上がる。


 (おそ)(おそ)るといった感じに振り返った少女の顔には、緊張と恐れが入り混じった表情が浮かんでいた。


「大丈夫?」


 そのため私は、出来るだけ優しく聞こえるように心掛け、そう口にした。


「え? あの、はい。大丈夫……じゃないです」


 どうやら私の思惑は成功したようで、少女の表情は先程までとは違い、(やわ)らいだものになっていた。


「道に迷ってしまって……」

「どこに行きたいの?」


 雰囲気から一年生だと予想を立て、あえて敬語は(つか)わなかった。それに、こちらの方が安心感を覚えるだろうと思ったのだ。


「B棟の二〇三という教室なんですが……」

「二〇三? そこなら私も、今から向かうところだから一緒に行きましょ」

「え? いいんですか?」

「同じ場所に行くんだもの。いいに決まってるじゃない」


 逆に、ここで拒否する理由がない。仮にそんな事をする人がいたら、その人は間違いなく人でなしだろう。


「ありがとうございます。私、一年の大橋(おおはし)優子って言います」


 やはり、一年生だったか。まぁ、道に迷っていた事から、ほぼほぼ確信は持っていたが。


「私は高梨(たかなし)みどり。同じく一年生よ。よろしくね」

「え?」

「え?」


 今のは、何に対する驚きなのだろう。

 まさか私が年上に見えたとか? いや、この場合、それしかないか。


「いえ、なんでもありません。こちらこそよろしくお願いします、みどりさん」


 こうして私達は出会い、友達になった。


 第一印象のインパクトが強かったためか、優子ちゃんはそれからずっと私に対して敬語を遣っている。一度やんわりとその事を指摘した事もあるのだが、「この方が私には自然なので」と流されてしまった。

 私も別段迷惑しているわけではなかったので、それ以上、それ以降その話はしていない。

 ――そして、今に(いた)る、というわけだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ