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お砂糖を一欠片(改稿版)  作者: みゅう
第一章 物語の脇役
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第4話(3) 高校時代の

 駅前に誰が立っていた。制服に身を包んだ黒い長髪の女の子。


 もしかして……。


「静香ちゃん?」


 相手が完全に識別出来る所まで近付き、立ち止まると、私はその人物に声をそう掛ける。


 (からす)()れた羽根のように美しい長い黒髪、陶磁器(とうじき)のように白く(つや)のある肌、少し長めのスカートから伸びる曲線美には女性の私でも目を奪われる。顔立ちは整っているものの主張は激しくなく綺麗というよりかは可愛いより、スレンダーだが出る所は出ている。まさに理想を体現したかのような女の子だ。


「え? みどりさん? なんでここに?」


 私に気付いた静香ちゃんが、顔を輝かせこちらに寄ってくる。


「葵さんの所に行ってきたの」

「あぁ。私もたまに行くんですよ。今日は時間がなくて行きませんでしたけど」


 知っている。というか、本当はそれを見越して行ったのだが。


「そちらは?」


 静香ちゃんが私の背後に目をやり、そう尋ねてくる。


 あ、そっか。


「大学の同級生の大橋優子ちゃん。こちら、高校時代の後輩の姫城静香ちゃん」


 私の紹介を受け、二人が「どうも」と頭を下げ合う。


「お噂はかねがね」

「噂?」


 優子ちゃんの言葉に、静香ちゃんが首を傾げる。


「凄く優秀な後輩がいたって、葵さんと色々」

「そんな。お二人の助けがあったからこそです。今も周りの人に助けてもらってなんとか」


 本人はそう思っていないのだろうが、それは謙遜以外の何物でもなかった。彼女が優秀な事は、周りにいる人間が一番分かっている。とはいえ、人柄が良く人に助けてもらいやすいという側面も確かに彼女にはあるので、全くの嘘というわけではなかった。


「ところで静香ちゃんは、誰か待ってるの?」

「あ、はい。学校から駅まで一緒に来たんですけど、忘れ物をしたとかで戻ってるんです」

「ふーん。それで」


 私達は正門の方から駅にやってきたが、生徒の大半は裏門から学校に入る。そのためもあって、途中()れ違わなかったのだろう。


「もしかして、待ってるのって彼氏だったり?」

「――ッ」


 その一言で、静香ちゃんの顔が変わる。驚き、そして()じらうような表情に。


「なんでそれを。あ、葵さんですか?」

「ごめいとう」

「もぉ。あの人は」


 と言いつつ、静香ちゃんも然程不満には思っていないようだ。


 言い()らされるのは困るが、知られて困るような話ではないといったところだろうか。後は、葵さんなら仕方ないという、(あきら)めに近い気持ちもあるのかもしれない。


「ねぇ、彼氏さんってどんな人?」


 折角の機会とばかりに、私は静香ちゃんにそう尋ねる。


「え? なんです、急に」

「いや、気になっちゃって」


 こんな美少女を射止めた男の子の事、気にならないはずがない。


「どんなって、普通の子ですよ。背は少し高めだけど、特別筋肉質ってわけじゃないし、顔はまぁ格好いい方だと思いますが……」


 最後の顔の部分は言っていて恥ずかしかったのか、頬を赤らめ俯いてしまった。


 とはいえこの言い方、絶世の美少年やイケメンではないという事か。葵さんも普通の奴と評していたし。


「どういう経緯(けいい)で付き合い出したの? やっぱり向こうから告白されて?」

「えーっと。いえ、実は私から」

「そうなの?」


 意外、と言っていいのか。静香ちゃんのような美少女は、勝手に相手の方から好意を寄せてくるものだとばかり思っていた。


 そういえば、如月さんもアタックを掛けていたのはむしろ自分の方だと言っていたっけ。逆に、彼女達のような美少女と付き合うには、それくらい女性の側に好きになってもらわないと上手(うま)く行かないのかもしれない。


「もう、私の話はいいじゃないですか。みどりさんは最近どうなんです。喫茶店でバイト始めたって聞きましたよ」


 誰に? と聞くまでもない。葵さんだろう。


「ようやく少し慣れてきたかな。始めた当初は、勝手が分からなくて失敗ばかりだったけど」

「みどりさんでも失敗する事あるんですか」

「そりゃあるわよ。私、どっちかって言うと、不器用な方だし」

「あー。よく言ってましたね、それ。(はた)から見てる分には、全然分かりませんでしたけど」

「必死にそう見えないよう、頑張(がんば)ってたからね」


 大抵の事は、予習と復習でなんとかなる。まぁ、中にはもちろん、なんとかならない事もあるが。バイトのように。


 ――と、思わず二人で話し込んでしまった。今日は優子ちゃんもいるというのに。


 ちらりと優子ちゃんの方を伺う。

 幸いというべきか、優子ちゃんは静香ちゃんに見惚れており、退屈している様子は見受けられなかった。

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